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15.罠の真相
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「これ……食べていいの?」
「うん。どうぞ」
話がしたいと言ったのは、直。
部屋に上げたのは、私。
押しかけてきたくせに、応じられて目を丸くするなんて笑えた。
私は直を待たせ、オムライスを作った。
お好み焼き以外で、まともに作れるようになった料理。
直と付き合い始めてから買った二人用のダイニングテーブルに置かれたのは、直と別れたから買った真っ白なスクエアのお皿。
直は、スプーンで卵とご飯を一緒にすくい、口に入れた。
何度か咀嚼し、飲み込む。
「美味しいよ」
「良かった」
心から、そう思った。
私は黙々と食べる直を眺めながら、かつて結婚したいと思うほど愛したこの人に、わずかな未練もないのだと思い知った。
「付き合ってる時、こうして料理を頑張っていたら……浮気なんてされなかったのかな」
口の動きが止まり、彼の視線がゆっくりと私に向く。恐る恐る、に見えた。
「直はどうして私にプロポーズしたの?」
「……好きだから。梓とずっと一緒にいたいと……思ったから」
プロポーズしてくれた時の直とは大違いで、自信なさげに、かろうじて聞こえる程度の声量で言った。
「じゃあ、どうして浮気したの?」
「……」
「私とのセックスは、つまらなかった?」
「そんなことない! そんなんじゃない!」
ガチャンッと、落とすも同然に置かれたスプーンが音を立てた。
「梓が悪いんじゃない。俺が……弱かったんだ」
背を丸めて俯く彼に、私が愛した頃の面影はない。
「不釣り合いだって言われて……真に受けた」
「誰に言われたの?」
「同僚に。梓は花形の広報でバリバリ働いてて、俺より年収もいい……から」
そんなの、付き合う前からわかっていたじゃない。
喉まで出かかったが、飲み込んだ。
「セックスも……梓を満足させられているか、自信がなかった」
不満を漏らしたことはない。
そもそも、不満に思ったことなんてない。
だから、私の何が彼にそう思わせたのかがわからない。
「キャバクラの女の子は、満足してくれた? 林海さんは?」
こうして、平然と彼のセックス事情を聞けるほど、私は彼に何の感情もない。
「結婚してからも、続ける気だった?」
「それは――っ!」
今更だ。
今更だから、冷静に聞けた。
「直、私ね――」
ちゃんと話せばよかった。
もっと早く、ちゃんと。
「――退職しようと思う」
「……え?」
「直と別れた時は、少しも思わなかったの。どれだけ噂になっても、好奇の視線を向けられても、林海さんや専務に何を言われても、辞めようなんて思わなかった。むしろ、意地でも辞めてやるもんかって思った。逃げたくないって、思った」
あの時の私は、皇丞と、仕事に救われた。平井さんや山倉さんにも。
「でもね。皇丞が、林海さんが直を誘惑してることを知っていながら黙っていたと聞いて、裏切られた気持ちになって……。いくら大好きな仕事の場でも、皇丞の前で冷静ではいられないって……思った」
「梓……」
「泣いて喚いて、思いっきり殴っちゃった」
翌日まで、掌がじんじんしていた。
あんな馬鹿力があるんだと、自分に驚いた。
「俺の時は、泣かなかったよね」
「そうね。泣いたら余計に惨めになる気がして、泣きたくなかった」
「今はそう思わないのか?」
「……我慢できなかったの。惨めになりたくないとか、意地だとか、どうでも良くなるくらいムカついたから」
そして、悲しかった。
寂しかった。
苦しかった。
子供みたいに大声で泣いてしまうほど、感情がコントロールできなかった。
「そう……か」
「うん……」
「梓?」
「ん?」
「どうしてオムライス?」
「え?」
「難しかったろ?」
「うん」
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