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4.合鍵
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しおりを挟むじく、と胸の奥が鈍く疼く。
期待、していたのだろうか。
するだろう。
私から彼に縋った。
だからいけなかったのだろうか。
つけ入ってほしいと縋った私は、惨めだったろうか。
皇丞の気持ちが、わからない。
「梓」
顔を覗き込まれ、ハッと後退るが、腰に腕を回されて下がった一歩はなかったことにされてしまう。
私はいつからこんなに我儘になったのだろう。
自分の、皇丞への気持ちがはっきりしないまま、どうしたいのだろう。
私を見上げる彼の表情があまりに穏やかで、自分の甘えが恥ずかしい。
思わず視線を逸らす。
「おやすみなさい」
「ああ、おやす――」
不自然に途切れた言葉の代わりのように、彼の手が私の頬に伸ばされる。
「――梓」
寝室の灯りは点いていないから、私の背後から差し込むリビングの灯りに照らされたベッドと、そこに落とす私たちの影がやけに緊張感のある雰囲気を醸し出していて、いたたまれない。
「ああは言ったけどな、手は出さない」
「え?」
「期待を裏切るのは心苦しいんだけどな? 後悔されたらたまんねーし」
期待、しているのだろうか。
あの部屋にいたくなくてついてきたくせに、別々に眠ることを寂しいと思うくせに、その感情が気の迷いじゃないと言い切れなくて。
そんな曖昧な気持ちのまま皇丞に抱かれて、私は楽になれるだろうか。
お酒を、きらりからの相談を、浮気の理由にした直と同じではないだろうか。
彼に、自分の仕出かしたことに言い訳をするなと怒りを覚えるのであれば、私も皇丞の優しさに甘えるばかりではいけないのだろう。
「あず――」
私は彼の言葉をキスで塞いだ。
軽く触れるだけの、短いキス。
彼の瞳に私が映る距離で、彼の瞳に映る自分から目を逸らす。
「復讐、したい」
「うん」
皇丞が、頷く。
次の言葉を催促するように、じっと私を見る。
「……幸せになりたい」
「うん」
まだ足りない、と言われているようだ。
「あの二人が羨むほど、幸せになりたい」
「うん」
皇丞の待っている言葉はわかっている。
「私は、愛してもいない男に抱かれたりしない……から――」
「――じゃあ、早く俺に堕ちろ」
伸びてきた手に後頭部を掴まれると同時に唇が重なる。
そのまま、彼の胸に倒れこむように抱きしめられた。
「ふ……」
膝が折れ、皇丞の上に圧し掛かるような格好になりそうになり、身構えた。が、背中がふわりと柔らかなベッドに沈んだ。
わずかな唇の隙間から侵入してきた皇丞の舌が、頬の裏側を舐め上げる。
「ん……」
ぴたりと重なった身体が、熱い。
こんなキス、期待しちゃうじゃない……。
それでも、キスに応えながらも、皇丞が私の顔の横に肘をついたままなことに、どこか安心してしまう。
皇丞の言う通りだ。
私だって後悔なんてしたくない。
流されていないと、自信が持てるまでは身体を繋げるべきじゃない。
それでも、このキスがもう少し続いてほしいと思ってしまうのは、私の我儘なのだろうか。
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