【ルーズに愛して】私の身体を濡らせたら

深冬 芽以

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4.秘密の関係

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「……まぁ、そんな感じ」と言って、私は彼から視線を逸らした。

 改めて聞かれると、恥ずかしい。

 ムニュッと両手で頬を挟まれて、私の視界に再び鶴本くんが映る。それも、近い。

「大事なことだから、ちゃんと答えてください」

「ひゃい」

 頬を挟まれたままで、変な返事をしてしまった。

「このままチューしていい?」

「ひぇ?」

 鶴本くんがにっこり笑う。

「めっちゃ、ぶさカワ」

 私は彼の手から顔を抜き、自分の手で頬を擦った。

「失礼な」

「――で?」

「なに?」

「具体的に、どうなったら治ったことになるんですか? 不感症」



 どうなったら……。



「挿れても痛くなかったら? イケたら?」

「まぁ……、うん。そんな感じ」

 今更、恥ずかしくなる。

「ちゃんと言ってくださいよ」

 何が悲しくて、土曜の朝、後輩の部屋で、自分のセックス事情を話さなきゃいけない。

「だから、そんな感じで――」

「確かめて、いいですか?」

「何を?」

「本当に不感症か」

「へ!?」

「いきなり挿れませんから」

 ワルそうな笑顔で、鶴本くんが私の耳朶を噛む。

「ちょ――、鶴本くん!」

「正確に現状を把握できていないと、解決できないでしょう?」

「だからって――」

 鶴本くんの左手が私の腰を抱いて離さない。右手は首筋をなぞる。

 ゾクゾクする。

「鶴本くん、ストップ!」

 押し退けようとしても、ビクともしない。

 鶴本くんの右手が鎖骨をなぞり、胸へと下りていく。

「鶴本くん!」

「こうやって触られても、何とも思わない?」

 耳元で囁かれて、頭がボーっとする。

 こうして男の人に触れられるのは、二年振り。過去に、言葉攻めが好きな彼氏もいたけれど、発情期の犬のように息を切らして、放送禁止の卑猥な言葉を並べ立てただけ。

 嫌がる私を見て興奮したり、嫌がっているのも演技だと自分の都合よく受け取るような男ばかり。

 だから、こんな風に優しく扱われると、困る。

「麻衣さん……」

 鶴本くんの右手が胸の膨らみをなぞり、軽く揉んで、パッと離れた。

 それから、両腕できつく抱き締められた。

「麻衣さん……」

 触られるものと身構えていた私は、少し拍子抜けした。

「今は……無理そうなんで……」

「え?」

「途中でやめるの」

「……」

 男の人の身体はよくわからないけれど、寝起きに元気になっている状態で、Tシャツ一枚を着た女を前にして、それは一応好きな女で、その上抱き合っちゃったりなんかしたら、それはきっとツライんだろう。

「カッコわり……」

 鶴本くんが、私を大切に想ってくれていることは、わかっている。

 私は、鶴本くんの腕の中を心地良いと思っている。

 仮に、鶴本くんに身体を委ねて、一年後に不感症が治っていなくても、鶴本くんは気持ちを吹っ切れるだろうし、私も自分に諦めがつくのではないだろうか。



 少なくとも、絶対に手に入らない男性ひとへの想いは、断ち切れる――。


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