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9.彼女の嫉妬と元カレとの再会
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しおりを挟む「ねぇ」と、俺は彼女の猫の脇を持って、抱き上げた。
正面から、じっと見つめる。
「これ、なんて種類の猫?」
「え?」
猫はタオル地で柔らかく、眠たいのか目を細めていて、目尻は垂れている。猫は丸くなって眠ると言うが、この猫は手も、足もだらしなくぶらぶらしている。いつもソファにいるからぬいぐるみだと思ったが、どうやら抱き枕らしい。
「どしたの?」と、麻衣さんがコーヒーのカップを二つ、テーブルに置いた。
どちらも白いマグカップだが、一つは黒のストライプ、一つは赤のストライプで、付き合い始めて一か月ほどで麻衣さんが用意してくれたお揃い。
真綾と再会して熱を出した日から、俺は二日と空けずに麻衣さんの家に来ている。
仕事帰りに顔を見るだけの時もあれば、一緒に飯を食う時もある。週末は泊まりもする。
が! まだ未挿入。
麻衣さんと付き合って三か月が経とうとしていた。
「よーく見ると、あんまり可愛くないよね」
「気づいたか」と言って、麻衣さんがフフンッと得意気に笑う。
「そうなの。この猫、見れば見るほど可愛いと思えなくなる、ブサかわ猫なの」
「なに、それ」
「真っ白でふわふわで、柔らかくて幸せそうな寝顔に一目惚れしたんだけど、よく見ると目が少し開いてるし、目の垂れ方が幸せそうって言うよりいやらしい感じだし、買った時はふわふわだったんだけど、しばらく抱いてたらボリュームがなくなってきて痩せてきちゃったし」
「それ、『かわ』の要素なくない? ブサイクってより、ザンネンな猫でしょ」
「ブサかわなの!」と、麻衣さんは俺から猫を奪って抱き締めた。
彼女なりのこだわりらしい。
「ま、顔についてはともかく、痩せちゃったのは麻衣さんのせいだよね」
「なんで!?」
「麻衣さんの胸に挟まれて押し潰されたら、かなりの圧だから」
「ひどっ!」
麻衣さんが口を尖らせて、俺を睨む。全く怖くないどころか、可愛すぎてその唇に吸いつきたくなる。
俺は無意識にゴクッと喉を鳴らして唾を飲んだ。
「胸は柔らかくて気持ちいいんだけどねぇ。なんせ、力が……」と、昂る欲望を誤魔化すようにおどけて笑う。
「そういうこと、言うんだ」
煽情的な唇はそのままに、彼女はフンッと鼻息を荒くして顔を背けた。
「今日は一緒に寝ない!」
亀による鶴の一声で、俺は彼女にずずいっと詰め寄り、訴えた。
「私の胸で窒息したら大変でしょ?」
「いや、それはそれで本望だから!」
「変態!」
麻衣さんは詰め寄る俺の顔に猫を押し付け、防御する。俺は猫をポイッとソファに放った。それから、彼女の胸に顔を埋めるように抱き着き、両手で腰を抱く。
「とにかく、やだ! 一緒に寝る!!」
「ちょ――! わかったから離れて!」
最近、気づいた。
麻衣さんは母性の塊のような人で、包容力が半端ない。要するに、甘えられることにめっぽう弱い。男としては若干、いや、かなり情けないとわかっているが、年下の強みを使わない手はない。
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