20 / 179
3.コンビ解散
6
しおりを挟む
俺はふぅっと息を吐き、ネクタイを緩めた。
好きな女を負ぶっただけで息を切らしてるなんて、情けない。いや、これは酒のせいだ。
俺は台所で水を一杯飲み、ネクタイを解き、ワイシャツのボタンを二つ外して、玄関に戻った。
麻衣さんの靴を脱がせ、もう一度負ぶって、ベッドに寝かせた。
そして、ようやく考えた。
泊まらせていいのか……?
明日は土曜だから、朝はゆっくりでいい。
いや、そういう問題じゃない。
「麻衣さん」
ダメもとで、眠る麻衣さんに呼びかけた。
「麻衣さん!」
「ん……」
ごろんと寝返りをして、仰向けから横を向く。
俺はベッド脇に腰を下ろし、麻衣さんの寝顔を眺めた。
――ったく、無防備に寝てくれちゃって……。
いたずら心で、麻衣さんの頬に触れた。人差し指で突くように。それから、なぞるように。
「ん……」
キュッと目を瞑り、麻衣さんが声を漏らした。
慌てて手を引っ込めたが、目は開かず、口をもごもごさせるだけ。
「メイ……ク……」
「メイク?」
突然、麻衣さんのパチッと目が開き、ガバッと起き上がった。
「メイク落とさなきゃ!」
「……は!?」
メイク……?
突然の一言に、俺は思わず目をパチパチさせた。
そんな俺を見て、麻衣さんもまた、目をパチパチさせた。
「あれ……? 鶴本……くん?」
「――ぶっ! ……っ――」
起き抜けの第一声に、俺は思わず吹き出してしまった。
「くく……。ふっ――」
「え? なんで!?」
「負ぶってタクシーを降ろしても起きなかったのに、……メイクって……」
俺は涙を浮かべて、腹を抱えて笑った。
三年、一緒に仕事をしてきたけれど、こんな気の抜けた彼女を見たのは初めて。
可笑しくて、可愛くて、笑いが止まらない。
「私、寝ちゃった?」
「いつもより飲んでましたもんね」
目じりの涙を拭いながら顔をあげると、麻衣さんがパッと俯いた。
「麻衣さん?」
「――ごめんねっ! 迷惑……かけて……。お、重かった……でしょ……」
これもまた、初めて見る顔。
耳まで赤くして、かろうじて聞こえる小さな声は、震えていた。
「麻衣さん?」
覗き込むと、今度は麻衣さんが涙目になっていた。
「具合、悪いですか?」
「大丈夫! あの、ホントにごめんね? もう、酔いも醒めたし、帰るね」
咄嗟に、反射的に、無意識に、俺はベッドから降りようとする麻衣さんを抱きしめた。
「え!? ちょ――」
柔らかい。
温かい。
他の男に渡したくない。
「婚活、本気ですか?」
「え?」
「本気で結婚したいんですか?」
「ちょ――! 放して、鶴本く――」
「俺と結婚してください」
言ってから、自分の言葉に驚いた。
あれ!?
俺、今――。
「何、言ってるの!? 冗談は――」
「本気です!」
ムキに、なった。
さすがにいきなりプロポーズなんてする気はなかったけれど、即座に冗談にされて、ムッとした。
「俺、麻衣さんのこと好きです」
好きな女を負ぶっただけで息を切らしてるなんて、情けない。いや、これは酒のせいだ。
俺は台所で水を一杯飲み、ネクタイを解き、ワイシャツのボタンを二つ外して、玄関に戻った。
麻衣さんの靴を脱がせ、もう一度負ぶって、ベッドに寝かせた。
そして、ようやく考えた。
泊まらせていいのか……?
明日は土曜だから、朝はゆっくりでいい。
いや、そういう問題じゃない。
「麻衣さん」
ダメもとで、眠る麻衣さんに呼びかけた。
「麻衣さん!」
「ん……」
ごろんと寝返りをして、仰向けから横を向く。
俺はベッド脇に腰を下ろし、麻衣さんの寝顔を眺めた。
――ったく、無防備に寝てくれちゃって……。
いたずら心で、麻衣さんの頬に触れた。人差し指で突くように。それから、なぞるように。
「ん……」
キュッと目を瞑り、麻衣さんが声を漏らした。
慌てて手を引っ込めたが、目は開かず、口をもごもごさせるだけ。
「メイ……ク……」
「メイク?」
突然、麻衣さんのパチッと目が開き、ガバッと起き上がった。
「メイク落とさなきゃ!」
「……は!?」
メイク……?
突然の一言に、俺は思わず目をパチパチさせた。
そんな俺を見て、麻衣さんもまた、目をパチパチさせた。
「あれ……? 鶴本……くん?」
「――ぶっ! ……っ――」
起き抜けの第一声に、俺は思わず吹き出してしまった。
「くく……。ふっ――」
「え? なんで!?」
「負ぶってタクシーを降ろしても起きなかったのに、……メイクって……」
俺は涙を浮かべて、腹を抱えて笑った。
三年、一緒に仕事をしてきたけれど、こんな気の抜けた彼女を見たのは初めて。
可笑しくて、可愛くて、笑いが止まらない。
「私、寝ちゃった?」
「いつもより飲んでましたもんね」
目じりの涙を拭いながら顔をあげると、麻衣さんがパッと俯いた。
「麻衣さん?」
「――ごめんねっ! 迷惑……かけて……。お、重かった……でしょ……」
これもまた、初めて見る顔。
耳まで赤くして、かろうじて聞こえる小さな声は、震えていた。
「麻衣さん?」
覗き込むと、今度は麻衣さんが涙目になっていた。
「具合、悪いですか?」
「大丈夫! あの、ホントにごめんね? もう、酔いも醒めたし、帰るね」
咄嗟に、反射的に、無意識に、俺はベッドから降りようとする麻衣さんを抱きしめた。
「え!? ちょ――」
柔らかい。
温かい。
他の男に渡したくない。
「婚活、本気ですか?」
「え?」
「本気で結婚したいんですか?」
「ちょ――! 放して、鶴本く――」
「俺と結婚してください」
言ってから、自分の言葉に驚いた。
あれ!?
俺、今――。
「何、言ってるの!? 冗談は――」
「本気です!」
ムキに、なった。
さすがにいきなりプロポーズなんてする気はなかったけれど、即座に冗談にされて、ムッとした。
「俺、麻衣さんのこと好きです」
1
お気に入りに追加
269
あなたにおすすめの小説

お酒の席でナンパした相手がまさかの婚約者でした 〜政略結婚のはずだけど、めちゃくちゃ溺愛されてます〜
Adria
恋愛
イタリアに留学し、そのまま就職して楽しい生活を送っていた私は、父からの婚約者を紹介するから帰国しろという言葉を無視し、友人と楽しくお酒を飲んでいた。けれど、そのお酒の場で出会った人はその婚約者で――しかも私を初恋だと言う。
結婚する気のない私と、私を好きすぎて追いかけてきたストーカー気味な彼。
ひょんなことから一緒にイタリアの各地を巡りながら、彼は私が幼少期から抱えていたものを解決してくれた。
気がついた時にはかけがえのない人になっていて――
表紙絵/灰田様
《エブリスタとムーンにも投稿しています》

溺愛ダーリンと逆シークレットベビー
葉月とに
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。
立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。
優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!
【ルーズに愛して】指輪を外したら、さようなら
深冬 芽以
恋愛
インテリアデザイナーの相川千尋《あいかわちひろ》は、よく似た名前の同僚で妻と別居中の有川比呂《ありかわひろ》と不倫関係にある。
ルールは一つ。
二人の関係は、比呂の離婚が成立するまで。
その意味を深く考えずに関係を始めた比呂だったが、今となっては本気で千尋を愛し始めていた。
だが、比呂の気持ちを知っても、頑なにルールを曲げようとしない千尋。
千尋と別れたくない比呂は、もう一つのルールを提案する。
比呂が離婚しない限り、絶対に別れない__。
【ルーズに愛して】シリーズ
~登場人物~
相川千尋《あいかわちひろ》……O大学ルーズサークルOG
トラスト不動産ホームデザイン部インテリアデザイン課主任
有川比呂《ありかわひろ》……トラスト不動産ホームデザイン部設計課主任
千尋の同僚
結婚四年、別居一年半の妻がいる
谷龍也《たにたつや》……O大学ルーズサークルOB
|Free Style Production《フリー スタイル プロダクション》営業二課主任
桑畠《くわはた》あきら……O大学ルーズサークルOG
市役所勤務、児童カウンセラー
小笠原陸《おがさわらりく》……O大学ルーズサークルOB
|Empire HOTEL《エンパイアホテル》支配人
小笠原春奈《おがさわらはるな》……陸の妻
|Empire HOTEL《エンパイアホテル》のパティシエ
新田大和《にったやまと》……O大学ルーズサークルOB
新田設計事務所副社長
五年前にさなえと結婚
新田《にった》さなえ……O大学ルーズサークルOG
新田大斗《にっただいと》……大和とさなえの息子
亀谷麻衣《かめやまい》……O大学ルーズサークルOG
楠行政書士事務所勤務
婚活中
鶴本駿介《つるもとしゅんすけ》……楠行政書士事務所勤務

禁断溺愛
流月るる
恋愛
親同士の結婚により、中学三年生の時に湯浅製薬の御曹司・巧と義兄妹になった真尋。新しい家族と一緒に暮らし始めた彼女は、義兄から独占欲を滲ませた態度を取られるようになる。そんな義兄の様子に、真尋の心は揺れ続けて月日は流れ――真尋は、就職を区切りに彼への想いを断ち切るため、義父との養子縁組を解消し、ひっそりと実家を出た。しかし、ほどなくして海外赴任から戻った巧に、その事実を知られてしまう。当然のごとく義兄は大激怒で真尋のマンションに押しかけ、「赤の他人になったのなら、もう遠慮する必要はないな」と、甘く淫らに懐柔してきて……? 切なくて心が甘く疼く大人のエターナル・ラブ。
アダルト漫画家とランジェリー娘
茜色
恋愛
21歳の音原珠里(おとはら・じゅり)は14歳年上のいとこでアダルト漫画家の音原誠也(おとはら・せいや)と二人暮らし。誠也は10年以上前、まだ子供だった珠里を引き取り養い続けてくれた「保護者」だ。
今や社会人となった珠里は、誠也への秘めた想いを胸に、いつまでこの平和な暮らしが許されるのか少し心配な日々を送っていて……。
☆全22話です。職業等の設定・描写は非常に大雑把で緩いです。ご了承くださいませ。
☆エピソードによって、ヒロイン視点とヒーロー視点が不定期に入れ替わります。
☆「ムーンライトノベルズ」様にも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる