復讐溺愛 ~御曹司の罠~

深冬 芽以

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番外編*甘いお仕置き

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 手を差し出すと、梓が自身の手を重ねた。

 その手を握り、少しだけ引く。

 立ち上がった妻を、俺は抱きしめた。

 余程酷い顔をしていたのだろう。

 梓は黙って俺の背に腕を回してくれた。

 少しだけそうして抱き合い、どちらからともなく互いのぬくもりを手放した。

「お疲れ様」

 貧血気味なのだろう。

 梓の頬に赤みがない。

「あんぱん、買ってきたぞ?」

「こんな時間にあんぱんは――」

「――青い顔して気にすることかよ」

 こめかみに口づける。

「食べたいものを食べろ」

「結婚式前なのに」

「ドレスぶかぶかも格好悪いだろ」

「きつくなるよりはましよ」

「だったら――」

 言いかけて、ハッとした。

「――着物、がいい」

「は?」

「着物を着て、一緒にパーティーに行ってくれ」

「パーティー!?」

 初めて夫婦で出席するパーティーが元カノ主催なのは不本意だが、仕方がない。

「俺と会社を助けると思って、頼む」

 顔の前で両掌を合わせて、頭を下げる。

「着物なんて持ってないけど……」

「それは大丈夫だ。母さんに頼めばどうとでもなるはずだ」

「っていうか、パーティーって?」

 ドアの横に放り出していた鞄から白い封筒を取り出し、梓に渡す。

 彼女は中身を見ずに、言った。

「とりあえず、お弁当食べて」

 そうだな、と寝室を出る。

 ダイニングテーブルには、俺が買ってきたコンビニの袋。

 俺は中身を出して見せ、梓はあんドーナツを手に取った。あんぱんもあるのだが。

「思いっきり甘いのが食べたい気分なの」

 俺の考えを読んだように、彼女は言った。

 俺はお湯を沸かし、海苔弁をレンジで温めた。

「随分、急ね」

 招待状を見て、梓が言った。

「嫌がらせだよな」

「まぁ……。でも、こういうのって、行けるなら社長が行くべきなんじゃないの?」

「専務夫妻で席を用意してる、って言われた」

「ふぅん」

 ベリッと袋を開け、梓がドーナツにかぶりつく。

 俺は弁当をテーブルに置き、咀嚼する妻の唇をぺろりと舐めた。

「あま……」

 それでも、唇についた砂糖を舐めとる。

 以前こうした時は恥ずかしがった梓だが、拒んでも無駄だとわかったのだろう。

 二人きりの時は割と好きなようにさせてくれる。

「ね。どうして別れたの?」

 舌先で彼女の唇を突いたまま、動きが止まる。

 そして、視線を逸らしながら体を起こした。

「結婚を断ったから」

「……は?」

 俺は席に戻り、弁当の蓋を開けた。

「いただきます」

「それって、プロポーズされて断ったってこと?」

「……」

 少し硬い米を口に入れ、小さく頷く。

 あの時ほど、自分の女の見る目のなさを嘆いたことはない。

 俺が話したがらないのを察してくれないかと、無言で咀嚼する。が、正面からの無言の圧が半端ない。

「話したくないほど大事な思い出?」

「なんでそうなる」

「だって、後継者問題とか周囲の反対とか? そんな別れ方なら――」

「――絶対ないってわかってて言ってるだろ」

 だが、一緒にパーティーに行く以上、言わないわけにはいかないだろう。

「倉木社長は、俺と結婚して社長の座を弟から奪いたかったんだ」

「弟?」

「そ。父親が後継ぎ欲しさに後妻に産ませた弟」

「昔のドラマとかにありそうね」

 誰かもそう言った。



 俺か……?


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