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12.鎮静
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梓が外勤に出ていて良かった。
会議室に入るなり、専務から梓を同席させるように言われた。
きらりの流産の責任を追及するつもりなのだろう。
いなくても、こうして開始早々に俺を追求し始めている。
「東雲広報課長の管理責任能力には疑問が――」
回りくどい言い方しないで『可愛い孫を奪って可愛い娘を傷つけた責任を取れ』と言えばいいものを。
見れば、社長と副社長以外は、専務の勢いに呆れつつも、巻き込まれるのが嫌でうんうんと真剣に聞いているフリをしている。
どうでもいいのだ。
なぜなら、専務がバカ親だろうと、きらりがバカ娘だろうと、自分たちには直接関係ないから。
「――次期社長と言われて調子づいていらっしゃるようで――」
話が長い。
もはや、何が言いたいのかの論点もズレている。
社長と副社長が揃って唇を捻っている。
同じことを思っているようだ。
「――私事《わたくしごと》ではありますが、皆さんも既にご存じの通り、広報課所属の娘、きらりが度重なる心労の末に流産するという大変嘆かわしい――」
長い。
「――その責任は一重に! 上司である東雲課長の恋人という立場をいいように利用して好き勝手している木曽根梓にあり――」
長い。
「――その上! 木曽根梓は広塚家具との契約を――」
コンコン
ドアがノックされ、一同がドアに注目する。
俵が静かに素早くドアに向かい、鍵を開ける。
そして、開かれたドアの向こうに立っていたのは、梓ときらり、そして天谷。
専務の話が長すぎて、帰ってきちゃったのか……。
専務のしたり顔。
専務秘書の兼子が、きらりを不自然に空けられた席に案内する。
梓も、俵に言われるがまま、俺の隣に座った。
天谷はきらりの隣に座る。
「さて、当事者も揃ったことですし――」
「――私から、いいかな」
手を挙げたのは、社長。
いつもは、意見を求められるまで発言しない社長が、授業を受ける生徒のように挙手している。
「社長! どうぞ」
すっかり忘れられていた進行役の総務部長が発言を許可する。
「専務の心中は察しますが、この場は経営会議らしく広塚家具の件について報告を受けませんか。東雲課長の糾弾はそれからでしょう」
隣で、梓の肩に力が入るのがわかった。
そうだ。
広塚家具の件で梓の汚名を払しょくするのが、この会議の本来の目的。
「そうですね。では広塚家具からの連絡伝達ミスについて、東雲課長お願いします」
総務部長が俺にぺこりと頭を下げた。
そんな必要なないのだが、気の弱い総務部長はいつも誰かに頭を下げている印象だ。
実は敵に回すべきではない人だと、社長から聞いているが。
俺は机の下で梓の手をギュッと握ってから、立ち上がった。
「早速ですが、まずはミスが起こった状況を説明いたします。広塚家具から一報が入りましたのは――」
俺はほぼ暗記している手元の資料の内容を、順を追って説明していく。
事実のみを簡潔に。
「――以上になります。続いて、広塚家具からの電話を受けた際の映像をご覧いただきます」
「――っ!?」
一同が一斉に、ハッとして顔を上げる。
当然だが、映像が何かは、大いに気になるだろう。
部屋の隅に座って、居眠りしそうになっていた欣吾に目くばせすると、ようやく出番かとパソコンを操作する。
上座の窓側に置かれたモニターのスイッチが入り、広報課室内の様子が映し出される。
「これはなんだ!? 監視カメラなんて――」
「――目的は監視ではなく防犯です」
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