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2.OLC
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しおりを挟むさなえが本当に大和が好きなのは、ここにいる全員がよく知っている。さなえはあきらと同じ心理学の勉強をして病院に就職した。けれど、大和が実家の設計事務所を継ぐために、就職先の建設会社を辞めるタイミングで、さなえは結婚退職した。実際に働いたのは三年。
仕事が好きそうだったのに、さなえは大和と結婚して事務所を手伝うんだと、とても嬉しそうに話していた。
大和の両親の近くに家を建て、事務所でも顔を合わせる生活を、私たちは心配したけれど、さなえに迷いはなかった。
それくらい、大和が好きで、大和を信じていた。
その大和から、結婚を早まったなんてニュアンスのことを言われたら、それは傷つく。
「けど、さなえなら大和の言葉が本心じゃないってわかってくれるでしょ?」と、あきらが梅酒を飲みながら言った。
「どうだろな。気にしてないって言ってたのに泣いてたし、さっきみたいに言うってことは、やっぱ怒ってんだよな」
こんなに弱気な大和は珍しい。
割と自信家で、私たちのリーダー的な存在。
そういえば、大和からも愚痴を聞いたことはあまりない。
「麻衣たちさ、たまにでいいからさなえを連れ出してやってくんないか?」
「え?」
「あいつ、大斗が生まれてから、全然遊びに出てなくてさ。このメンバーで集まる以外、家事してるか、仕事手伝ってるかでさ。買い物も近くのスーパーに行くくらいだし」
さなえは靴やネイルが好きで、よく一緒にオシャレなカフェ巡りをした。結婚したから、以前のようには出歩いていないとは聞いていた。
「子供がいたら、そういうものでしょう?」と、千尋が残っていたポテトを口に入れて、空いた皿を重ねた。
「最近のママさんたちはそうでもないらしいんだよ。保育園や旦那に子供を預けてランチとか飲みに行ったりもするし、割と自分の服や化粧品にも金をかけたり? ま、金に余裕があるからなんだろうけど。けど、さなえはそういうの全然ないんだよ。家事も手を抜かないし、仕事も手伝ってくれて助かるけど、なんつーか……隙がないっつーか……」
「ちょっと意外だな」と、陸が言った。
「大学の頃のさなえって、なんか危なっかしかっただろ。大和じゃなくても、保護欲を掻き立てられるっているか、目が離せなかったんだけどな」
「うん。わかる。同い年だけど、妹がいたらこんな感じかと思うくらい、放っておけなかった」と、龍也。
男の目に、さなえがどう映っているのか、知らなかったわけではないけれど、改めて聞くと、少しイラっとした。
「男ってバカだね」と、思わず言ってしまった。
「こんだけ長い付き合いなのに、全然わかってないんだから」
うんうん、と千尋とあきらが頷く。
「さなえ、結構しっかり者だよ? 普段はおっとりして危なっかしいけど、人を良く見てるし、家事とか仕事とかはかなり要領よく出来るし。料理させたら、この中で一番手際いいと思うよ」
「けど、出しゃばるようなこともしないでしょ。内助の功、なんてさなえのためにある言葉みたいなもんだよ」と、千尋が補足した。
「けどさ、それって男にしたらプレッシャーじゃね?」と、陸が言った。
「人それぞれだろうけど、あんまり完璧すぎても落ち着かないっていうか――」
「無理させてるんじゃないかって、思うんだよ」と、大和が言った。
「あいつ、自分のことは何でも後回しでさ。毎日、俺や大斗の世話ばっかで、そのうち嫌になるんじゃないか……とかさ……」
「そういう性分てだけじゃなくて?」と、龍也が言った。
「さなえって、おっとりしてるけど嫌なことはハッキリ言えて、流されるタイプじゃなかったでしょ。不満があったら言うと思うけど」
「確かにね」
「どうかな。大斗が生まれてから二人で話す時間もないし」
「そうなの!?」
「そ。だからさ、たまに女同士でストレス発散させてやってくれよ」
大和が、力なさげに笑った。
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