上 下
93 / 167

風と速さの暗殺者

しおりを挟む

「さぁ、おいらに勝てるか勝負だ!」

 そう叫ぶ風の両腕は刃になっていた。
 刃を持っているわけでもない、両腕が刃になっている。
 すると急に竜巻の様なものがサトリを襲った。
 竜巻を避けてサトリは攻撃の体勢を整えようとした時だった。

「遅い!!」

 肩を斬り裂かれるが、サトリは間一髪避けて風に一撃を喰らわす。
 だが風は物怖じも何もせずに、またサトリを斬り裂こうとする。

 風の攻撃はあまりにも速かった、心が読めるサトリでも間に合わない程に。
 だが、それで正体がわかった。
 両腕の刃、あまりにも速い攻撃。

 かまいたち

 それは速さと風を司る妖怪。
 暗殺者としてはもってこいの妖だ。
 彼はきっと、その両腕で何百ともあろう者を葬って来たのだろう。
 その一人にサトリも入れるつもりだろうか。

 風は竜巻を巻き起こす。
 その風にあたってしまうだけで怪我をしてしまうのはわかっていた。
 彼は暗殺者、だからこそサトリはこの姿での能力を使うか悩んでいた。

 風は沢山の竜巻を起こす。
 それを避けながら風の攻撃も最低限避けていく。
 途中で攻撃を見切ったサトリは風に深い切り傷をあたえた。
 だがそれでも風は笑っていた。

「もっと、おいらを楽しませてくれよ!!」

 彼は外傷なんて気にしない。
 そう気づいた瞬間にサトリは笑った。
 こいつには、この能力を使うしかないと。

「真の恐怖を味あわせてやるよ」

 サトリは風に斬りかかる。
 だが風はそれを防ぎながらもう片方の腕でサトリを斬り裂こうとする。
 だがサトリもそう簡単には殺られない。

 もう片方の腕の攻撃を避けて、それから足に攻撃をする。
 大事な足を斬られた風は少し苦痛に顔を歪ませた。

 その勢いでサトリはあらかじめ御影から貰っていた呪符を取り出し、風に投げる。
 この呪符は強い者しか使いこなせなくて難儀な物だが、今のサトリは強い。
 だから使いこなせられる。

 呪符を風の足に貼り付けて速さを封じようとする。
 けれども風はそれを斬り裂いてやろうと刃を呪符に向ける。

 呪符は普通なら刃にあたれば破れる。だがしかし、この呪符は特別製。
 逆に風の刃を片方だけ防いでしまった。
 左腕が封印されたことに風は怒る。

 そんな様子を見てサトリはケラケラ笑った。

「左腕は封じさせてもらったぜ!」

 あまりにも酷く笑うサトリに風は怒りを露わにする。

「くそがぁぁぁぁぁぁ!!」

 左腕を封じた、だがそれでも風の勢いは止まらなかった。
 片腕だけでも竜巻が彼には出せたのだ。
 しかも大量に。
 部屋中に竜巻が発生したことにより御影にも危険が迫る。

「御影!!危ない!」

「サトリ!!」

 サトリは御影を竜巻のない場所へと移動させるかわりに竜巻に身を斬り裂かれる。

「はぁ、はぁ……」

 息も絶え絶えなサトリに風は嘲笑を送った。

「馬鹿が!仲間を救う為に自分が犠牲になるなんて!笑えるな!」

 風は腹を抱えて笑い始める。
 目の前のサトリは倒れていて微動だにしない。

「死んじゃったの?弱かったな」

 風は御影の方へと向かう。
 だが危険が訪れようとしている御影は如何でも良さそうな顔をしていた。

「何でお前はおいらを怖がらない?」

「だって決着はついてないからのぅ」

 決着がついてない?その言葉を聞いた瞬間に後ろから足音が聞こえた。
 振り返って見てみれば先ほどまで重症だった筈のサトリが軽傷で立ちはだかっている。

「何で?!」

 風は混乱する。確かに自分が起こした竜巻にサトリは突っ込んだ筈だ。
 なのに目の前のサトリは竜巻の傷は負っていない。
 するとサトリは笑った。

「竜巻に真正面から突っ込んだわけないだろう」

「だがお前は確かに竜巻に突っ込んだ!何故、傷を負ってない?!」

 風は現在の状況がわからずに焦る。
 それを見透かしてサトリは答えた。

「この姿になると能力が追加されるんだぜ。相手に幻影を見せる能力。俺が死んだかと思って油断しただろう?さあ、真の恐怖を味わいな」

 幻影を見せる能力という言葉を聞いた瞬間に風の前に沢山のぐちゃぐちゃの人影が現れる。
 どれもこれも恨み言を言っていて見る者を恐怖に陥し入れる。
 だが風はより恐怖に陥っていた。

 何せ目の前にいるぐちゃぐちゃな物体は自分が殺してきた存在だったからだ。
 己の刃で斬り刻まれ、原形のない存在。
 彼はそんな殺し方をしてきた、暗殺者も殺人鬼だ。
 だからこそ自分が殺した相手が蘇るのが怖い、それがサトリにはわかっていた。

「如何?自分が殺してきた存在が蘇るのって?」

「あっ……ぁぁぁぁぁぁ!!!」

 風はもはや戦闘不能だった。
 それを見てサトリは静かに笑う。

「本当の恐怖がわかって何よりだぜ」

 こうしてサトリは風に勝って颯爽と御影と共に進もうとした。
 だが……。

「やっぱり敵は現れるのじゃな!」

「しかも沢山!」

 風が蹲る場所に沢山の敵が集まる。

「こうなりゃ共闘だ!御影!」

「そうじゃな!!」

 葛葉を救うまであと少し……。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

伯爵夫人のお気に入り

つくも茄子
ファンタジー
プライド伯爵令嬢、ユースティティアは僅か二歳で大病を患い入院を余儀なくされた。悲しみにくれる伯爵夫人は、遠縁の少女を娘代わりに可愛がっていた。 数年後、全快した娘が屋敷に戻ってきた時。 喜ぶ伯爵夫人。 伯爵夫人を慕う少女。 静観する伯爵。 三者三様の想いが交差する。 歪な家族の形。 「この家族ごっこはいつまで続けるおつもりですか?お父様」 「お人形遊びはいい加減卒業なさってください、お母様」 「家族?いいえ、貴方は他所の子です」 ユースティティアは、そんな家族の形に呆れていた。 「可愛いあの子は、伯爵夫人のお気に入り」から「伯爵夫人のお気に入り」にタイトルを変更します。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...