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番外編*甘いお仕置き
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しおりを挟む思わず声に出してしまい、ハッとして手で口を押える。
顔を上げた女性にキッと睨まれる。
「なんてデリカシーのない方かしら! 女性の年齢について口にするなんて」
「すみませ――」
「――離婚するたびに俺を理由にするのはやめてください。あなたの素行不良は、誰もが知るところだ」
離婚する『たび』って……、何度もあるってこと!?
「皇丞さんが私を選んでくださったら、こんなことにはならなかったんです。誰と結婚しても、あなたが心から消えてくれないから――」
「――やめてください。いい加減、迷惑だ」
少し、強めの口調ではあった。
が、離婚歴が複数回ある、二十歳に見える三十代半ばの女性が、肩をびくつかせて瞳を潤ませるほどではないと思う。
が、女性はそんな風に驚き、怯え、悲しみの表情を浮かべた。
それから、口元に手を当てて「ひ、ひどい……」と呟く。
「いつも優しくて笑みを絶やさない皇丞さんが……そんなひどいことを仰るなんて……。奥様の影響ですか!?」
……イツモヤサシクテエミヲタヤサナイオウスケサン……って誰!??
思わず隣の夫を見る。
彼は、優しいとか笑みを浮かべるとは余程遠い、眉をひそめた表情。
優しい……けど、誰にでもではないし?
いつも笑み……はないと思うけど!?
「トーウンコーポレーションは、奥様のご実家に多大なるご支援をいただいておりますの? だから、奥様の前では他の女性に笑顔も見せられないのですか!? 国のお仕事でトーウンコーポレーションが関わりそうな事業……。っは! 官僚宿舎の新築事業ですか? 競争入札の指名を受けるために――」
「――なんてことを言うんですか!」
周囲がざわつき、皇丞が女性の止まらない妄言を制止する。
私は、彼女の想像力に驚くばかり。
皇丞が言った『国の仕事を担っている』から、ここまで想像できるなんて、すごい。
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皇丞がわかりやすく、はぁっとため息をつき、私の肩を抱いた。
「軽口だとしても笑えませんよ。そんな根も葉もない話を、こんなに大勢の前で言うなんて。それに、私と妻は恋愛結婚です。仕事も金も絡んでいない」
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「只野さん」
「姫って呼んでください!」
……タダノヒメ……?
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