復讐溺愛 ~御曹司の罠~

深冬 芽以

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7.つながる想い

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*****


「そういえば――」

 お腹いっぱい焼き鳥を食べた後、お風呂に入ろうと着替えを持って、ソファに座ってスマホを見る皇丞を振り返った。

「――林海さん以外、お咎めなし?」

「んーーー……」

 違うらしい。

 社長よりご立腹に見えた常務のことが気になっていた。

 彦谷部長と皇丞を名指ししたから。

 皇丞はスマホから目を離さずに言った。

「今月の給料十パー減」

「え?」

「部長は二十パー」

「そっか……」

 部長も皇丞もいいとばっちりだ。

「沖課長は?」

「注意」

「だけ?」

「そ。せめて、彦谷部長か俺預かりで止めるべきだった、って」

 それはそうだろう。

 きらりの所属上司が不在の場で、提案の機会を約束したのだ。

 部長はともかく、皇丞がいたなら予定外の企画提案は認めなかったろう。

「ま、結果オーライだから、俺としては文句ないけど」

「どういう意味?」

 皇丞がスマホを置いて私を見る。

「専務がごり押ししてた企画を手放した」

「林海専務が?」

「そ。娘があれだけふざけた真似したのに、妊娠を理由にやり過ごそうとしたんだ。さすがに専務が無傷じゃすまない」

 確かに、そうだ。

「梓」

 皇丞がソファの、自分の隣をぽんぽんと手で叩く。

 私は持っている着替えをダイニングの椅子の上に置いて、彼の隣に座った。

 座るなり、皇丞は私の髪に触れた。

 一束をくるくると指に絡みつけて遊ぶ。

 私はその指先を見ながら聞いた。

「私、役に立った?」

「え?」

「最初に言ってたじゃない。林海きらりが動けば専務の失脚に繋がるって」

 今日、社長が会議室に姿を見せた時に思った。

 これは、罠。

 きらりが張り巡らせた罠を、皇丞が乗っ取った。

 結果的にきらりの罠なんてお飾りでしかなかったけれど、皇丞はそれをうまく使った。

 罠にかかった娘を助けようとした専務も片足を突っ込んだのだから。

「皇丞が私の恋人役をする対価として、足りた?」

 自分でも、可愛くないのを通り越して嫌な物言いだなと思う。

 でも、ずっと引っかかっていた。

 皇丞は私のプライドを守るために二つの条件を出した。

 一つは私を口説くこと。

 もう一つは専務の失脚。

「もしかして、自分の言葉で首絞めてたか? 俺」

「……気には、なってた」

「まじかぁ……」

 するりと、彼の指が私の髪先から抜け落ちた。

「お前が相手だと、うまくいかないな」

 皇丞が、頭をもたげて深いため息をつく。

「カッコわり……」

 彼の言葉の意味がよくわからない。

 ただ、軽くなった髪先が寂しい。

「皇丞?」

「あんなん、めちゃくちゃなことを尤もらしく言っただけだ」

「……?」

 皇丞が顔を伏せたまま、今度は髪ではなく、ソファの上の私の指先に自身のそれを絡めた。

 指先が、熱い。

 熱いのは、私の指先か。彼の指先か。

「お前につけ入るために取って付けただけで、本気でお前と林海を使って専務を貶めようなんて思ってない」

「そう……なの? でも、今日は――」

「――専務が娘可愛さにどんないちゃもんつけてくるかわかんねーから、備えただけだ」

「職権乱用」

「わかってる」

「違うか。私権乱用?」

「どっちでもいいだろ」

「他の人の企画でも、した?」

 皇丞がゆっくりと顔を上げる。

 真顔でじっと見つめられると、私の方が視線を逸らしたくなった。

 誤魔化せなくなる。

 逃げられなくなる。



 もうとっくに見透かされてるかもしれないけど。



「父親の立場使うなんてダサい真似、お前以外のためになんかやるわけないだろ」

「社長の力を借りるのがダサいの?」
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