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4.秘密の関係
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しおりを挟むお酒の力は本当に恐ろしい。
酔いと眠気は、鶴本くんの告白で吹っ飛んだと思ったけれど、私はまだ正気な状態ではなかったようだ。
「私! ――不感症なの!!」
鶴本くんに抱き締められた時、彼が私に欲情しているのがわかった。だから、彼を諦めさせる言葉として『不感症』と言ったのは、効果的だったろう。
完全に弾みで言った言葉だけれど、結果オーライのはず。
それに、嘘ではない。
案の定、鶴本くんの下半身は急速に、その存在感を消していった。
「ええーーー……っと……」
鶴本くんが、言葉に困っている。
当然だ。
同僚としては気まずくなるだろうけれど、中途半端な返事はそれ以上に働きにくくするだけだと思う。
それに、若い鶴本くんにしてみたら、セックスも楽しめない年上女なんて、恋人にするメリットは微塵もないだろう。
「――そういうわけ……だから……」
私は鶴本くんの腕の中から逃れようと、身を捩った。が、腰を抱く彼の腕はびくともしない。
「けど、麻衣さん彼氏いたことありますよね?」と、鶴本くんが言った。
顔が、近い。
いくらいつも一緒にいたとはいえ、ここまで密着したことなんてない。
「あるけど……」
「今までの彼氏じゃ、感じなかったってことですか?」
自分から言い出したことだけれど、鶴本くんの口から言われると、恥ずかしさが倍増した。それも、この距離で。
「そういう……ことかな」
鶴本くんにじっと見つめられ、私は視線を逸らした。三十センチほどの距離で彼の顎を見つめる。夜も更けて、薄っすらと髭が伸びていた。
一緒に仕事をしているだけではわからなかった男らしい力強い腕や、胸板の厚さなんかに、ドキドキしてしまう。
「いつから?」
「え?」
「いつから不感症?」
後輩とのあり得ない会話に、身体が火照る。お酒が抜け切れていないせいか、目まで回ってきた。
「いつから……かな……。とにかく――」
「一度も?」
「え?」
「一度も感じたこと、ないんですか?」
二年前の、たった一度の幸せなひと時が思い出される。思い出して、身体が疼く。他の誰と何をしても快感より痛みや屈辱を感じていたのに、あの時だけは、ただひたすらに気持ち良くて、幸せだった。
「一度……だけ……」
言ってから、恥ずかしくなった。
何を、真面目に答えているんだ。
「鶴本くん、放して。私、もう――」
彼の腕を押してみても、びくともしない。
「その一度の相手は?」
「は?」
「別れたんですか?」
「……そういうんじゃ……ない……」
「――けど、好きだったんですよね?」
好き『だった』……?
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