復讐溺愛 ~御曹司の罠~

深冬 芽以

文字の大きさ
上 下
129 / 208
12.鎮静

しおりを挟む

 声を上げたのは木原きはら常務。林海専務とは現場時代からの友人で、梓ときらりのプレゼンの場にも専務と一緒に来ていた。

「それにしても! カメラ《こんなもの》があるなんて知らされていないぞ」

「木原常務。職場で見られて困るようなことがありますか?」

「――っ!」

 カマをかけただけなのだが、反応からして後ろめたいことがあるようだ。

 後で欣吾に探らせよう。

「視点が低い……?」

 梓が呟き、すぐにハッとして手で口を覆う。

「これはパソコンのカメラの映像です。入社時に交わす雇用契約書と秘密保持契約書には『貸与されるパソコンや携帯電話などのデータ通信機器の使用状況は通信、閲覧履歴及び内臓カメラの録画にて管理する』と記載されています。隠し撮りでも何でもありません」

 契約書の細かい文章をすべて読んでいる社員がどれほどいるかは知らないが、契約書自体は二部ずつ作成され、社員と会社で保管される。

 隠し事でも何でもないのだ。

 むしろ、この規模の会社で、共有スペース以外にカメラがないことを不審に思うべきだ。

 俺が説明している間に、モニターの中でデスクの電話が鳴りだした。

 カメラには人物は映っていない。

 三回目のコール音で、ようやく手が伸びてきた。

『はい! トーウンコーポレーション、広報課です』

 飛び跳ねるような抑揚のある高い声。

『お世話になってまぁす』

 首から下の身体の縦半分だけが映っているが、服装と声だけでも林海きらりだとわかる。

『撮影日の変更ですね。了解でぇす』

 電話応対時まで間延びした話し方はするなと何度注意しても直らないのも、林海きらりだけ。

『はい! 大丈夫です。担当者に伝えます』

 この場にいる誰もが、映像の女性は林海きらりで、広塚家具からの電話を取ったのも林海きらりだとわかっただろう。

 父親が娘だとわかって目を見開いているのだ。疑いようがない。

『はい。メールも確認します』

 そう言った彼女は、すとんと椅子に座り、その顔をカメラが捉える。

 やはり、林海きらり。

『はい。失礼しま――あ、はい。木曽根です。平井に伝えますのでぇ』

 確固たる証拠。

 林海きらりは電話で、広塚家具の担当者に梓の名を騙り、伝えると言った平井に撮影の変更日を伝えなかった。

 受話器を置いたきらりは、メモ紙にペンを走らせるが、ふと何かを思い立ち、メモ紙をくしゃっと丸めた。

 最初は伝える気だったかっも知れないが、気が変わったのか。

 それとも、梓の名を騙った時点で伝えるつもりなどなかったのか。

『あ、メール』

 席を立ち、姿が消える。が、すぐに切り替わってきらりの顔を正面から捉えた。

 平井のパソコンのカメラだ。

 モニター越しに、きらりが俺たちをじっと見ている。

「この時に林海さんが操作しているのは、広塚家具の担当者の平井さんのパソコンです」

 欣吾が説明する。

「操作内容は、メールの受信と削除になります。削除も受信ボックスからゴミ箱へ、ゴミ箱から完全削除の操作を行っており、決して間違いではないことがわかります」

「でっち上げです! 私っ! こんなことしてません!!」

 きらりが叫びながら立ち上がる。

「この動画が取られた日とか、平井さんのパソコンを弄ってるとか、全部でたらめです! だって、栗山課長がそうだって言ってるだけじゃないですか!」
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立

水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~ 第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。 ◇◇◇◇ 飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。 仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。 退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。 他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。 おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。 

ネカフェ難民してたら鬼上司に拾われました

瀬崎由美
恋愛
穂香は、付き合って一年半の彼氏である栄悟と同棲中。でも、一緒に住んでいたマンションへと帰宅すると、家の中はほぼもぬけの殻。家具や家電と共に姿を消した栄悟とは連絡が取れない。彼が持っているはずの合鍵の行方も分からないから怖いと、ビジネスホテルやネットカフェを転々とする日々。そんな穂香の事情を知ったオーナーが自宅マンションの空いている部屋に居候することを提案してくる。一緒に住むうち、怖くて仕事に厳しい完璧イケメンで近寄りがたいと思っていたオーナーがド天然なのことを知った穂香。居候しながら彼のフォローをしていくうちに、その意外性に惹かれていく。

出逢いがしらに恋をして 〜一目惚れした超イケメンが今日から上司になりました〜

泉南佳那
恋愛
高橋ひよりは25歳の会社員。 ある朝、遅刻寸前で乗った会社のエレベーターで見知らぬ男性とふたりになる。 モデルと見まごうほど超美形のその人は、その日、本社から移動してきた ひよりの上司だった。 彼、宮沢ジュリアーノは29歳。日伊ハーフの気鋭のプロジェクト・マネージャー。 彼に一目惚れしたひよりだが、彼には本社重役の娘で会社で一番の美人、鈴木亜矢美の花婿候補との噂が……

捨てられた花嫁はエリート御曹司の執愛に囚われる

冬野まゆ
恋愛
憧れの上司への叶わぬ恋心を封印し、お見合い相手との結婚を決意した二十七歳の奈々実。しかし、会社を辞めて新たな未来へ歩き出した途端、相手の裏切りにより婚約を破棄されてしまう。キャリアも住む場所も失い、残ったのは慰謝料の二百万だけ。ヤケになって散財を決めた奈々実の前に、忘れたはずの想い人・篤斗が現れる。溢れる想いのまま彼と甘く蕩けるような一夜を過ごすが、傷付くのを恐れた奈々実は再び想いを封印し篤斗の前から姿を消す。ところが、思いがけない強引さで彼のマンションに囚われた挙句、溺れるほどの愛情を注がれる日々が始まって!? 一夜の夢から花開く、濃密ラブ・ロマンス。

御曹司の極上愛〜偶然と必然の出逢い〜

せいとも
恋愛
国内外に幅広く事業展開する城之内グループ。 取締役社長 城之内 仁 (30) じょうのうち じん 通称 JJ様 容姿端麗、冷静沈着、 JJ様の笑顔は氷の微笑と恐れられる。 × 城之内グループ子会社 城之内不動産 秘書課勤務 月野 真琴 (27) つきの まこと 一年前 父親が病気で急死、若くして社長に就任した仁。 同じ日に事故で両親を亡くした真琴。 一年後__ ふたりの運命の歯車が動き出す。 表紙イラストは、イラストAC様よりお借りしています。

処理中です...