復讐溺愛 ~御曹司の罠~

深冬 芽以

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5.月夜

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 例えば、うちにあったペアの食器類は直が買ってきた。私にこだわりがないと知ってかもしれないが。

 それから、直の家に置いていた私のパジャマ。あれも直が買っておいてくれたもの。

「で、私が答えたらその通りにする。だから、食べたいものが違って言い合ったり、休日の過ごし方で喧嘩したり、したことがなかった」

「大事にされてた……ってことなんだろうな?」

「遠慮してただけかも……」

 直には直の不満があったのかもしれないと、思う。

 恋愛はふたりでするものだ。

 直の遠慮を優しさだと思い込んで甘えていた私にも非があったかもしれない。

「俺は天谷とは違うぞ」

「え?」

「真綿で包むような愛し方じゃ、つまらないからな」

「面白さを求めることですか?」

「一緒にいて落ち着くのも、楽しいのも、興奮するのも大事だろ? 俺は、絶対泣かせないなんて約束はしないし」

「え、なんか――」

「――むしろベッドではめちゃくちゃ泣かせたいし?」

「サイテー」

「はははっ」

 そんなこと言いながら、実はめちゃくちゃ優しいんじゃないだろか、なんて一瞬だけ想像してしまったら、また体温が上がる。

「さ、着いた」

 知らない道を通られては、ここがどこだか全くわからない。

 坂を上っているのは分かっていたが。

 街の中心部から三十分ほど走っただろうか。

 眩しかった夕陽は地平線に沈んでいく。

「ここ……」

 呆けているうちに、さっさと車を降りた皇丞が助手席のドアを開けて手を差し出す。

「え、恥ずかしい」

 映画のワンシーンのようなエスコートに、思わず本音が口をつく。

「誰も見てないって」

「なら余計に――」

「――格好つけさせろよ」

 彼があんまり穏やかに微笑むから、その手を取らないなんて意地悪のようにしか思えなくて。

 私はシートベルトを外すと、彼の手に自分の手をのせた。

 ほんの少しだけその気になって、両足を綺麗に揃えてアスファルトにおろしてみた。

 わずかに手を引かれ、反射的に軽く頭を下げて立ち上がる。

 コツ、と一歩足を踏み出すと、彼がドアを閉めた。

「これ、楽しいな」

 満足したようで、皇丞が目を細めて言った。

「ご満足いただけて何よりです」

 やっぱり少し恥ずかしくて、思わず視線を逸らす。

 慣れた手つきで私の手を自分の腕に絡め、後ろ手でドアノブに触れてロックをすると、皇丞は「行こう」と言って歩き出した。

 自然公園を背に佇むフレンチレストラン。

 確か、三ツ星を獲得したことがある。

 一番安価なランチコースでも六千円超えのはずで、予約も数か月先まで埋まっていると、テレビの特集で見た。

 そんなレストランの予約をどうやって取ったのか。

 三段しかない階段の一段に足をかけると、目の前のガラス戸が内側から開けられた。

 スーツを着た男性が恭しく頭を下げ、私たちが辿り着くのを待っている。

「いらっしゃいませ。お待ちしておりました、東雲様、木曽根様」

 私の名前まで呼ばれると思っていなかったから、ドキリとした。

 これが一流レストランか。

 店内は窓が多く、そこから望むのは青々と茂る木々。

 ベタな表現だが、森の中のようだ。

 陽が落ちた今は、窓の外はほんのりライトアップされて、幻想的だ。

「こちらへどうぞ」

 店内の他のお客様にサービスするウエイターはみんな白いシャツに黒いエプロン姿なのを見ると、私たちを案内してくれている男性は支配人だろうか。

 通されたのは個室で、部屋自体が半円を描いており、ほぼ窓だ。

 二十人くらいは入れそうな広さだが、置かれているのはテーブル一台に椅子二脚。テーブルの中央には真っ赤なバラが飾られている。

 細身のシャンパングラスのようなフラワーベースに三本のバラ。

 また、だ。

 映画のワンシーンのよう。
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