【ルーズに愛して】私の身体を濡らせたら

１．鶴亀コンビ

４

「先輩と仕事相手がデキちゃったとか、仕事しにくいじゃないですか！　先輩なら、そういうのも考えてくださいよ」

「仕事とプライベートくらい分けられるわよ！　それに、高井さんに誘われると決まったわけじゃないでしょう？」

「そうですね。高井さんはモテそうだし、わざわざ麻衣さんなんかを誘わなくても、相手は選び放題でしょうから」

　カチンときた。

　鶴本くんの軽口には慣れてきたけれど、こんな風に憎まれ口を言われるのは初めて。



　どうして七歳も年下に、ここまで言われなきゃなんないのよ！



「大きなお世話よ！　私のことをとやかく言う前に、一人前に仕事をこなせるようになりなさい！」

　私は鶴本くんの手を押し退け、シートベルトを外した。

「俺はっ――！　心配してあげてるんじゃ――」

「私なんかを心配するなら、安心して結婚退職できるように仕事して！」

　大人気ないとは思う。けれど、なぜかひどくムカついた。



　いつも私を可愛いとか言うくせに、『なんか』って何よ！



　鶴本くんのせいだ。

　絶対、嫌だったのに。

　打ち合わせの終わりに高井さんに食事に誘われ、私はＯＫしてしまった。

　鶴本くんの前だったから。

　私なんかでも誘ってくれる男性ひとはいる、と見せつけたかったのかもしれない。

　完全に、当てつけ。

　どうして鶴本くんに当てつけなきゃいけなかったのかと、後で気づいた。

　けれど、もう遅い。

　どんなに不本意でも、ＯＫしてしまった。



　一度だけよ……。



　食事なら人の目もあるから、大丈夫。

「さっきは……すみませんでした」

　帰りの車内で、鶴本くんが泣きそうな顔で、呟いた。帰りの運転は、私。

「いいよ。もう忘れた」

「ホントに行くんですか？　高井さんと、食事」

「行くよ。社交辞令とはいえ、何度も断るのは失礼だし」

「けどっ！　ホテルなんて――」

　高井さんが食事場所に選んだのは、Empire HOTELエンパイア　ホテル。陸の職場だ。

　ホテルと聞けば下心がありありと見えるが、食事が美味しいのは確かだし、人目も多いから強引なことは出来ない。

　それに、鶴本くんに言ったことは嘘ではない。

　仕事相手である高井さんの誘いをいつまでも断り続けるのも失礼だし、高井さんが私の苦手とするタイプの人だと思い込むのも良くないと思った。

　いつまでも、怯えていたくない。

「あそこのレストラン、有名よね。ラッキーだわ」

「下心じゃないですか！」

「だとしても、部屋に行かなきゃいいことでしょ。それに、そうと決めつけるのは失礼よ」

「決まってますよ！」

「ふふっ。じゃあ、鶴本くんにホテルディナーに誘われたら、下心があると思っとくわ」

　ホテルに入ったら即セックス、みたいに考えている鶴本くんを見ていると、若いなぁ、と思う。



　まぁ、実際、Empire HOTELエンパイア　ホテルなんて気軽に食事に行ける場所じゃないか。



　かく言う私も、陸が割引クーポンをくれたから、ＯＬＣの仲間で何度か食事に行ったことがあるだけ。

「俺が誘ったら……ＯＫしてくれるんですか？」

「Empire HOTELエンパイア　ホテルのディナーコースがいくらからか、知ってる？　先輩の機嫌取りに払える額じゃないよ。プロポーズのために取っときなさい」



　そうよ。

　高級ディナーが食べられるだけでも、良しとしなきゃ！



　思い込みでほんの少しだけ、気持ちが軽くなった。