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悪夢
しおりを挟む夢を見ろ。
苦しい悪夢を。
それがお前の背負いし業だ。
お前ら五人の英雄が背負いし業。
あの日の女鬼の所為だ。
恨むなら奴を恨め。
恨んでこの世ごと消えてゆけ。
~~~~
「やっと眠れる……」
殺はもはや仕事のやり過ぎで何徹目を迎えたかわからずにいた。
そうしてやっとのこと眠れる日が出来て喜ぶ。
大人になってから仕事が忙しくなったものだ、そう殺は一人で考えていた。
それもこれも閻魔が仕事をサボる所為。
だが閻魔が仕事をサボるのが当たり前に思えるようになってしまった。
慣れとは恐ろしいものだ。
「では灯りを消しましょうか……」
彼は唯一、部屋を照らしていた灯りを消す。
こうして部屋は真っ暗になり眠るのにはちょうど良い状態になった。
彼は眠る、良い夢を期待して眠りに耽る。
だが彼は知らなかった。
この後に見る夢が悲惨で凄惨なことを……。
~~~~
「ここは……?」
真っ暗な世界で殺は一人で歩く。
何処かわからないが彼は冷静だった。
冷静に夢と判断した。
何しろ不幸の鬼の世界で慣れているからだ。
真っ暗な辺りを見回して殺は溜め息をつく。
「……もっと明るい夢はないのですか?」
夢くらいは明るく、そう期待していたのに裏切られた。
そう思い、殺は酷くがっかりとする。
その時であった。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」
「あっははは!」
限界まで振り絞られた甲高い悲鳴と何かを嘲笑う低い何者かの声がした。
殺は声の方を向く。
すると其処にはとても惨い光景が広がっていた。
斬り刻まれて飛び出た黄色の脂肪、抉られ落ちた眼球。
血と臓物は川となり流れて殺の足元へ行く。
その血に彼は小さな悲鳴をあげて尻餅をついた。
何かが生きている者を殺している。
それが殺にはわかった。
彼は静かに立ち上がる、それは先ほどの弱さを見せていた彼ではない。
人に悪夢を見せている存在に怒って、歩みを進めた。
~~~~
血の川を辿りながら殺は歩く。
そうして歩いていたら彼は血が溜まりに溜まっている場所に着いた。
いや、血だけなら良かった。
其処には無数の人々の死骸が積み重なっていたのである。
それは、どれもこれも絶望を映し出した死に顔。
それを見て殺は再び恐怖に貶められた。
この顔には見覚えがある。
否、忘れてはならない。
それは殺が殺していった家族の顔だった。
自分が絶望という世界を見せて殺した存在である。
「な……んだ?」
「貴方が殺したのでしょう?人殺し」
「は?」
積み重なった死体の上から声がした。
殺はすぐさま声の方を向く。
すると其処には紅い髪の紅い目をした男が立っていた。
それが殺には誰だかわかった。
自分。
それがわかった瞬間に殺は笑った。
「人殺し?私は生き物は殺してませんね。裏切りを働いた馬鹿は殺しましたが。裏切り者は生き物に入らないでしょう?」
殺には人殺しの罪悪感など無かった。
裏切りを働いた生きる価値の無い者は死んでしまえば良い。
それが彼の考え方だ。
だがもう一人の殺は笑う。
「あっははは!」
「何が可笑しい?!」
殺は苛烈なまでの怒りを全面にあらわす。
それを見てもう一人の殺は落ち着くようにと笑った。
「落ち着きなさい。貴方は人殺しです。ですから貴方にも罪悪感があるでしょう?」
「人殺しだとしても罪悪感などありません」
「いえ、あります。私が思い出させてあげましょう。罪の意識を……」
「はぁ?」
その瞬間に世界は変わる。
そう、殺が初めて裏切り者を殺した世界に。
「これは……?」
「うわぁぁぁぁぁぁ!!!」
泣き叫んでいる。
それは幼き日の殺。
「何で……何でぇぇぇぇぇえ!!!」
初めて裏切り者を殺した日。
裏切りを知って苦しんだ日。
何より家族を殺して悔やんだ日だ。
この日、殺は自分は悪くないと自分自身に言い聞かせる。
この光景は殺の中で封印していた記憶。
だって思い出したら辛い気持ちが蘇るから。
「ぁぁぁぁぁぁ!!!」
殺は悶え苦しむ。
その間に幼き日の殺はにやりと笑った。
「人殺し!」
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