【ルーズに愛して】私の身体を濡らせたら

深冬 芽以

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8.彼の嫉妬と元カノとの再会

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 額をぐりぐりと肩に押し付けたり、耳朶を軽く噛んだりしながら、聞かれた。

 けれど、その内容は全く頭に入ってこない。

「いつ帰って来れんの」

「鶴本くん」

「南事務所の方が居心地良くなっちゃった?」

「鶴本くん!」

「なに?」

「押し付けないで……」

 腰のあたりで存在感を現し、それを私に知らしめんと押し付け、擦りつけられ、ソコに意識が集中する。

「ごめん」

 そうは言っても、鶴本くんは腰を揺らすのをやめない。

「ちょ……まっ――」

 身体が火照り、このまま流されてもいいんじゃないかと思えた時、唐突に解放された。

「ごめん!」

「え?」

「調子に乗り過ぎました」と言うと、くるりと背を向けた。

「トイレ、借ります」

 あのままでは食事どころではないだろう。

 私はパタパタとキッチンに行き、さっきまで火にかけていた鍋に、再び点火した。

 身体が熱いのは、火のそばにいるせい。鶴本くんに触れられて、興奮したからじゃない。

 鍋の水がコポコポと音を立て始めた時、リビングのドアが開いた。

「ちゃんと、手、洗って」

「はい……」

 鶴本くんはキッチンの横のドアをスライドし、洗面所で手を洗う。

 私は鶴本くんに座っているように言い、パスタを茹で、サラダと一緒にテーブルに運んだ。鶴本くんは、いつものように猫のぬいぐるみを抱き締めている。よほど気に入ったらしい。

「これ、ホントに缶詰?」

 パスタをフォークに絡めながら、聞いた。

「うん」

「俺も缶詰使ってパスタ作るけど、こんなに具沢山の缶詰なんてある?」

「ああ。缶詰にひき肉と野菜を足してるから」

「へぇ……」

 鶴本くんはフォークに巻き付けたパスタが落ちないように、素早く口に運んだ。

「んまい」

「そ? 良かった」

「ほれ、んにはいってんの?」

 口をもごもごさせながら、聞く。

「ひき肉と、玉ねぎと人参とピーマンのみじん切り」

「へ、ほんれるね」

「なに、言ってるの?」と、私は笑った。

 子供みたい、と思うことが多い。

 そして、そんな彼を見ていると、穏やかな気持ちになれる。

「缶詰をこんなに美味くできるとか、すごいね」と、鶴本くんがアイスコーヒーを一口飲んでから言った。

 ビールがあると言ったけれど、鶴本くんは断った。

「ありがと」

 鶴本くんの口に合ったようで、二人前をぺろりと食べた。

 私はいつも多めにパスタを茹でて、翌日の朝にも食べる。およそ二人前のミート缶に肉や野菜、ケチャップと茹で汁を足すと、どうしても三人分のソースが出来上がる。



 次からは、四人前のミート缶を買わなきゃ。



 私は翌日のパスタに、とろけるチーズをのせてオーブンで焼くのが好きだった。

 鶴本くんも気に入ってくれると思う。

 食べながら、鶴本くんは南事務所の様子を聞いた。余程気になっているらしく、細かく。

「南にいる方が、仕事しやすい?」

 ごちそうさま、の後で、そう聞かれた。

 さっきも言っていた。

『南事務所の方が居心地良くなっちゃった?』
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