【ルーズに愛して】私の身体を濡らせたら

深冬 芽以

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8.彼の嫉妬と元カノとの再会

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 鶴本くんの表情で、彼女が単なる友達でなかったことはわかった。

 そうでなくても、察しはついた。

 鶴本くんを『駿介』と呼び、鶴本くんに『真綾まあや』と呼ばれる女性。

 年は鶴本くんと同じくらいで、身長は十センチくらいありそうなヒールで並ぶと、鶴本くんより五センチくらい低い。身体のラインを強調するオフホワイトのVネックのリブニットにタイトなジーンズと、ダークグレーのチェスターコート。栗色の髪を無造作に束ねて毛先はくりんと揺れている。ナチュラルメイクなのに、瞳はパッチリ大きくて、まつ毛も長い。



 格好いい……。



 私の好みタイプだ。

 呼び止められて振り返った鶴本くんは、繋いでいた私の手を離した。振り払われたとかじゃない。ただ、ギュッと握ってくれていた手から力が抜け、私もしがみつこうとはせずに、すっと離れた。

「久し振り」

「ああ……」

「元気?」

「……ああ」

 私は無意識に一歩後退った。絵になる二人と並びたくなかった。

 そう思ったのは、いつも肩を並べている鶴本くんが、別人のように見えたから。

 私の前での鶴本くんは、実際に年下だから当然だけれど、ワンコ系の弟タイプ。けれど、真綾と呼んだ女性を見る目は、キリッとしていて大人の男性を匂わせた。心なしか、背筋も伸びていて胸を張っている。

「駿介が飲み会に来ないのは私のせい……ってみんなに言われてるけど、勘違いだったみたいね?」と言いながら、彼女の視線が私に下りた。

「こんにちは」

 視線や口調でわかる。彼女は私を同年代か少し年上くらいに見ている。

 サラッと流せばいいのに、三十を過ぎたあたりから流せなくなった。だから、相手が鶴本くんと親しい女性だから、というわけではない。

「こんにちは」と、私は営業スマイルで言った。

 私はよく、仕事とプライベートの顔が違うと言われる。童顔だからと、仕事でも舐められるのが嫌で身に着けた顔。とは言っても、実年齢くらいに見られるってだけ。

「鶴本くんの同僚の亀谷麻衣です」

 私が軽く会釈したところで気が付いたらしく、鶴本くんが先を続けた。

「麻衣さん。彼女は大学時代の友人の遠藤えんどう真綾さん」

 お行儀よく紹介されたことが意外だったのか、遠藤さんも慌てて会釈をした。

 遠藤さんは、私が自分に嫉妬でもすると思ったのだろう。確かに、七年前の私ならば、恋人の元カノと遭遇して、こんなに冷静に挨拶など出来なかったかもしれない。



 頬を膨らませて彼の腕にしがみつきでもしたら、可愛げがあったのかも。



 ほんの一瞬想像して、恥ずかしくなった。

「あの、亀谷さん」と、遠藤さんがずいっと私に近づいた。

「はい」

「駿介と、少し話をさせてもらっていいですか?」

 わざわざ私に許可を取るなんて、なんてお行儀がいいのか。それとも、見下されているのか。

「俺は話なんて――」

「どうぞ」と、私は鶴本くんの言葉を遮った。
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