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紅き男の誕生
しおりを挟む刀と刀がぶつかり轟音が鳴り響く。
陽は意地で震える手を抑えた。
「どこまで斬ったらお前は死ぬのかな?」
久遠は人を殺すのが楽しいと言わんばかりの良い笑顔で陽を斬りつける。
陽はそれを真正面から受け止めるとすぐに腕を痛めると判断して受け流す様に防ぐ。
久遠の一撃一撃はあまりにも重すぎて腕が鈍く痛み、振動が走るほどだ。
手の痺れに陽は顔を苦痛に歪ませる。
受け流すだけでも苦労する攻撃はあまりにも辛い。
陽には戦いの経験はあまりない。
だからこそ経験と勘、実力を久遠に圧倒的に突き放されている。
とても早い剣の太刀筋は見極めるのさえ困難でこのまま戦い続けると負けることは誰にでもわかった。
「おら!死ね!」
久遠は精一杯の力を込めて陽を斬り刻もうとする。
だが陽もそう簡単にやられる訳がなかった。
「は!」
神経を張り詰めて剣の太刀筋を見切り横に避ける。
すぐに蹴りの体制を整えて強力な攻撃を繰り出していく。
連続して蹴りと斬撃を繰り出すがどれもこれも全てにおいて防がれていく。
陽が久遠の顔に蹴りをいれる。
だが久遠は微動だにもしなかったのだ。
いつもの敵なら吹っ飛んでいる筈だからこそ陽は焦った。
「弱いな」
己の力が久遠と差がありすぎることに陽は焦った。
久遠は顔面に蹴りを入れられているのに笑っている。
まるで……否、痛くないのだろう。
久遠にとっては陽の蹴りはダメージに入らない存在だ。
これが中国を支配した神の子、久遠。
悍ましいほどの狂気に身が竦んでしまう。
「一つ教えてやる」
久遠が陽の足を掴む。
力を込めた手に掴まれた足は今にも折れそうになる。
それに思わず陽は苦痛の表情を浮かべてしまった。
その苦痛の表情に久遠が喜びを感じることを知らずに。
「お前は死ぬぜ」
足を掴んでくるくると回してから壁へと投げる。
一瞬で壁へと減り込んだ陽からは血が溢れていく。
「ガハッ……!」
「はははははは!!……?」
久遠の動きが止まる。
彼は足に違和感を感じたのだ。
ふと足下を見ると足に鋭い何かの骨が貫通していた。
それを見て久遠は死神の力を使われたと理解する。
「あの一瞬で自分の能力を使うなんてまあまあだな……でもだから何だ?」
久遠の周りに人の形を模した呪符が集まる。
それら一つ一つには明らかに強力な呪いがかけられているのが見てわかる。
「当たれば大変なことになるぜー」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべれば呪符を陽に向かって飛ばす。
陽は体を起こして急いで避ける。
だが呪符は陽を追いかけてきたのだ。
「くっ……、ならば!」
陽は迫り来る呪符を斬り刻んでいく。
早く打開策を考えなければと考えていた時だった。
斬り刻んだ筈の呪符が体に張り付く。
一瞬で体中に痛みが走っていく。
口から何か真っ赤な液体が流れていることが陽にはわかった。
真っ赤な血を陽は大量に吐き出す。
おかしい、呪符は斬った筈だった。
「俺様の呪符はそう簡単には防げないぜ、それがわからないなんて未熟だな」
未熟だなと久遠は笑う。
「お前が悪いんだ、俺様から殺を奪ったお前が……。俺様の方が好きなのに」
久遠は憤怒の表情を浮かべて陽を斬り刻む。
短な悲鳴が途切れ途切れ聞こえてくる。
陽の悲鳴に今まで戦いに魅入っていた殺が声を上げる。
「止めろ!久遠!陽を斬るな!」
「嫌だ!止めない!」
久遠は叫び斬り刻んでいく。
凄惨な光景が広がっていくが、それでも陽は言葉を放つ。
「ぼ……僕は諦めない!帰るんだ!皆でまた笑いあうんだ!殺を幸せにするんだ!」
それは誰かの幸せを守ろうと戦っていた。
独り善がりの我儘とは違った。
だが久遠は嘲笑い斬り刻む手を止めない。
「止めろ……止めろォォォォォォォ!!」
~~~~
『久遠は女の貴方を愛してるだけだよ』
そう殺の頭の中で声が響いた。
『やあ、私は呪い。久遠が腹いせでかけた呪いだよ』
呪いという声がまた響き渡る。
殺は混乱していた、自分にかけられていた呪いが話し出していると。
『私はね、ずっと見てた。貴方の人生を。そして応援してたんだ。貴方の幸せを』
幸せを応援していたという言葉に殺は反応する。
『久遠の呪縛を壊す為に私を受け入れない?力になるよ』
久遠の呪縛を壊す。
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『それでも貴方は選んだんだね、自分の気持ちを決めたんだね』
「ええ、決めました」
そう殺は呟いた。
~~~~
「死ねぇぇぇぇぇえ」
久遠が刀を振りかぶる。
その時だった。
久遠の顔面に拳が入っていく。
一瞬で彼は吹き飛ばされた。
陽が上を向く。
するとそこには一人の男が居た。
呪いを受け入れて本当の男になった紅い殺が。
「私の恋人に手を出すな……!」
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