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8.甘い夜、甘くない理由
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「ここに来る前に会ったんだよ」
欣吾が短くなった前髪を親指と人差し指でつまむ。
「ほら、この髪、梓ちゃんに言われて切ったからさ? 見てもらおうと思って」
余計なことを。
「素敵です、だって。梓ちゃん」
「社交辞令だ」
「どうかなぁ」
「本心だとしても、髪型のことだ」
「マジ、嫉妬深いね。初めてじゃね? お前がそこまで女に入れ込むの。いっつも、俵に乗り替えられても顔色一つ――」
キッと鋭い視線を向けると、さすがに言い過ぎたと気づいた欣吾が、口を閉じた。
「――ま、梓ちゃんはナイだろうね」
「なにが」
「今までの女とは違う」
「比べるな」
「っつーか、皇丞が離さないだろうし」
「当然だ」
「俵は気に入っちゃったみたいだけど」
あいつの性癖には困ったもんだ。
昔から、俺の女にばかり食指が動く。
奪われてムキになるほど好きだった女がいなかった俺もどうかと思うが、それでもやはりいい気はしないから聞いたことがある。
『お前よりイイと言わせるのが楽しくてな』
変態だ。
俺はため息をついた。
硬派に見える変態と、チャラそうに見えるチャラ男。
俺の友人は、なぜこうも曲者揃いなのかなのか。
俺はもう一度ため息をつき、欣吾を置いて会議室を出た。
デスクに戻り、午後の業務をこなす。
今日は金曜日。
明日は休みだから、思う存分梓を抱ける。
今朝の梓は、もういっそのこと二人で仕事を休んでしまおうかと思うほど、可愛かった。
俺の腕から抜け出そうと、けれど俺を起こさないようにもがく姿を、薄目を開けてみていた。
もぞもぞ動くたびに、腕に胸の先が触れ、谷間が見える。
堪らなかった。
これは、一度すっきりしてからでなければ出社できないと腰を押し付けたところで、起きているとバレた。
梓を見て今朝のことを思い出していると、目が合った。が、秒で逸らされた。
恥ずかしくて、には見えない。
気になって彼女の様子を見ていると、平井と目が合った。
梓とは対照的に、じっと見てくる。
しかも、ニヤニヤというか得意気というか、とにかくいい気のするものではない表情で。
その理由は、夜にわかった。
家に帰ってからも、梓は俺とは目を合わせず、そわそわしている様子。
聞いても、そんなことはないと言う。
昨日のセックス、なにかマズかったか……?
そんなことまで心配になってくる。
「あの……」
甘い夜はお預けかとソファで項垂れていたら、風呂上がりの梓が隣に座った。
シャンプーかボディーソープかの香りがする。
「正直に……答えてほしいんですけど」
俯いているが、深刻そうなのは声でわかる。
敬語なのも緊張を感じる。
「うん」
何を聞かれるのだろうと身構える。
「皇丞は――」
思わず生唾をゴクリと飲んだ。
「――栗山課長と、その、……友達以上の関係なの?」
…………はぁ!?
友達以上とはどういう意味だろう。
親友、とかいう意味ではないだろうと思う。
じっと回答を待つ梓。
俺は正直に聞いた。
「友達以上ってのは、具体的にどういうのを――」
「――え、えっちな……ことをするような――」
「――はぁぁぁ!?? 待て。待て待て待て!」
欣吾が短くなった前髪を親指と人差し指でつまむ。
「ほら、この髪、梓ちゃんに言われて切ったからさ? 見てもらおうと思って」
余計なことを。
「素敵です、だって。梓ちゃん」
「社交辞令だ」
「どうかなぁ」
「本心だとしても、髪型のことだ」
「マジ、嫉妬深いね。初めてじゃね? お前がそこまで女に入れ込むの。いっつも、俵に乗り替えられても顔色一つ――」
キッと鋭い視線を向けると、さすがに言い過ぎたと気づいた欣吾が、口を閉じた。
「――ま、梓ちゃんはナイだろうね」
「なにが」
「今までの女とは違う」
「比べるな」
「っつーか、皇丞が離さないだろうし」
「当然だ」
「俵は気に入っちゃったみたいだけど」
あいつの性癖には困ったもんだ。
昔から、俺の女にばかり食指が動く。
奪われてムキになるほど好きだった女がいなかった俺もどうかと思うが、それでもやはりいい気はしないから聞いたことがある。
『お前よりイイと言わせるのが楽しくてな』
変態だ。
俺はため息をついた。
硬派に見える変態と、チャラそうに見えるチャラ男。
俺の友人は、なぜこうも曲者揃いなのかなのか。
俺はもう一度ため息をつき、欣吾を置いて会議室を出た。
デスクに戻り、午後の業務をこなす。
今日は金曜日。
明日は休みだから、思う存分梓を抱ける。
今朝の梓は、もういっそのこと二人で仕事を休んでしまおうかと思うほど、可愛かった。
俺の腕から抜け出そうと、けれど俺を起こさないようにもがく姿を、薄目を開けてみていた。
もぞもぞ動くたびに、腕に胸の先が触れ、谷間が見える。
堪らなかった。
これは、一度すっきりしてからでなければ出社できないと腰を押し付けたところで、起きているとバレた。
梓を見て今朝のことを思い出していると、目が合った。が、秒で逸らされた。
恥ずかしくて、には見えない。
気になって彼女の様子を見ていると、平井と目が合った。
梓とは対照的に、じっと見てくる。
しかも、ニヤニヤというか得意気というか、とにかくいい気のするものではない表情で。
その理由は、夜にわかった。
家に帰ってからも、梓は俺とは目を合わせず、そわそわしている様子。
聞いても、そんなことはないと言う。
昨日のセックス、なにかマズかったか……?
そんなことまで心配になってくる。
「あの……」
甘い夜はお預けかとソファで項垂れていたら、風呂上がりの梓が隣に座った。
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俯いているが、深刻そうなのは声でわかる。
敬語なのも緊張を感じる。
「うん」
何を聞かれるのだろうと身構える。
「皇丞は――」
思わず生唾をゴクリと飲んだ。
「――栗山課長と、その、……友達以上の関係なの?」
…………はぁ!?
友達以上とはどういう意味だろう。
親友、とかいう意味ではないだろうと思う。
じっと回答を待つ梓。
俺は正直に聞いた。
「友達以上ってのは、具体的にどういうのを――」
「――え、えっちな……ことをするような――」
「――はぁぁぁ!?? 待て。待て待て待て!」
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