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7.面倒な女心、複雑な男心
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「今日、行けなかった映画、明日行きませんか?」
『行けなかった』のは鶴本くんで、私はその理由も知らない。
胸の奥のじくじくが、ちくちくに変わっていく。
「無理しなくて、いいよ」
「え?」
思わず口をついた苛立ちに、ハッとした。
すごく、投げやりな言い方をしてしまった。
「ううん? 公開したばっかりだし、急がなくてもいいよ? 先週末も一緒に出掛けたし、明日はゆっくり――」
「麻衣さん」
鶴本くんの低い声に、全身が寒くなる。
なのに、それを誤魔化すように、私はパクパクとアイスを口に運ぶ。
「早く食べないと、アイス溶けるよ?」
「俺、無理なんかしてない。麻衣さんに会いたいから、そう言ってるだけだよ。それに、麻衣さんは明後日からしばらく南に行くんだし――」
「けど――!」
けど、もう帰るんでしょう――?
そんなこと、言えない。
私は彼より七歳も年上で、なのに勿体つけるように身体は開けなくて、それでいてキスさえしてもらえないことが不満で、不安だなんて、言えない。
ただでさえ甘え下手なのに、鶴本くんが相手じゃ尚更素直になんてなれない。
「なに?」
「なんでもない」
私のアイスは見る見る間に減っていき、鶴本くんのアイスは見る見る間に溶けていく。
私はストロベリー、鶴本くんはバニラ。
「麻衣さん!」
「なんでもないってば!」
鶴本くんがムキになるから、私もつい語尾がきつくなってしまった。
こんな面倒臭い感情、久し振り過ぎて持て余す。上手く消化する方法を知っていたはずなのに、思い出せない。
イライラ、イライラ……。
「なに、怒ってんの?」
「怒ってない」
イライラ、ムカムカ……。
「いや、怒ってるでしょ」
「怒ってないってば!」
ムカムカ、ムカムカ……。
「麻衣さ――」
「しつこい!!」
豪快に言い放ってしまった。
鶴本くんの驚いたような、傷ついたような表情を直視できず、私は立ち上がった。
「ご馳走さま」
空のカップとスプーンを持ってキッチンに逃げた。
「ほら、食べたら帰るんでしょう?」
自分の口を縫ってやりたい。
こんな、可愛くない女、私なら絶対嫌だ。
謝り方も、甘え方も忘れかけているくせに、意地の張り方だけはしっかり覚えているなんて、本当に面倒臭い。
「子ども扱い、すんな」
声で、鶴本くんが怒っているのがわかった。じっと見られているのもわかっていたけれど、目を合わせる勇気はなかった。
「言いたいことがあるなら言えよ。察するとか出来なくても、言われたことを理解することは出来る!」
「子ども扱いなんて――」
「じゃあ、言えよ! こっちは嫌われたくなくて必死なんだよ。怒らせるようなこと、心当たりあり過ぎてわかんねーよ!」
…………!?
びっくりして、思わず顔を上げてしまった。
鶴本くんは、怒っているというより、泣きそうにも見える表情。
「手土産はアイスじゃない方が良かったかな、とか、さっき胸触ろうとしたからか、とか、野菜は皿を別にしてほしいとか文句を言ったせいか、とか――」
……はい?
「ぬいぐるみの匂い嗅いでたのキモかったから、とか、麻衣さんのエプロン姿に反応したのバレたかな、とか――」
……匂い?
……エプロン?
「はぁ!?」
自分の声にびっくりした。
今日の映画をキャンセルされた理由、とか、ご飯だけ食べてさっさと帰ろうとする理由、とか、この二週間キスもしてくれない理由、とか、考えていた自分が恥ずかしくなる。
これは……もしかして……。
『行けなかった』のは鶴本くんで、私はその理由も知らない。
胸の奥のじくじくが、ちくちくに変わっていく。
「無理しなくて、いいよ」
「え?」
思わず口をついた苛立ちに、ハッとした。
すごく、投げやりな言い方をしてしまった。
「ううん? 公開したばっかりだし、急がなくてもいいよ? 先週末も一緒に出掛けたし、明日はゆっくり――」
「麻衣さん」
鶴本くんの低い声に、全身が寒くなる。
なのに、それを誤魔化すように、私はパクパクとアイスを口に運ぶ。
「早く食べないと、アイス溶けるよ?」
「俺、無理なんかしてない。麻衣さんに会いたいから、そう言ってるだけだよ。それに、麻衣さんは明後日からしばらく南に行くんだし――」
「けど――!」
けど、もう帰るんでしょう――?
そんなこと、言えない。
私は彼より七歳も年上で、なのに勿体つけるように身体は開けなくて、それでいてキスさえしてもらえないことが不満で、不安だなんて、言えない。
ただでさえ甘え下手なのに、鶴本くんが相手じゃ尚更素直になんてなれない。
「なに?」
「なんでもない」
私のアイスは見る見る間に減っていき、鶴本くんのアイスは見る見る間に溶けていく。
私はストロベリー、鶴本くんはバニラ。
「麻衣さん!」
「なんでもないってば!」
鶴本くんがムキになるから、私もつい語尾がきつくなってしまった。
こんな面倒臭い感情、久し振り過ぎて持て余す。上手く消化する方法を知っていたはずなのに、思い出せない。
イライラ、イライラ……。
「なに、怒ってんの?」
「怒ってない」
イライラ、ムカムカ……。
「いや、怒ってるでしょ」
「怒ってないってば!」
ムカムカ、ムカムカ……。
「麻衣さ――」
「しつこい!!」
豪快に言い放ってしまった。
鶴本くんの驚いたような、傷ついたような表情を直視できず、私は立ち上がった。
「ご馳走さま」
空のカップとスプーンを持ってキッチンに逃げた。
「ほら、食べたら帰るんでしょう?」
自分の口を縫ってやりたい。
こんな、可愛くない女、私なら絶対嫌だ。
謝り方も、甘え方も忘れかけているくせに、意地の張り方だけはしっかり覚えているなんて、本当に面倒臭い。
「子ども扱い、すんな」
声で、鶴本くんが怒っているのがわかった。じっと見られているのもわかっていたけれど、目を合わせる勇気はなかった。
「言いたいことがあるなら言えよ。察するとか出来なくても、言われたことを理解することは出来る!」
「子ども扱いなんて――」
「じゃあ、言えよ! こっちは嫌われたくなくて必死なんだよ。怒らせるようなこと、心当たりあり過ぎてわかんねーよ!」
…………!?
びっくりして、思わず顔を上げてしまった。
鶴本くんは、怒っているというより、泣きそうにも見える表情。
「手土産はアイスじゃない方が良かったかな、とか、さっき胸触ろうとしたからか、とか、野菜は皿を別にしてほしいとか文句を言ったせいか、とか――」
……はい?
「ぬいぐるみの匂い嗅いでたのキモかったから、とか、麻衣さんのエプロン姿に反応したのバレたかな、とか――」
……匂い?
……エプロン?
「はぁ!?」
自分の声にびっくりした。
今日の映画をキャンセルされた理由、とか、ご飯だけ食べてさっさと帰ろうとする理由、とか、この二週間キスもしてくれない理由、とか、考えていた自分が恥ずかしくなる。
これは……もしかして……。
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