復讐溺愛 ~御曹司の罠~

深冬 芽以

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番外編*甘いお仕置き

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 皇丞が隣に座った時、ドアがノックされた。

 皇丞が「はい」と応じる。

 倉木社長と秘書の女性、そして、料理を載せたワゴンを押したウエイターが二人入ってくる。

 ウエイターの一人がチラリと皇丞を見て、それから社長の椅子を引いた。

 皇丞が動くかを見たのだろう。

 元カノでなければ皇丞が椅子を引きに立ち上がったのかもしれない。

 私はまだ、その辺のマナーに疎くて正解がわからないが。

「では、また後程参ります」

 料理のセッティングを終えたウエイターと共に、秘書が出て行く。

「あまり時間もないし、簡単に食べられるものを用意したわ。マナーなんて気にせずにどうぞ」

 社長が料理に向けて手を広げる。

 確かに、カナッペやサラダロール、サンドイッチが並んでいる。

 額面通りに受け取っていいものかと、一瞬だけ考えた隙に、皇丞がトングを取った。

「では、遠慮なく」

 私の前のスクエア型のお皿に、数種を取り置いた。

「さっきのアルコールだったろ。なんか食った方がいい」

 確かに。そういうことならと、私は口元で両手を合わせた。

「いただきます」

 サーモンとポテサラのカナッペを手で掴み、口に運ぶ。



 ん~~~っ、美味しい!



「相変わらず優しいのね、皇丞」

 倉木社長の元カノモードに、思わず手が止まる。

「それとも、私に見せつけたくて?」

「どうでしょう」

 さっきから、腹の探り合いみたいな会話をしていて、疲れないのだろうか。

 まるで部外者のように、そんなことを思う。

「聞きたいことがあるのよね?」

「そちらのお話から伺いますよ」

「まぁ、聞きたいことが何かは想像がつくし、私の話と繋がっているからいいわ」

 倉木社長はシャンパンをグイッと飲み、グラスを置いた。

「皇丞にはまだ、秘書がいないそうね」



 秘書?



 どんな話か予想していたわけではないが、それにしても予想外で私も皇丞も一瞬フリーズする。

「……はい?」

「秘書よ」

「はぁ。いませんけど」

「私の秘書を雇ってくれない?」

「はい?」



 秘書って、さっきの女性?



「あなたの右腕でしょう?」

「だった、の。あなたと別れた後しばらくして辞めたの。結婚してすぐに妊娠したから」

 妻の前でさらっと『あなたと別れた後』とか言うのはどうかと思う。

 気にしていなくても気になってしまうではないか。

「一年ほど前に離婚してね? 子供を抱えて困っていると知って復職を提案したんだけど、社長秘書は子育てと両立するには重責だと断られたわ」

 ならばなぜ、創業記念パーティーなんて大事な場所にいるのか。

「私が社長に就任して、全部署で人員配置を見直したの。そうしたら、秘書が足りなくなっちゃって、今日のパーティーまでって約束で働いてもらっていたの。パート勤務で」

 社長秘書がパート勤務では、確かに役不足だろう。



 でも、だからって専務秘書?



「私はこのままでもいいって言ってるんだけど、ちゃんとした秘書を置くべきだって言ってきかなくて」

「まぁ、そうでしょうね」

「でもね? 彼女の優秀さはスーパーのレジ打ちさせるにはもったいないわ。それに――」

「――恩がある、でしたか」

 皇丞の言葉に、社長が微笑む。

 まるで、覚えていてくれて嬉しいとでも言うように。

「ええ、そう。だから、どうしても放ってはおけないの」

「それで、私の秘書ですか? 確かに社長秘書ほどの激務ではないが――」

「――ああ、専務の立場を軽んじているわけではないの。ただ、あなたならば彼女の能力を十分に発揮できる環境を整えてくれると見込んで」

 皇丞がふぅっと息を吐き、目の前のグラスをあおった。

「それで、あの企画書ですか」

「ご名答」

「妻に会いたがったのは?」
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