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7.面倒な女心、複雑な男心
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鶴本くんの掌が、私の肩から腕に下りてくる。それから、ゆっくりと横に移動した。
胸を触れられる、とわかった。
ほんの少し身構えて、その時をじっと待っている自分に驚いた。
鶴本くんはきっと、私が彼の手から逃れる時間を与えてくれている。そう出来るように、わざとわかりやすく、ゆっくりと腕を解いていく。
「所長に……何を言ったの?」
「志望動機を聞かれたから、『たった今、一目惚れしました』って言った」
「嘘……」
彼の掌が、胸をなぞる。触れるか触れないか、ギリギリ。
触れそうで、触れない。
その掌の気配が、やけにいやらしく感じた。もどかしくも。
「ホント。俺って正直でしょ?」
「なら、正直に、この手を離すのと、焦げてないハンバーグなら、どっちがいい?」
鶴本くんが、パッと私から手を離した。
「ハンバーグで!」
自分で聞いておきながら、その答えに少しムッとした。
色気より食い気か――。
別にいいのだけれど、ハンバーグに負けたと思うと、悔しい。
別に、いいのだけれど。
「じゃ、食べよ」
スクエアの皿半分にシャキシャキのレタスとキャベツを盛り、その横にハンバーグを載せる。
「ストップ!」
もう一枚の皿にハンバーグを載せようとしたら、鶴本くんがフライパンを持つ私の手を掴んだ。
「なに?」
「野菜とハンバーグ、別の皿にして欲しいなぁ?」
「え?」
「熱でぺちゃっとなった野菜、好きじゃなくて……」
「ああ」
私は野菜をサラダボウルに移し、スクエアの皿にはハンバーグだけを載せた。鶴本くんの希望で、二つ。
とんかつの時もキャベツは別の方がいいのかな?
なんてことを考えた。
「美味い!」
鶴本くんは本当に美味しそうに食べてくれた。
料理は好きだけど、一人分となると作る気にはなれなくて、最近はお弁当の為に少し作る程度だった。だから、こうして一緒に食べてくれる人がいるのは、嬉しい。
思えば、手料理を振舞うなんて恋人らしいことをしてあげたいと思った恋人は、久し振り。前に、こうして私の手料理を美味しいと言って食べてくれた彼とは、今思い出しても胸が痛むような別れ方をした。
その彼は、セックスに関しては癖があったけれど、それ以外は普通だった。
電器店の販売員をしていて、家電に詳しかった。誕生日プレゼントにダ〇ソンの掃除機を貰った時は、驚いた。
「これ食べたら、帰ります」
ハンバーグの後の、デザートのアイスを一口食べた時、鶴本くんが言った。
アイスは、鶴本くんが持って来てくれた、ハー〇ンダッツ。たくさん種類があって迷ったらしく、違う味で六つも買って来てくれた。
「うん?」
十九時四十分。
まだ、と言っていい時間。
今日は、映画を観てから私の家でご飯を食べることになっていたのに、今朝になって夕方に直接私の家に来ると電話がきた。ハッキリと理由を言わなかったから、私も聞かなかった。
胸の奥がじくじく疼く。
胸を触れられる、とわかった。
ほんの少し身構えて、その時をじっと待っている自分に驚いた。
鶴本くんはきっと、私が彼の手から逃れる時間を与えてくれている。そう出来るように、わざとわかりやすく、ゆっくりと腕を解いていく。
「所長に……何を言ったの?」
「志望動機を聞かれたから、『たった今、一目惚れしました』って言った」
「嘘……」
彼の掌が、胸をなぞる。触れるか触れないか、ギリギリ。
触れそうで、触れない。
その掌の気配が、やけにいやらしく感じた。もどかしくも。
「ホント。俺って正直でしょ?」
「なら、正直に、この手を離すのと、焦げてないハンバーグなら、どっちがいい?」
鶴本くんが、パッと私から手を離した。
「ハンバーグで!」
自分で聞いておきながら、その答えに少しムッとした。
色気より食い気か――。
別にいいのだけれど、ハンバーグに負けたと思うと、悔しい。
別に、いいのだけれど。
「じゃ、食べよ」
スクエアの皿半分にシャキシャキのレタスとキャベツを盛り、その横にハンバーグを載せる。
「ストップ!」
もう一枚の皿にハンバーグを載せようとしたら、鶴本くんがフライパンを持つ私の手を掴んだ。
「なに?」
「野菜とハンバーグ、別の皿にして欲しいなぁ?」
「え?」
「熱でぺちゃっとなった野菜、好きじゃなくて……」
「ああ」
私は野菜をサラダボウルに移し、スクエアの皿にはハンバーグだけを載せた。鶴本くんの希望で、二つ。
とんかつの時もキャベツは別の方がいいのかな?
なんてことを考えた。
「美味い!」
鶴本くんは本当に美味しそうに食べてくれた。
料理は好きだけど、一人分となると作る気にはなれなくて、最近はお弁当の為に少し作る程度だった。だから、こうして一緒に食べてくれる人がいるのは、嬉しい。
思えば、手料理を振舞うなんて恋人らしいことをしてあげたいと思った恋人は、久し振り。前に、こうして私の手料理を美味しいと言って食べてくれた彼とは、今思い出しても胸が痛むような別れ方をした。
その彼は、セックスに関しては癖があったけれど、それ以外は普通だった。
電器店の販売員をしていて、家電に詳しかった。誕生日プレゼントにダ〇ソンの掃除機を貰った時は、驚いた。
「これ食べたら、帰ります」
ハンバーグの後の、デザートのアイスを一口食べた時、鶴本くんが言った。
アイスは、鶴本くんが持って来てくれた、ハー〇ンダッツ。たくさん種類があって迷ったらしく、違う味で六つも買って来てくれた。
「うん?」
十九時四十分。
まだ、と言っていい時間。
今日は、映画を観てから私の家でご飯を食べることになっていたのに、今朝になって夕方に直接私の家に来ると電話がきた。ハッキリと理由を言わなかったから、私も聞かなかった。
胸の奥がじくじく疼く。
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