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6.女子会

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 玄関で待っていて、と言ったのに、私が着替えている間に鶴本くんはリビングのソファに座っていた。

「その服、可愛い」

 真っ白な袖がフレアのブラウスは、襟抜きになっていて、普段のスーツと違ってゆったりしたシルエット。それに、膝下丈のAラインスカート。買ってからあまりつける機会がなかったイニシャルのネックレスが、なんだかくすぐったい。

 別に、気合を入れてオシャレしたわけじゃない。断じて。

 鶴本くんがソファにあった、大きな猫のぬいぐるみを抱き締めた。

「これ、いいですね」

「柔らかくて気持ちいいでしょ?」

「これ、欲しいなぁ」

 ぬいぐるみを抱き締めて、ソファの上で膝を抱える鶴本くんは、子供のよう。

「じゃあ、ぬいぐるみ買いに行く?」

「新しいの買ってあげるから、これちょーだい」と、鶴本くんがぬいぐるみに顔を埋めて、上目遣いで私を見た。



 ヤバい、可愛い。



「私がすっごい気に入るのがあったら、ね」

 思えば、デートなんて何年もご無沙汰だった。少なくても、二年は確か。

 仕事ではよく並んで歩く。一緒に電車にも乗る。

 なのに、今日はそれが全部初めての事のように、緊張した。

 周囲からはどう見られるのだろう、とか。

 Vネックのニットにジャケット、ブラックジーンズ、いつもほど整えていない髪はうねって揺れている。



 今更だけど、不釣り合いだよね……。

 

 長身でスマートな鶴本くんと並ぶと、きっと私は実際より小さく丸く見える。

 そう思うと、真横には並べなくて。私は無意識に一歩後ろを歩いていた。

「あ、歩くの早い?」

 地下歩道を歩いている時、聞かれた。

「ううん?」

 私は答えた。

「えっと……」と、鶴本くんがうねった前髪を掻き上げながら言った。

「手、繋いでもいい?」



 手――。



 ほんの数秒間に、私の脳は仕事の時以上に目まぐるしく働いた。



 手を繋ぐということは並んで歩くことで、並んで歩くということは周囲に恋人だと示すことで、私は年上で、鶴本くんはイケメンで、私は丸くて、鶴本くんは――。



「そういうの、好きじゃない?」

 鶴本くんから言われてしまった。

「あ、うん。あんまり……」

「そっか」

 鶴本くんは左手をジーンズのポケットに入れた。

 私は、変わらず彼の一歩後ろを歩いた。

 そんな会話の後だったから、気まずかった。

 よりによって、こんなところで鉢合わせるなんて。

「買い物?」

 先に、口をついた。

「うん。麻衣も?」と聞きながら、あきらが鶴本くんを見た。

 飲み会で話が出たばかりだから、鶴本くんが、あの鶴本くんだとわかったと思う。

 龍也も。

「うん……」と、私は頷いた。

 飲み会で、鶴本くんとはあり得ない、と話した手前、気まずい。

「今日は偶然が重なるな」と、龍也が言った。

「俺とあきらも、さっきそこでバッタリ会ったんだよ」

 そう言って、龍也は親指をクイッと反らせて、来た道を指さした。

「そうなんだ」

「麻衣さんは、デート?」

「えっ!?」

 龍也に聞かれて、私の声が裏返った。

 鶴本くんが口を結んだのが、わかった。

 さっきの手のことといい、鶴本くんに嫌な思いをさせてばかりだ。

「前に話していた、後輩君でしょ?」

 あきらが鶴本くんを見た。

「こんにちは」
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