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6.女子会
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「こんにちは」と、鶴本くんも挨拶をする。
あきらと龍也が、鶴本くんを質問攻めにしたりしないように祈った。
「鶴本くん……よね?」
「はい。鶴本駿介です」と、礼儀正しく挨拶をした。
「麻衣の友達の桑畠あきらです」
「谷龍也です」
なんとなく、通路の端に寄る。
「二人はどこに行くの?」
私は、鶴本くんより一歩前に出て、聞いた。
「電機屋」と、龍也が答えた。
「え!? 一緒に?」
珍しいな、と思った。
「ん。目的地が一緒だったから」と、今度はあきらが答えた。
「あ、そうなんだ」
「ついでに、忘年会の店も決めようかと思って」
あきらと龍也は、忘年会の幹事だ。
「そっか!」と言った私の声が、やけに高く響いた。
「じゃ、明日ね」と、あきらが言った。
ホッとした。
「明日?」と、龍也。
「女子会するの。四人で」
「そうなんだ」
「あ、じゃあ、行こうか」と、私は鶴本くんを見上げて言った。
私と鶴本くん、あきらと龍也がすれ違って別れようとした時、龍也が鶴本くんを呼び止めた。そして、驚くべき一言を発した。
「鶴本くんは巨乳好きなの?」
周囲には聞こえない、けれど私たちには聞こえる声で。
私はギョッとした。
「それとも、コスプレ好き?」
龍也が、他人に挑戦的なことを言うのは珍しい。
「違います!」と、鶴本くんが言った。
「俺は、麻衣さんが好きなんです」
きっぱり。
嬉しかった。素直に。
「そっか。なら、いいよ」と、龍也が言った。
「なんで龍也がOK出すのよ」と、あきらが龍也の腕を軽くパンチしながら言った。
「何となく?」と、龍也がおどけて笑う。
きっと、あきらも龍也も鶴本くんを好きになってくれたと思う。
「鶴本くん。一方的に麻衣さんを傷つけるようなことがあったら、おっかないお兄さん三人が黙ってないから」
「ちょっと、龍也!」
脅迫まがいの言葉に、焦る。
「やめてよ、変なこと言うの」
「本気だよ。俺じゃなくても、大和さんも陸さんも、きっと同じことを言うよ」
「鶴本くん、脅しじゃないよ? OLCの男どもは麻衣のことを溺愛してるからね。実際、麻衣を泣かせた男を締め上げたこともあるし」
あきらまで。
確かに、大学時代にSM好きの彼のことを相談したら、今すぐ別れろと大和たちが彼に詰め寄ったことがあった。
「だ、大丈夫です! 泣かされるのは……俺の方だと思うんで……」
ははは、と鶴本くんが少し情けない顔で笑った。
見ていられない。
「もうっ! 龍也もあきらも物騒なこと言わないで」
「はいはい。じゃ、ね」と、あきらが言った。
「行こう、龍也」
「ん。あ、ちょい待ち」
龍也が鶴本くんに近づき、耳元で何か囁いた。
私には聞こえなかった。
チラッと、鶴本くんが私を見た。
「じゃ」
私とあきらは互いに手を振って、別れた。
「龍也に何を言われたの?」
エスカレーターで、聞いた。
「麻衣さん、焼肉好き?」
「え? うん」
「そうですか……」
家を出てからずっとため口だったのに、急に敬語になった。
「どうしたの?」
「あの人、麻衣さんの事よく知ってるんですね」
「付き合い長いからね」
「気取った店より焼肉の方が麻衣さんは喜ぶ、って教えてくれました」
龍也らしい。
「焼肉、行きますか?」
「え? あ、うん。あ! 今日は……」
「なに?」
「服、白だから汚したくないかな」
「服、買ってあげます」
「はい?」
「んで、焼肉行こう」
エスカレーターを降りると、鶴本くんが私の手を握って歩き出した。
その手を、振りほどこうとは思わなかった。
きっと明日、みんなに質問攻めになれるな……。
あきらが言わなくても、私から話してしまう気がした。
あきらと龍也が、鶴本くんを質問攻めにしたりしないように祈った。
「鶴本くん……よね?」
「はい。鶴本駿介です」と、礼儀正しく挨拶をした。
「麻衣の友達の桑畠あきらです」
「谷龍也です」
なんとなく、通路の端に寄る。
「二人はどこに行くの?」
私は、鶴本くんより一歩前に出て、聞いた。
「電機屋」と、龍也が答えた。
「え!? 一緒に?」
珍しいな、と思った。
「ん。目的地が一緒だったから」と、今度はあきらが答えた。
「あ、そうなんだ」
「ついでに、忘年会の店も決めようかと思って」
あきらと龍也は、忘年会の幹事だ。
「そっか!」と言った私の声が、やけに高く響いた。
「じゃ、明日ね」と、あきらが言った。
ホッとした。
「明日?」と、龍也。
「女子会するの。四人で」
「そうなんだ」
「あ、じゃあ、行こうか」と、私は鶴本くんを見上げて言った。
私と鶴本くん、あきらと龍也がすれ違って別れようとした時、龍也が鶴本くんを呼び止めた。そして、驚くべき一言を発した。
「鶴本くんは巨乳好きなの?」
周囲には聞こえない、けれど私たちには聞こえる声で。
私はギョッとした。
「それとも、コスプレ好き?」
龍也が、他人に挑戦的なことを言うのは珍しい。
「違います!」と、鶴本くんが言った。
「俺は、麻衣さんが好きなんです」
きっぱり。
嬉しかった。素直に。
「そっか。なら、いいよ」と、龍也が言った。
「なんで龍也がOK出すのよ」と、あきらが龍也の腕を軽くパンチしながら言った。
「何となく?」と、龍也がおどけて笑う。
きっと、あきらも龍也も鶴本くんを好きになってくれたと思う。
「鶴本くん。一方的に麻衣さんを傷つけるようなことがあったら、おっかないお兄さん三人が黙ってないから」
「ちょっと、龍也!」
脅迫まがいの言葉に、焦る。
「やめてよ、変なこと言うの」
「本気だよ。俺じゃなくても、大和さんも陸さんも、きっと同じことを言うよ」
「鶴本くん、脅しじゃないよ? OLCの男どもは麻衣のことを溺愛してるからね。実際、麻衣を泣かせた男を締め上げたこともあるし」
あきらまで。
確かに、大学時代にSM好きの彼のことを相談したら、今すぐ別れろと大和たちが彼に詰め寄ったことがあった。
「だ、大丈夫です! 泣かされるのは……俺の方だと思うんで……」
ははは、と鶴本くんが少し情けない顔で笑った。
見ていられない。
「もうっ! 龍也もあきらも物騒なこと言わないで」
「はいはい。じゃ、ね」と、あきらが言った。
「行こう、龍也」
「ん。あ、ちょい待ち」
龍也が鶴本くんに近づき、耳元で何か囁いた。
私には聞こえなかった。
チラッと、鶴本くんが私を見た。
「じゃ」
私とあきらは互いに手を振って、別れた。
「龍也に何を言われたの?」
エスカレーターで、聞いた。
「麻衣さん、焼肉好き?」
「え? うん」
「そうですか……」
家を出てからずっとため口だったのに、急に敬語になった。
「どうしたの?」
「あの人、麻衣さんの事よく知ってるんですね」
「付き合い長いからね」
「気取った店より焼肉の方が麻衣さんは喜ぶ、って教えてくれました」
龍也らしい。
「焼肉、行きますか?」
「え? あ、うん。あ! 今日は……」
「なに?」
「服、白だから汚したくないかな」
「服、買ってあげます」
「はい?」
「んで、焼肉行こう」
エスカレーターを降りると、鶴本くんが私の手を握って歩き出した。
その手を、振りほどこうとは思わなかった。
きっと明日、みんなに質問攻めになれるな……。
あきらが言わなくても、私から話してしまう気がした。
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