復讐溺愛 ~御曹司の罠~

深冬 芽以

文字の大きさ
24 / 208
3.復讐計画

しおりを挟む

「空けておけ、って。どこかに行く予定でした?」

 お腹が温まったからか、薬が効いてきたからか、体調はだいぶ楽になった。足を伸ばし、ソファにもたれる。

「ひとりでメソメソしてるんじゃないかと思って、な」

 気晴らしにでも連れ出してくれるつもりだったのだろうか。

 それにしても、婚約解消した三日後に他の男と出かけるなんて、それはそれでいかがなものか。

「直の私物を片付けるつもりでした」

 課長は「ああ」と呟いた。

「先にそっちだったか」

「先に、とは?」

「復讐、より」

「……さっきも言ってましたけど、復讐って?」

「……」

 無言でじっと私を見たかと思えば、課長は食器を持って立ち上がった。

「コーヒー、もらうわ」

「え? あ、はい。あ、課長はご飯食べてないですよね。私はもう大丈夫なので――」

「――冷蔵庫にあったパン、適当に食っていいか?」

「いいですけど……」

 初めてこの部屋に足を踏み入れて一時間弱。なぜか課長はすでに冷蔵庫の中身を把握しているだけでなく、コーヒーまで淹れている。

 なんとも不思議な気分だ。

 課長はモテる。

 イケメンで仕事ができて御曹司。

 モテるだろうにトラブルの噂がないところが、さらに好感度をアップさせているらしい。

 その上、料理ができて、傷心で体調不良の部下の面倒を見てくれるだなんて、完璧じゃないだろうか。

「課長の苦手なことってなんですか?」

 私に背中を向けるように立っていた課長が振り向く。

「は?」

「人には言えない性癖でもいいですよ?」

 再び背を向け、冷蔵庫を開ける。

 ちょうど私の位置から冷蔵庫は死角見えないが、昨日買って入れておいたパンを取り出しているようだ。

「人に言えないような性癖なら、お前にも言わないだろ」

「あるんだ」

「確かめてみるか?」

「無理です」

「即答かよ」

 冷蔵庫を隠している柱から顔を出した課長の手には、パンとサンドイッチとサラダ。私が買ったものほとんどだ。

 冷蔵庫に置き去りにされたのは、あんドーナツ。

 私が好きだと言ったこと、覚えてくれていたのだろうか。

 ガラステーブルにそれらを置いて、キッチンに戻った課長は、カップを二つ持って戻ってきた。

「あ、お前はコーヒーじゃない方が良かったか?」

「大丈夫です」

 さっきまで座っていた私の斜向かいに腰を下ろすと、パンの袋をバリッと開けた。くるみパンだ。袋には二十パーセント引きのシール。

「課長と割引シールって、驚くほど似合いませんね」

「似合うとは言われたくないから、誉め言葉だと思っとくよ」

 私がハハッと笑うと、課長も笑った。

「木曽根はさ――」

 課長が大きな口でパンを頬張ると、三分の一ほどがなくなった。

 咀嚼し、飲み込み、コーヒーを含んでもう一度飲み込む。

 スーパーのくるみパンを食べても様になるから、納得いかない。

 そういえば、いつもは後ろに流しているてっぺんの長い髪が、今日はうねうねして刈り上げた部分を隠している。



 くせっ毛……?



 Tシャツにジーンズ姿なら、三十代には見えないだろう。

「――あの二人に慰謝料払わせたらすっきりするか?」

「……どうでしょう」

 すっきり、なんてしない。が、そう言ってしまうのは、悔しい。

「で、復讐だ」

「……?」

「このままじゃ、木曽根は慰謝料はもらえても、社内の噂の的のまま居心地の悪い環境で働き続けなきゃならない。あいつらは慰謝料こそ痛手だとしても、一時だろう」

「はあ……」

 言われなくても、わかっている。

 慰謝料を受け取ったら、転職してもいいかもしれない。そこまでしなくても、休職して林海さんが産休に入るのを待ってもいい。

 私の今の状況を考えれば、課長や部長も許してくれるのではないだろうか。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

【完結】溺愛予告~御曹司の告白躱します~

蓮美ちま
恋愛
モテる彼氏はいらない。 嫉妬に身を焦がす恋愛はこりごり。 だから、仲の良い同期のままでいたい。 そう思っているのに。 今までと違う甘い視線で見つめられて、 “女”扱いしてるって私に気付かせようとしてる気がする。 全部ぜんぶ、勘違いだったらいいのに。 「勘違いじゃないから」 告白したい御曹司と 告白されたくない小ボケ女子 ラブバトル開始

苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」 母に紹介され、なにかの間違いだと思った。 だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。 それだけでもかなりな不安案件なのに。 私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。 「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」 なーんて義父になる人が言い出して。 結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。 前途多難な同居生活。 相変わらず専務はなに考えているかわからない。 ……かと思えば。 「兄妹ならするだろ、これくらい」 当たり前のように落とされる、額へのキス。 いったい、どうなってんのー!? 三ツ森涼夏  24歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務 背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。 小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。 たまにその頑張りが空回りすることも? 恋愛、苦手というより、嫌い。 淋しい、をちゃんと言えずにきた人。 × 八雲仁 30歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』専務 背が高く、眼鏡のイケメン。 ただし、いつも無表情。 集中すると周りが見えなくなる。 そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。 小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。 ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!? ***** 千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』 ***** 表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

溺愛彼氏は消防士!?

すずなり。
恋愛
彼氏から突然言われた言葉。 「別れよう。」 その言葉はちゃんと受け取ったけど、飲み込むことができない私は友達を呼び出してやけ酒を飲んだ。 飲み過ぎた帰り、イケメン消防士さんに助けられて・・・新しい恋が始まっていく。 「男ならキスの先をは期待させないとな。」 「俺とこの先・・・してみない?」 「もっと・・・甘い声を聞かせて・・?」 私の身は持つの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界と何ら関係はありません。 ※コメントや乾燥を受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。

処理中です...