復讐溺愛 ~御曹司の罠~

深冬 芽以

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7.つながる想い

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「だってぇ。帰ろうと思ったら天谷さんが歩いてくるのが見えたんだもん」

「普通に出て行きゃ、あいつもここまで来なかったろ」

「あ、それもそうね」

 平井さんの口元に、えへっ、て吹き出しが見えた気がする。

「山倉さんまで何やってるんですか」

「え? あ、僕は! 平井さんに男だろ、とか言われて」

 山倉さんも立ち上がり、そそくさと机に戻る。

「……ったく! 梓、帰るぞ」

「うん。はい」

 腕を掴み上げられ、私は立ち上がった。

 結局、直が何しに広報課ここまで来たのかはわからない。

 ただ、顔を合わせずに済んだことにホッとした。

 なのに、通用口を出てすぐ、通りの向こうに直を見た。

 コンビニの前で、ただじっとこちらを見ていた。

「車で来ればよかったな」

 皇丞も直の姿を見つけたのだろう。

 私の肩を抱き、足早に駅を目指す。

 私が気づかなかっただけで、いつも見られていたのだろうか。

 いや、さすがにいつもじゃないだろう。

 今日は、偶然退社の時間が重なっただけ。



 じゃあ、この前の休憩所では……?



 さほど寒くはない九月の空気に、身震いする。

 きっと、今日は冷えるんだ。

 そうじゃなければ、指先が冷えるはずがない。

「大丈夫か?」

 顔を覗き込まれ、ハッとした。

 皇丞の表情で、私がまた酷い顔をしているのだろうと思う。

 今までもそうだが、皇丞自身気づいてないだろう。

 私を心配する彼の表情の方がよほど心配になる。

 眉尻を下げ、困った表情。

「大丈夫」

 私がそう答えるのは強がりではない。

 私の一言と、ぎこちなくても微笑んで見せることで、彼が安心してくれるから。

 いつもの彼の強気な表情で、私は本当に大丈夫だと思えるから。

「帰ろう」

 私の肩を抱いていた手がするりと解かれ、それを寂しく思う間もなく手が繋がれる。

 女と腕を組んだり手を繋いだりなんて、ベタベタするのを嫌がりそうなのに。

 見かけによらず、皇丞はいつもくっついていたがる。

「あ」

 地下鉄に乗るや否や、皇丞が低い声ではっきりと言った。

「飯、食おうと思ったのに」

 そうだ。

 食事して帰ろうと言ったのに、マンションに向かう地下鉄に乗ってしまった。

 この方面は飲食店が多くない。

「買って帰ろう?」

 皇丞を気遣ったのが半分、早く帰りたいのが半分で、そう言った。

 そして、皇丞のマンションを安らぎの場所だと思っている自分に、少し驚いた。

「駅前の焼き鳥屋行くか? 本当は和食――」

「――テイクアウトでもいい?」

 地下鉄がカーブにさしかかり、車内が揺れる。

 毎日のことだし、別にしっかり立ってればやり過ごせるのだが、なんだか急に、本当に急にふらりと皇丞のジャケットを掴んで身体を寄せた。

 彼は私が本当にふらついたのだと思って、抱きとめてくれた。

「大丈夫か?」

 甘える、と思えばさほど恥ずかしいことではないのだろうが、甘え慣れていない上に、あきらかにわざとそうした自分に物凄く恥ずかしくなる。

 いい年をして、とか、公共の場で、とか考え始めると、穴があったらなんとやらとまで思えてしまい、すぐに体勢を立て直す。
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