35 / 179
5.濡れない身体
6
しおりを挟む
鶴本くんは優しい。
恋愛感情抜きでも、きっと誰にでも優しい。
セックスするまでだけ優しかった、私の元カレたちとは違う。
「シャワー、借りるね」
私はシャワーを浴びて、昨日の服に着替えた。
浴室にあった女物のシャンプーや洗面台の化粧品を見ると、鶴本くんの妹さんとの年齢差を感じた。
当然か。
私と鶴本くんで七歳違う。必然的に私と彼の妹さんとでは十歳近くかそれ以上離れている。
私も二十代前半はこういうの使ってたなぁ……。
三十歳を過ぎた頃から、化粧品にお金をかけるようになった。肌に優しいとか、美白とか乾燥肌用とか、気にするようになった。
いくら若く見えても、身体はそうじゃないんだよな。
シャワーを浴びていた数十分間で、ベッドは整えられ、朝食が出来ていた。
コーヒーとシリアルとヨーグルト。
「すいません、こんなんしかなくて」
「ううん。私こそ、ごめんね。迷惑かけて。あ、洗濯するよ? シーツとか――」
「大丈夫です!」
全力で拒否されて、私の勘が働いた。
「嫌な予感がするんだけど」
「何がです?」
私は布団をめくり、シーツを剥がそうとした。
「ダメダメ!」
鶴本くんが阻止しようとシーツを押さえ、私たちはシーツを引っ張り合う格好になった。
「何がダメなの」
「……シーツの替え! ないんで」
「夜までに乾くわよ。何なら、お詫びに新しいのを買って――」
「結構です!」
「けど、私昨日酔ってたから、お酒臭かったしシャワーも――」
「それがいいんです!」
鶴本くんが思いっきり引っ張り、私はシーツが破けるんじゃないかと思って、手を離した。鶴本くんがシーツを丸めて抱える。
子供が大切なおもちゃを取られないように抱えているよう。
私は両手を腰に当て、仁王立ちした。
「Hなことに使うつもりじゃないでしょうね」
「使いませんよ!」
「じゃあ、どうしてそんなに洗うの嫌がるのよ」
「……」
鶴本くんが気まずそうに視線を逸らす。
「鶴本くん!」
「麻衣さんの匂いで、さっきの夢の続きが見られるかもしれないじゃないですか」
やけくそのように言った。軽く、涙目で。
匂いだの夢だのと、くだらないことで必死になっている姿が、可笑しい。
「……変態」
「はぁ? どこがですか! 好きな人の匂い嗅ぎたいとか、好きな人の夢が見たいとか、普通に思うことでしょ」
「思っても本人に言う?」
「言わせたのは麻衣さんでしょ」
「とにかく! シーツは洗います!」
「ダメです!」
「鶴本くん!」
見つめ合い、もとい、睨み合い、数秒。
鶴本くんがまた、悪い顔をした。
嫌な予感。
「洗うから、俺の頼みを聞いてください」
「は?」
「麻衣さん家、行きたい」
「はい?」
「麻衣さん家で、お家デートしたい」
お家デート!?
急に甘えた口調で言われ、私は返事に困った。
デート……とかする……んだ?
そういえば、私の不感症を治せるかの一年間、私たちの関係は?
恋愛感情抜きでも、きっと誰にでも優しい。
セックスするまでだけ優しかった、私の元カレたちとは違う。
「シャワー、借りるね」
私はシャワーを浴びて、昨日の服に着替えた。
浴室にあった女物のシャンプーや洗面台の化粧品を見ると、鶴本くんの妹さんとの年齢差を感じた。
当然か。
私と鶴本くんで七歳違う。必然的に私と彼の妹さんとでは十歳近くかそれ以上離れている。
私も二十代前半はこういうの使ってたなぁ……。
三十歳を過ぎた頃から、化粧品にお金をかけるようになった。肌に優しいとか、美白とか乾燥肌用とか、気にするようになった。
いくら若く見えても、身体はそうじゃないんだよな。
シャワーを浴びていた数十分間で、ベッドは整えられ、朝食が出来ていた。
コーヒーとシリアルとヨーグルト。
「すいません、こんなんしかなくて」
「ううん。私こそ、ごめんね。迷惑かけて。あ、洗濯するよ? シーツとか――」
「大丈夫です!」
全力で拒否されて、私の勘が働いた。
「嫌な予感がするんだけど」
「何がです?」
私は布団をめくり、シーツを剥がそうとした。
「ダメダメ!」
鶴本くんが阻止しようとシーツを押さえ、私たちはシーツを引っ張り合う格好になった。
「何がダメなの」
「……シーツの替え! ないんで」
「夜までに乾くわよ。何なら、お詫びに新しいのを買って――」
「結構です!」
「けど、私昨日酔ってたから、お酒臭かったしシャワーも――」
「それがいいんです!」
鶴本くんが思いっきり引っ張り、私はシーツが破けるんじゃないかと思って、手を離した。鶴本くんがシーツを丸めて抱える。
子供が大切なおもちゃを取られないように抱えているよう。
私は両手を腰に当て、仁王立ちした。
「Hなことに使うつもりじゃないでしょうね」
「使いませんよ!」
「じゃあ、どうしてそんなに洗うの嫌がるのよ」
「……」
鶴本くんが気まずそうに視線を逸らす。
「鶴本くん!」
「麻衣さんの匂いで、さっきの夢の続きが見られるかもしれないじゃないですか」
やけくそのように言った。軽く、涙目で。
匂いだの夢だのと、くだらないことで必死になっている姿が、可笑しい。
「……変態」
「はぁ? どこがですか! 好きな人の匂い嗅ぎたいとか、好きな人の夢が見たいとか、普通に思うことでしょ」
「思っても本人に言う?」
「言わせたのは麻衣さんでしょ」
「とにかく! シーツは洗います!」
「ダメです!」
「鶴本くん!」
見つめ合い、もとい、睨み合い、数秒。
鶴本くんがまた、悪い顔をした。
嫌な予感。
「洗うから、俺の頼みを聞いてください」
「は?」
「麻衣さん家、行きたい」
「はい?」
「麻衣さん家で、お家デートしたい」
お家デート!?
急に甘えた口調で言われ、私は返事に困った。
デート……とかする……んだ?
そういえば、私の不感症を治せるかの一年間、私たちの関係は?
0
お気に入りに追加
269
あなたにおすすめの小説
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

お酒の席でナンパした相手がまさかの婚約者でした 〜政略結婚のはずだけど、めちゃくちゃ溺愛されてます〜
Adria
恋愛
イタリアに留学し、そのまま就職して楽しい生活を送っていた私は、父からの婚約者を紹介するから帰国しろという言葉を無視し、友人と楽しくお酒を飲んでいた。けれど、そのお酒の場で出会った人はその婚約者で――しかも私を初恋だと言う。
結婚する気のない私と、私を好きすぎて追いかけてきたストーカー気味な彼。
ひょんなことから一緒にイタリアの各地を巡りながら、彼は私が幼少期から抱えていたものを解決してくれた。
気がついた時にはかけがえのない人になっていて――
表紙絵/灰田様
《エブリスタとムーンにも投稿しています》

溺愛ダーリンと逆シークレットベビー
葉月とに
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。
立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。
優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?
禁断溺愛
流月るる
恋愛
親同士の結婚により、中学三年生の時に湯浅製薬の御曹司・巧と義兄妹になった真尋。新しい家族と一緒に暮らし始めた彼女は、義兄から独占欲を滲ませた態度を取られるようになる。そんな義兄の様子に、真尋の心は揺れ続けて月日は流れ――真尋は、就職を区切りに彼への想いを断ち切るため、義父との養子縁組を解消し、ひっそりと実家を出た。しかし、ほどなくして海外赴任から戻った巧に、その事実を知られてしまう。当然のごとく義兄は大激怒で真尋のマンションに押しかけ、「赤の他人になったのなら、もう遠慮する必要はないな」と、甘く淫らに懐柔してきて……? 切なくて心が甘く疼く大人のエターナル・ラブ。
【ルーズに愛して】指輪を外したら、さようなら
深冬 芽以
恋愛
インテリアデザイナーの相川千尋《あいかわちひろ》は、よく似た名前の同僚で妻と別居中の有川比呂《ありかわひろ》と不倫関係にある。
ルールは一つ。
二人の関係は、比呂の離婚が成立するまで。
その意味を深く考えずに関係を始めた比呂だったが、今となっては本気で千尋を愛し始めていた。
だが、比呂の気持ちを知っても、頑なにルールを曲げようとしない千尋。
千尋と別れたくない比呂は、もう一つのルールを提案する。
比呂が離婚しない限り、絶対に別れない__。
【ルーズに愛して】シリーズ
~登場人物~
相川千尋《あいかわちひろ》……O大学ルーズサークルOG
トラスト不動産ホームデザイン部インテリアデザイン課主任
有川比呂《ありかわひろ》……トラスト不動産ホームデザイン部設計課主任
千尋の同僚
結婚四年、別居一年半の妻がいる
谷龍也《たにたつや》……O大学ルーズサークルOB
|Free Style Production《フリー スタイル プロダクション》営業二課主任
桑畠《くわはた》あきら……O大学ルーズサークルOG
市役所勤務、児童カウンセラー
小笠原陸《おがさわらりく》……O大学ルーズサークルOB
|Empire HOTEL《エンパイアホテル》支配人
小笠原春奈《おがさわらはるな》……陸の妻
|Empire HOTEL《エンパイアホテル》のパティシエ
新田大和《にったやまと》……O大学ルーズサークルOB
新田設計事務所副社長
五年前にさなえと結婚
新田《にった》さなえ……O大学ルーズサークルOG
新田大斗《にっただいと》……大和とさなえの息子
亀谷麻衣《かめやまい》……O大学ルーズサークルOG
楠行政書士事務所勤務
婚活中
鶴本駿介《つるもとしゅんすけ》……楠行政書士事務所勤務
エリート課長の脳内は想像の斜め上をいっていた
ピロ子
恋愛
飲み会に参加した後、酔い潰れていた私を押し倒していたのは社内の女子社員が憧れるエリート課長でした。
普段は冷静沈着な課長の脳内は、私には斜め上過ぎて理解不能です。
※課長の脳内は変態です。
なとみさん主催、「#足フェチ祭り」参加作品です。完結しました。
アダルト漫画家とランジェリー娘
茜色
恋愛
21歳の音原珠里(おとはら・じゅり)は14歳年上のいとこでアダルト漫画家の音原誠也(おとはら・せいや)と二人暮らし。誠也は10年以上前、まだ子供だった珠里を引き取り養い続けてくれた「保護者」だ。
今や社会人となった珠里は、誠也への秘めた想いを胸に、いつまでこの平和な暮らしが許されるのか少し心配な日々を送っていて……。
☆全22話です。職業等の設定・描写は非常に大雑把で緩いです。ご了承くださいませ。
☆エピソードによって、ヒロイン視点とヒーロー視点が不定期に入れ替わります。
☆「ムーンライトノベルズ」様にも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる