復讐溺愛 ~御曹司の罠~

深冬 芽以

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9.火種

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『社長室までお越しくださいますか』

 上品な口調でそう告げたのは、俵さんだろう。

 どんなに落ち着いた口調で言われても、私には、処刑台へお越しくださいと言われてるも同然だ。

 皇丞は今日も平井さんと出かけている。

 迷惑をかけた撮影所やスタッフへの謝罪と、次の撮影の調整なんかで忙しいから。

 私は山倉さんに「ちょっと出てきます」とだけ言って出た。

 きらりは、無反応だった。

 専務室のような部屋を想像したのだが、社長室は柔らかい雰囲気だった。

 専務室のような黒塗りの額に入った風景画はなく、創業時の二階建ての社屋の写真が木製の額に入っている。

 大きすぎる壺の代わりに、一輪挿し。

 応接ソファも布張りで茶。そして、程よく沈む。

「忙しいのに呼び立てて申し訳ないね」

 私と向かい合う社長はとても穏やかな表情で、とても死刑宣告するために私を呼び出したようには見えない。

 いや、以前のきらりの時もこんな風に穏やかに微笑んで、バッサリ謹慎を言い渡した。

 俵さんは、ウエイターの経験でもあるのかと思うほどの優雅で手際よく、音ひとつ立てずにコーヒーを置いて出て行った。

 とても美味しそうな香りが部屋に充満する。がもちろん、緊張しすぎて手は付けられない。

「皇丞と一緒に暮らしてるんだって?」

 ド直球な問いに、私は尋常じゃない速さで瞬きを繰り返した。

 確かに生活を共にしているが、私のマンションはまだ残っているから、同棲とは呼べない気がする。

「事情がありまして、皇丞さんにはご迷惑をおかけしています」

 ああ、なんて他人行儀な言い方。

 皇丞がこの場にいたら、きっとすごく、かなりムッとするだろう。

 なぜなら、マンションを引き払うように言われたのを断っていたから。

「いい年した息子の恋愛ごとに口を出すつもりはないんだがね」

 そう言いながら「相応しくない」とか「別れてくれ」とか言われるであろうと覚悟する。

「真剣な付き合いなのかと聞いておきたくてね」



 真剣……。



 三十前後の男女の交際が真剣かと聞かれたら、もちろん結婚を意味するだろう。

「皇丞は、見た目には遊んでいるようだが、実はかなり慎重な男でね。いずれこの会社の経営に携わる者としての自覚もあってか、浮いた噂のひとつも聞かなくて、親としては少し心配していたんだ」

 ソーサーごと持ち、静かにコーヒーを口に含む。

「妻も、見合いでも用意した方がいいのかと何度も聞いていたが、自分の意思で決めるからと断り続けてね。……そんな皇丞が女性と暮らしていると聞いたら、是非とも会ってみたくて呼び立てたというわけです」

 穏やかに、ゆっくりと話す声は、皇丞を思い出させた。

「皇丞が夢中になっている女性が部下とは少し意外だったが、私は反対するつもりはないよ。もちろん、妻も。ただ、あなたの気持ちを確認したかったんだ。今後、我が社の将来を担う息子の支えになってもらえるかを」

 皇丞と、結婚について話したことはない。

 当然と言えば当然だ。
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