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3.コンビ解散
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俺はふぅっと息を吐き、ネクタイを緩めた。
好きな女を負ぶっただけで息を切らしてるなんて、情けない。いや、これは酒のせいだ。
俺は台所で水を一杯飲み、ネクタイを解き、ワイシャツのボタンを二つ外して、玄関に戻った。
麻衣さんの靴を脱がせ、もう一度負ぶって、ベッドに寝かせた。
そして、ようやく考えた。
泊まらせていいのか……?
明日は土曜だから、朝はゆっくりでいい。
いや、そういう問題じゃない。
「麻衣さん」
ダメもとで、眠る麻衣さんに呼びかけた。
「麻衣さん!」
「ん……」
ごろんと寝返りをして、仰向けから横を向く。
俺はベッド脇に腰を下ろし、麻衣さんの寝顔を眺めた。
――ったく、無防備に寝てくれちゃって……。
いたずら心で、麻衣さんの頬に触れた。人差し指で突くように。それから、なぞるように。
「ん……」
キュッと目を瞑り、麻衣さんが声を漏らした。
慌てて手を引っ込めたが、目は開かず、口をもごもごさせるだけ。
「メイ……ク……」
「メイク?」
突然、麻衣さんのパチッと目が開き、ガバッと起き上がった。
「メイク落とさなきゃ!」
「……は!?」
メイク……?
突然の一言に、俺は思わず目をパチパチさせた。
そんな俺を見て、麻衣さんもまた、目をパチパチさせた。
「あれ……? 鶴本……くん?」
「――ぶっ! ……っ――」
起き抜けの第一声に、俺は思わず吹き出してしまった。
「くく……。ふっ――」
「え? なんで!?」
「負ぶってタクシーを降ろしても起きなかったのに、……メイクって……」
俺は涙を浮かべて、腹を抱えて笑った。
三年、一緒に仕事をしてきたけれど、こんな気の抜けた彼女を見たのは初めて。
可笑しくて、可愛くて、笑いが止まらない。
「私、寝ちゃった?」
「いつもより飲んでましたもんね」
目じりの涙を拭いながら顔をあげると、麻衣さんがパッと俯いた。
「麻衣さん?」
「――ごめんねっ! 迷惑……かけて……。お、重かった……でしょ……」
これもまた、初めて見る顔。
耳まで赤くして、かろうじて聞こえる小さな声は、震えていた。
「麻衣さん?」
覗き込むと、今度は麻衣さんが涙目になっていた。
「具合、悪いですか?」
「大丈夫! あの、ホントにごめんね? もう、酔いも醒めたし、帰るね」
咄嗟に、反射的に、無意識に、俺はベッドから降りようとする麻衣さんを抱きしめた。
「え!? ちょ――」
柔らかい。
温かい。
他の男に渡したくない。
「婚活、本気ですか?」
「え?」
「本気で結婚したいんですか?」
「ちょ――! 放して、鶴本く――」
「俺と結婚してください」
言ってから、自分の言葉に驚いた。
あれ!?
俺、今――。
「何、言ってるの!? 冗談は――」
「本気です!」
ムキに、なった。
さすがにいきなりプロポーズなんてする気はなかったけれど、即座に冗談にされて、ムッとした。
「俺、麻衣さんのこと好きです」
好きな女を負ぶっただけで息を切らしてるなんて、情けない。いや、これは酒のせいだ。
俺は台所で水を一杯飲み、ネクタイを解き、ワイシャツのボタンを二つ外して、玄関に戻った。
麻衣さんの靴を脱がせ、もう一度負ぶって、ベッドに寝かせた。
そして、ようやく考えた。
泊まらせていいのか……?
明日は土曜だから、朝はゆっくりでいい。
いや、そういう問題じゃない。
「麻衣さん」
ダメもとで、眠る麻衣さんに呼びかけた。
「麻衣さん!」
「ん……」
ごろんと寝返りをして、仰向けから横を向く。
俺はベッド脇に腰を下ろし、麻衣さんの寝顔を眺めた。
――ったく、無防備に寝てくれちゃって……。
いたずら心で、麻衣さんの頬に触れた。人差し指で突くように。それから、なぞるように。
「ん……」
キュッと目を瞑り、麻衣さんが声を漏らした。
慌てて手を引っ込めたが、目は開かず、口をもごもごさせるだけ。
「メイ……ク……」
「メイク?」
突然、麻衣さんのパチッと目が開き、ガバッと起き上がった。
「メイク落とさなきゃ!」
「……は!?」
メイク……?
突然の一言に、俺は思わず目をパチパチさせた。
そんな俺を見て、麻衣さんもまた、目をパチパチさせた。
「あれ……? 鶴本……くん?」
「――ぶっ! ……っ――」
起き抜けの第一声に、俺は思わず吹き出してしまった。
「くく……。ふっ――」
「え? なんで!?」
「負ぶってタクシーを降ろしても起きなかったのに、……メイクって……」
俺は涙を浮かべて、腹を抱えて笑った。
三年、一緒に仕事をしてきたけれど、こんな気の抜けた彼女を見たのは初めて。
可笑しくて、可愛くて、笑いが止まらない。
「私、寝ちゃった?」
「いつもより飲んでましたもんね」
目じりの涙を拭いながら顔をあげると、麻衣さんがパッと俯いた。
「麻衣さん?」
「――ごめんねっ! 迷惑……かけて……。お、重かった……でしょ……」
これもまた、初めて見る顔。
耳まで赤くして、かろうじて聞こえる小さな声は、震えていた。
「麻衣さん?」
覗き込むと、今度は麻衣さんが涙目になっていた。
「具合、悪いですか?」
「大丈夫! あの、ホントにごめんね? もう、酔いも醒めたし、帰るね」
咄嗟に、反射的に、無意識に、俺はベッドから降りようとする麻衣さんを抱きしめた。
「え!? ちょ――」
柔らかい。
温かい。
他の男に渡したくない。
「婚活、本気ですか?」
「え?」
「本気で結婚したいんですか?」
「ちょ――! 放して、鶴本く――」
「俺と結婚してください」
言ってから、自分の言葉に驚いた。
あれ!?
俺、今――。
「何、言ってるの!? 冗談は――」
「本気です!」
ムキに、なった。
さすがにいきなりプロポーズなんてする気はなかったけれど、即座に冗談にされて、ムッとした。
「俺、麻衣さんのこと好きです」
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