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番外編*甘いお仕置き
13
しおりを挟む私ははぁはぁと肩を上下させて浅い呼吸を繰り返す。
姫さんは、私の反撃に面食らって、目をぱちくりさせている。
いや、私の剣幕に、が正解かもしれない。
場所も弁えずに、そこそこに大きな声を出した自覚がある。
「只野さん」
「――っ!」
皇丞に名字で呼ばれた姫さんは、名前で呼べと言いたげではあったが、私と目が合うなり黙ってしまった。
「俺のことも、俺の結婚のこともどう思われようとどうでもいいですけど、ひとつだけ訂正しておきます」
私が言いたい放題言ってしまったせいか、皇丞の言葉遣いが通常運転になった。
「俺が梓を選んだんじゃない。俺は梓に選んでもらったんです。そのために、必死で口説きました。あなたの妄言のせいでその努力が水の泡となるようなことがあれば、東雲家、延いてはトーウンコーポレーションの全力を持って相手になります」
お義母さまと同じことを言った皇丞の横顔は、口元に笑みを浮かべながらも目つきはギラギラと言うか冷え冷えと言うか。とにかく、お義母さまに似ている。
やっぱり、母子だなぁ……。
そう思っていたら、ふっと皇丞の表情が柔らかくなった。
「ところで、このままここにいて大丈夫ですか? あちらに前のご主人がいらっしゃいますが? あ、前の前の、でしたか? 確か、離婚時に接近禁止を約束されてましたよね?」
接近禁止……って、何をしたの!?
とにかく、何かをしたらしい。
姫さんはカッと目を見開くと、皇丞の視線の先にぐりんっと首を回した。
ちょっとしたホラーな図。
「わ、私気分が優れませんので、これで失礼いたします」
そう言うや否や、姫さんはフリルのスカートを翻し、壁伝いに出入口を目指して走って行った。
「なんだった……の?」
ハリケーンのような洗礼に、私は一気に脱力する。
皇丞が軽く手を上げ、ウエイターが持っているドリンクを受け取った。
「お疲れ」
私は差し出されたグラスの中身も確認せずに、グイッとあおる。
味はよくわからないが、アルコールなのはわかった。
「元カノだなんて言わないわよね?」
「まさか。十年くらい前に初めて会ってから気に入られたのは確かだけど、その時点で既にバツイチで、更に二度は結婚と離婚を繰り返しているはずだ。どれも政略結婚、というか娘可愛さに親が押し切った結婚で、一年程度で破綻している。生粋のお嬢様なのに色々と奔放で、なのに独占欲が強くて嫉妬深く、ヒステリック。ま、噂だが、九割がた事実だろう」
どこかで覚えのある人間性に、ンンッと喉を鳴らす。
「AVを勧めたら、さすがに訴えられるよな」
皇丞も同じことを思ったらしい。
私は肘で彼の脇腹を突いた。
「疲れたろ。なんか食おうぜ」
「うん」
「それなら、ご一緒しません?」
振り返ると、シルバーグレーのロングドレスを着た女性が、シャンパングラスを片手に立っている。
この女性が元カノだ、とわかった。
ウルフカットの黒髪は首のラインがはっきり見えるショートで、長めのチェーンピアスが揺れるたびにキラキラと輝いて、何色にも見える。
ドレスは身体のラインをくっきり見せるタイトで、胸元はいやらしくならないぎりぎりの深さ。
自分のスタイルに自信がなければ選ばないだろう。
姫さんと違って、年齢に相応しい大人の女性をアピールしている。
「初めまして、倉木社長。東雲梓と申します。本日はおめでとうございます」
私は深々と頭を下げた。
そして、ゆっくりと顔を上げる。
「以前より主人がお世話になっております」
私を呼んだ意図はわからないけれど、皇丞の隣に並ぶ以上、胸を張っていようと決めた。
真っ直ぐに倉木社長を見据える。
「初めまして、倉木美花です。本日はお越しくださってありがとうございます」
にこりと笑う彼女の頬に、ピアスが触れて光る。
「素敵なピアスですね」
「ありがとう。元カレからのプレゼントなんだけど、気に入っているの」
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