復讐溺愛 ~御曹司の罠~

深冬 芽以

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14.罠の行方

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 コンプライアンス的に完全アウトなのは承知の上で、言った。

 ここまで言っても男漁りをやめないのなら、なんとしてでも辞めさせようと思っていた矢先、きらりが言った。

『私が天谷さんを堕とせたら、私がいい女だって認めてくれますよね?』



 天谷――!?



 考えてしまった。

 きらりが天谷を堕としたら。梓が天谷と別れたら。



 俺にもチャンスが巡ってくる――!



 正直、俺はこの頃、どうやって梓と天谷の結婚を阻止しようかと考えあぐねていた。

 梓は、天谷のキャバクラ通いと浮気を知らない。

 俺がそれを教えるのは容易いが、彼女が信じるかわからないし、たとえ信じて別れても、それを告げた俺を恋愛対象として見てもらえる気がしない。

 だが、きらりが天谷を堕とせたなら、俺自身が何もせずとも望んだ状況を手にできる。

 梓が天谷と別れ、俺を恋愛対象として見てもらえる状況。

 ついでに、上司の婚約者を寝取っただなんてスキャンダル、きらりを退職させる理由に使える。

『そうだな』

 俺は初めて、きらりに期待した。

 そして、期待通りにきらりは天谷を堕とした。

 強引で卑怯なやり方だったかもしれない。

 だが、どうしても梓が欲しかった。

 天谷のものにはしたくなかった。

 ドンドンドンドンッ

 低く激しい不快な音にハッとする。

 いつの間にか部屋は真っ暗。

「皇丞!」

 俺は手元のスマホに触れ、その明かりでスイッチを探した。

 部屋がパッと明るくなり、眩しさに目を細める。

 その間にも部屋のドアは叩かれている。

 頭が痛い。

 ドアを叩く音が響いて、余計に。

 はぁとため息をつきながらのそりとドアを目指し、開けた。

「生きてたか……」

 珍しく欣吾が真顔でそう言った。

「寝てたのか」

「……わからん」

 嘘じゃない。

 眠っていた気もするが、頭の中では梓のことを考えていた。

 眠って目覚めた時のスッキリ感はまるでない。

「お前も人並みに失恋で落ち込むんだな」

 そんな事を言いながら、欣吾が部屋に入ってくる。手には、コンビニの袋。

 そう言えば、腹が減った気がする。

「酒の方が良かったか」

 ぼうっとしながら、欣吾に続いて部屋に戻り、さっきまで座っていたソファに腰かけた。

 欣吾が正面に座り、袋からおにぎりやサンドイッチを出す。

 その中にあんパンを見つけ、手に取った。そして、じいっと見下ろす。

「甘いの食うっけ?」

「いや。梓が好きなんだよ」

「……重症だな」

「なにが」

 欣吾は部屋の冷蔵庫からお茶のペットボトルを取り出し、開けて、飲んだ。

「フラれても梓ちゃんのことばっかだな」

「フラれて……?」

 手の中のあんパンはこしあんで、梓は粒あんの方が好きだと言っていた。

「フラれたのかな……」

 あんドーナツは好きだろうか。

 ふとそんなどうでもいいことを思った。

「フラれたからそんな死にそうな顔してんだろ?」

「そうかもな……」

『関係ない』とはそういうことかもしれないと思った。

 俺はもう、梓の人生に関われない。

「許してもらえなかったってことか?」

「……え?」

「謝ったんだろ?」

「……」



 謝る……?



「お前、謝りに帰ったんだよな?」

「……」
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