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弟子入り少女
しおりを挟む今日も外は天気が良い。
殺はたまの休みとして活気づいた街を散策していた。
混合者事件から見事な復興を得た街は以前の惨状をもう残していない。
「甘味屋にでも寄りますか」
そう楽しそうに微笑んでは甘味屋にへと足を運んで行く。
今日は何を食べようか?
そんな些細なことを考えて今を生きる。
何もない一日、そう思っていた。
だが修羅を生きる殺たち、何もないなんてある訳がない。
殺は今日もまた大きな事件に出会うのであった。
~~~~
「殺様!!」
「……誰です?」
殺は突如、甘味屋の前で名前を呼ばれる。
声に少し驚きながら振り向いたさきには一人の少女が立っていた。
泥で汚れたみすぼらしい格好、貧相な胸。
唯一の良いところをあげるとしたら見た目が可愛らしいことか。
「私に何の用ですか?」
「実は殺様に頼みごとがありまして!!」
「ほう……頼みごと?」
すると少女はいきなり地に跪き、頭をつける。
いわゆる土下座といったものだ。
少女は大きな声で頼みごととやらを叫ぶ。
「私を守ってください!!」
「はぁ?」
殺はこの少女は何を考えているのかと本気で疑問に思う。
会って数秒で土下座をして守ってくださいなどと言う少女に呆れていた。
「実はとある組織に命を狙われておりまして!頼れる強き者といえば貴方しか思い浮かばないのです!」
頼れる強き者という発言に殺は少し機嫌が良くなる。
だがしかし、今は仕事で忙しい身。
そんな状況で少女に構ってられる暇など殺にはなかった。
だからこそ殺は意地悪なことをする。
「私に守ってもらいたいなら私が満足するような見返りをください」
体良(ていよ)くあしらったつもりだった。
だがそれに少女はものともしなかった。
「なら私が弟子になりましょう!今はまだ弱いが将来は有望な若者!そんな私が貴方の弟子になったら有益しか起こらない!」
殺は自分を有望と謳う少女に失礼だが大声で笑った。
少女はその笑いに断られると不安を抱いているのか若干顔が曇っている。
そうだ、これは取引きにもなっていない。
だから断られることが当たり前でもあった。
だが殺は少女に手を差し伸べた。
「良いでしょう。貴方を守ってさしあげます」
「……殺様!!」
「貴方、名前は?」
殺は少女に名前を訊ねる。
少女は貧相な胸を張り、堂々と名を名乗った。
「私の名は日向です!!」
「日向さんですか。よろしくお願いします」
こうして殺は暫くの間は少女の茶番に付き合ってやるかと日向の手をとった。
~~~~
「何じゃ?その貧相な娘は」
「弟子です」
「お前……とうとう弟子をとったか」
殺は何故か人殺し課へと来ていた。
その理由は日向が五人の英雄に会ってみたいと我儘を言ったからである。
この少女、駄々っ子で一度決めたら最後までやり通す主義だ。
「それにしても汚れてるな。閻魔殿にシャワーがあるし、洗ってきたら如何だ?」
「もとより、そのつもりですよ。さあ日向、シャワーの場所まで案内しますからついてきなさい」
「はーい!!」
日向は元気良く返事を返して殺に駆け寄っていく。
その際に殺は「服も買いに行きますよ」などと言って少女をシャワーまで案内した。
~~~~
「はぁー!さっぱり」
「良かったですね」
そう言う二人は再び街にくりだしていた。
服を買う、その宣言通りに服屋へ向かっていたのである。
「いらっしゃいませ」
服屋に入り殺は日向に自由に選んでこいと言う。
殺は実はわざわざ若者向けの店を調べて来たのだ。
それもこれも日向の為だ。
日向は嬉しそうに服を選んでいく。
殺は店を調べた甲斐があったものだと思いながら少女の長いファッションショーに付き合った。
「これに決めました!!」
「可愛らしいですね」
日向が選んだ服は向日葵の如く鮮やかな黄色で、フリルをふんだんにあしらった短い丈の可愛い着物だった。
日向は気に入った服を着て店を出る。
殺は喜んでいる日向を見て少しはにかんだ。
「次は髪を切りに行きましょうか」
「はい!!」
最早、この二人は師弟関係というより親子に見えた。
~~~~
少女は髪を綺麗に整えられる。
みすぼらしい格好から、まるで人形のように美しい女の子となった。
「これが……私?」
肩くらいの長さの緑の髪が揺れる。
日向は見違えた己の姿に唯々、言葉を失っていた。
「貴方、家は?」
「無いです」
「ですよね。それなら私の家に来ませんか?」
日向は「良いのですか?」などと申し訳なさそうに訊ねる。
「良いから提案したのですよ」
「殺様、ありがとうございます!」
そうして二人は同じ家に帰っていった。
その姿はやはり親子のように思える。
~~~~
次の日のこと、日向は人殺し課で遊んでいた。
それも美鈴と小夜子と楽しそうにだ。
古株の二人は良い話し相手が増えたと喜んでいる。
「殺、あの少女を何故に弟子にしたんだ?」
「取り引きもどきをした結果です」
「取り引きもどき?」
殺は初めて日向に会った日のことを話した。
すると御影は顔を真っ赤にし、殺を叱った。
「この馬鹿者!」
「何ですか?御影兄さん」
殺は突如あげられた怒号にものともせずに、背筋を伸ばしたまんま無表情でいた。
それに御影は更に血圧を上げ、怒ったのか、より大声で怒鳴る。
「その少女は命を狙われているのじゃろう?!それを守るなんて危険な真似をするな!守る必要はお主にはないじゃろう!お主が怪我をしたら儂は……!」
この間、日向は厠に行っていて話を聞いてなかった。
殺は御影の話を聞いて少し黙るが反論する。
「日向が言っていることは本当かわかりません。寧ろ茶番な気がしてならない。私は茶番に乗っただけです」
「……本当に茶番じゃな?」
「たぶん。それに放って置けなかった」
殺の何の根拠もない言葉と放って置けなかったという言葉に御影は呆れかえる。
だが放って置けないのが殺とわかっている以上は何も言えなかった。
「ただいま厠から帰還しましたー!皆様、昼食を食べに行きましょう!」
「そうですね、行きましょう」
そう言って皆は日向についていって食堂へ向かった。
~~~~
初めて会った日から数日が経過した頃、殺と日向は寝食を共にするようになっていた。
それには陽も思わず嫉妬をするほどで「羨ましい」などと彼は口にしている。
そんな陽を見てからかう殺は意地が悪い。
殺と日向は街へ出る。
それは殺の仕事の都合でだ。
殺は外での仕事を終わらせると甘味屋へ向かい、団子を頼む。
すると運ばれて来たのは普通のみたらし団子だ。
殺は糖分は至高といった風に団子を食べ始めた。
「甘いもの、好きなのですね」
「出会ったのも甘味屋でしょう」
「そうでしたね」
その瞬間に殺は団子の串を少女の眼前に突き立てる。
何が起きたかわからない少女と周りの客は全員固まった。
数秒経った頃か、殺は少女に突き立てていた串を下げる。
「弟子ならこのくらいは避けられるようにならないと。師匠としての行動です」
日向は暫くは呆然としていたがすぐさまいつもの笑顔に戻った。
「はい、次からは避けます」
そう笑う少女に殺は案外楽しい日常だと微笑んだ。
そうして殺は団子の串を素早く投げる。
投げた先には刀を抜こうとしている不審な男が居て、その男の手に団子の串が刺さった。
「ぐあっ!」
「これは!?」
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「信じてくれてなかったのですか!?」
そうこうしている間に殺たちは顔を隠した者たちに囲まれる。
しかも滲み出る覇気でわかる、どいつもこいつも実力者だと。
それは少女にもわかった。
「殺様、逃げましょう!」
「いえ、逃げません。貴方を守る約束をしましたから。それに……」
「……それに?」
殺は今日一番の笑顔を見せる。
「弟子に格好良い所を見せたいでしょう?」
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