復讐溺愛 ~御曹司の罠~

深冬 芽以

文字の大きさ
上 下
84 / 208
7.つながる想い

12

しおりを挟む

 昔から、そうだった。

 母へのプレゼントは、エプロンだったり靴下だったりパジャマだったりしたけれど、父へはいつもお酒だった。

 どうしてということもないけれど、お酒が好きだから喜んでくれると思って。

 いつも喜んでくれた。

 けど、修学旅行前の父の日は、喜んではくれたけど、「お父さんもカップが欲しかったみたい」とお母さんから聞いて、あれを作った。

 他に作りたいものもなかったし、うまく作れるかもわからなかったし、失敗してもまあいいやくらいの気持ちで作ったマグカップ。

「あのカップだけは自分で洗ってたの、知ってた?」

 知らなかった。

 気にしたこともなかった。

 そんなに大事にしてくれてたなんて。

「逃げるとか負けるとかどうでもいいのよ。お父さんもお母さんも、これ以上あんたに辛い思いをしてほしくないだけ」

 無意識に瞬きが早くなる。喉の奥が熱く、しょっぱい。

「梓」

 お母さんが困ったように、悲しそうに微笑む。

「いつでも帰ってきなさい」

 涙が頬を伝い、唇の端から口の中に染み入ってくる。もう片方の瞳から零れた涙は、顎から滴る。

「……うん」

「それから、もう少しマメに連絡してちょうだい。お父さんが今まで以上に心配するから」

「うん。お母さん」

 私は手の甲で涙を拭った。

 お母さんがティッシュの箱を差し出し、私は二枚抜き取った。

「私、決めたの。直と相手の女よりもっと、絶対、幸せになるって」

「あんた、張り合ってその上司さんと付き合ってるわけじゃないでしょうね」

「さすがにそこまでできないよ。でも、彼が言ってくれたの。自分を利用して見返してやれって。私は……そう言ってくれた優しい彼を好きになったの」

「そう……」

「だから、心配しないで」

「バカね。どうしたって心配はするのよ? 親なんだから」

 ティッシュ二枚じゃ拭いきれなくて、私はしばらくティッシュの箱を手放せなかった。

 皇丞のことを両親に話して、私自身ちゃんとわかった。

 私にとって、皇丞がどれほど大きな存在になっていたか。

 未来なんてわからない。

 もしかしたら、皇丞も心変わりする日がくるかもしれない。

 その時、今のように後悔したくない。

 だから、この恋が最後の恋になるように、精いっぱい足掻こう。

 プライドなんて、後悔することに比べたら、ちっぽけだ。

 そう認めてしまったら、早く皇丞にその気持ちを伝えたくなった。

 一緒にご飯を食べようとお母さんは言ってくれたけれど、お父さんはボンドが完全に乾くまでカップから手を放しそうにないし、おかずだけもらって帰ることにした。

 次の連休に帰ると約束し、私は実家を後にした。

 駅に向かいながら皇丞に電話をかけたら、呼び出し音と同時にヘッドライトに照らされた。

 泣き腫らした私の顔はどうやっても誤魔化せず、助手席に乗るなり抱きしめられた。

「お帰り」

 溢れる涙が彼のジャケットに染みを作る。

「ただいま」

 そう言って、私も彼の背中に腕を回した。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立

水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~ 第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。 ◇◇◇◇ 飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。 仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。 退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。 他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。 おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。 

ネカフェ難民してたら鬼上司に拾われました

瀬崎由美
恋愛
穂香は、付き合って一年半の彼氏である栄悟と同棲中。でも、一緒に住んでいたマンションへと帰宅すると、家の中はほぼもぬけの殻。家具や家電と共に姿を消した栄悟とは連絡が取れない。彼が持っているはずの合鍵の行方も分からないから怖いと、ビジネスホテルやネットカフェを転々とする日々。そんな穂香の事情を知ったオーナーが自宅マンションの空いている部屋に居候することを提案してくる。一緒に住むうち、怖くて仕事に厳しい完璧イケメンで近寄りがたいと思っていたオーナーがド天然なのことを知った穂香。居候しながら彼のフォローをしていくうちに、その意外性に惹かれていく。

出逢いがしらに恋をして 〜一目惚れした超イケメンが今日から上司になりました〜

泉南佳那
恋愛
高橋ひよりは25歳の会社員。 ある朝、遅刻寸前で乗った会社のエレベーターで見知らぬ男性とふたりになる。 モデルと見まごうほど超美形のその人は、その日、本社から移動してきた ひよりの上司だった。 彼、宮沢ジュリアーノは29歳。日伊ハーフの気鋭のプロジェクト・マネージャー。 彼に一目惚れしたひよりだが、彼には本社重役の娘で会社で一番の美人、鈴木亜矢美の花婿候補との噂が……

捨てられた花嫁はエリート御曹司の執愛に囚われる

冬野まゆ
恋愛
憧れの上司への叶わぬ恋心を封印し、お見合い相手との結婚を決意した二十七歳の奈々実。しかし、会社を辞めて新たな未来へ歩き出した途端、相手の裏切りにより婚約を破棄されてしまう。キャリアも住む場所も失い、残ったのは慰謝料の二百万だけ。ヤケになって散財を決めた奈々実の前に、忘れたはずの想い人・篤斗が現れる。溢れる想いのまま彼と甘く蕩けるような一夜を過ごすが、傷付くのを恐れた奈々実は再び想いを封印し篤斗の前から姿を消す。ところが、思いがけない強引さで彼のマンションに囚われた挙句、溺れるほどの愛情を注がれる日々が始まって!? 一夜の夢から花開く、濃密ラブ・ロマンス。

御曹司の極上愛〜偶然と必然の出逢い〜

せいとも
恋愛
国内外に幅広く事業展開する城之内グループ。 取締役社長 城之内 仁 (30) じょうのうち じん 通称 JJ様 容姿端麗、冷静沈着、 JJ様の笑顔は氷の微笑と恐れられる。 × 城之内グループ子会社 城之内不動産 秘書課勤務 月野 真琴 (27) つきの まこと 一年前 父親が病気で急死、若くして社長に就任した仁。 同じ日に事故で両親を亡くした真琴。 一年後__ ふたりの運命の歯車が動き出す。 表紙イラストは、イラストAC様よりお借りしています。

処理中です...