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8.彼の嫉妬と元カノとの再会
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「急いでいるわけでもないので、私は構いませんよ」
少しは、大人の余裕を見せられたろうか。
「麻衣さん!」
「私、あそこのカフェにいるから」と、百メートルほど先のカフェを指さす。
「え? ちょっと――」
「じゃあ、ごゆっくり」
慌てる鶴本くんを尻目に、私は遠藤さんに会釈した。
「真綾! 俺はお前に話なんか――」
興奮気味な彼の声を背中で聞いて、私はカフェを目指した。
別に、意地悪をしたわけではない。物分かりの良い振りをしたわけでもない。強いて言うなら、判断した。
言葉通り、私たちは目的地へ急いでいたわけではない。それどころか、目的地も決まっていない。
そもそも、私に嫉妬する資格なんて……。
とどのつまりがいじけたのだ。
鶴本くんと並んでお似合いの『友達』に。で、逃げた。大人ぶって、余裕ぶって。
彼女を呼び捨てにした。お前、と言った。
私は『さん』付けなのに。
……カッコ悪い。
私はカフェの一番奥の席を選んだ。窓際では、鶴本くんと遠藤さんの姿が見えるかもしれない。
二人がどんな話をしているのかなんて考えたくなくて、私はキャラメルマキアートを一口飲んで、スマホでネットニュースを読み始めた。何とか大臣の不倫疑惑や、なんと議員が秘書にパワハラで訴えられたとか、元音楽プロデューサーが歌手の妻と離婚調停中だとか。
中学生の頃、好きだったのになぁ。
私はミュージックアプリを開いて、そのプロデューサーと妻のグループの曲を検索した。古い曲だから、安価で配信されている。久し振りに聞きたくなって、購入ボタンをタップしようとした時、画面が陰った。
顔を上げると、鶴本くんが眉間に皺を寄せて私を見下ろしていた。
勝手にそばを離れた私に怒っているのだろう。
「話は終わったの?」
鶴本くんは正面のソファにドカッと腰を下ろした。
「注文、した?」
「なんで――」
「このグループ、知ってる?」と、私は彼の言葉を遮って、スマホの画面を見せた。
「は?」
「この曲、知ってる?」
「聞いたことあるけど……」
「何歳くらいの時?」
「え? わかんないけど、よくテレビで何十年代に流行った曲とかで流れない?」
だよね……。
このグループが流行ったのは二千年になる少し前。私は中学一年生で、初めて友達同士でカラオケに行き、このグループの歌を歌った。その頃、鶴本くんは小学生になっていたかどうか。
今更、か。
私はスマホをバッグに押し込み、カップに口をつけた。落ち込んでいる時やイライラしている時は、甘いものに限る。
「で? 話は終わったの?」
「ん」と、鶴本くんは少し口を尖らせて言った。
「なに、ふてくされてるの?」
「麻衣さんが勝手に――」
「友達なんでしょ?」
「――っ!」
鶴本くんが口を噤み、私から目を逸らした。足を組み、頬杖をつく。
「綺麗な女性だったね」
「……」
「あんなに綺麗な彼女、どうして振ったの?」
「振られたんだよ……っ――!」
少しは、大人の余裕を見せられたろうか。
「麻衣さん!」
「私、あそこのカフェにいるから」と、百メートルほど先のカフェを指さす。
「え? ちょっと――」
「じゃあ、ごゆっくり」
慌てる鶴本くんを尻目に、私は遠藤さんに会釈した。
「真綾! 俺はお前に話なんか――」
興奮気味な彼の声を背中で聞いて、私はカフェを目指した。
別に、意地悪をしたわけではない。物分かりの良い振りをしたわけでもない。強いて言うなら、判断した。
言葉通り、私たちは目的地へ急いでいたわけではない。それどころか、目的地も決まっていない。
そもそも、私に嫉妬する資格なんて……。
とどのつまりがいじけたのだ。
鶴本くんと並んでお似合いの『友達』に。で、逃げた。大人ぶって、余裕ぶって。
彼女を呼び捨てにした。お前、と言った。
私は『さん』付けなのに。
……カッコ悪い。
私はカフェの一番奥の席を選んだ。窓際では、鶴本くんと遠藤さんの姿が見えるかもしれない。
二人がどんな話をしているのかなんて考えたくなくて、私はキャラメルマキアートを一口飲んで、スマホでネットニュースを読み始めた。何とか大臣の不倫疑惑や、なんと議員が秘書にパワハラで訴えられたとか、元音楽プロデューサーが歌手の妻と離婚調停中だとか。
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私はミュージックアプリを開いて、そのプロデューサーと妻のグループの曲を検索した。古い曲だから、安価で配信されている。久し振りに聞きたくなって、購入ボタンをタップしようとした時、画面が陰った。
顔を上げると、鶴本くんが眉間に皺を寄せて私を見下ろしていた。
勝手にそばを離れた私に怒っているのだろう。
「話は終わったの?」
鶴本くんは正面のソファにドカッと腰を下ろした。
「注文、した?」
「なんで――」
「このグループ、知ってる?」と、私は彼の言葉を遮って、スマホの画面を見せた。
「は?」
「この曲、知ってる?」
「聞いたことあるけど……」
「何歳くらいの時?」
「え? わかんないけど、よくテレビで何十年代に流行った曲とかで流れない?」
だよね……。
このグループが流行ったのは二千年になる少し前。私は中学一年生で、初めて友達同士でカラオケに行き、このグループの歌を歌った。その頃、鶴本くんは小学生になっていたかどうか。
今更、か。
私はスマホをバッグに押し込み、カップに口をつけた。落ち込んでいる時やイライラしている時は、甘いものに限る。
「で? 話は終わったの?」
「ん」と、鶴本くんは少し口を尖らせて言った。
「なに、ふてくされてるの?」
「麻衣さんが勝手に――」
「友達なんでしょ?」
「――っ!」
鶴本くんが口を噤み、私から目を逸らした。足を組み、頬杖をつく。
「綺麗な女性だったね」
「……」
「あんなに綺麗な彼女、どうして振ったの?」
「振られたんだよ……っ――!」
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