地獄の日常は悲劇か喜劇か?〜誰も悪くない、だけど私たちは争いあう。それが運命だから!〜

紅芋

文字の大きさ
上 下
73 / 167

運命が選ぶもの

しおりを挟む

 人殺し課は困惑を極めていた。
 その理由は閻魔の初めての謎の休みのことについてだった。
 人殺し課の者以外の地獄で働く職員ですら混乱で仕事が遅れている程だ。

 そんな中でもう一つの謎が人殺し課にあった。
 殺が不自然に手首を切っていたのだ。
 時折だが手首を押さえて痛みを耐える顔を見ていると傷は深いのではないかと憶測をとばしてしまう。

 昨日までは普通だった筈なのに今日は異常なことが起こるとは……。
 人殺し課も何をどうすれば良いのかが分からなかった。
 すると殺が皆の方を向く。
 その顔は真剣な表情にもとれたが、何かを言いにくいという葛藤の表情にもとれた。

「皆さん、人殺し課にとって重大なことを言いますから聞いてください。昨日のことにも関係あります」

 重大、昨日のこと……それを言われたら聞くしか選択肢はなかった。
 珍しく仕事を丁寧にこなしていた皆が殺を見つめる。
 殺は少し疲れたかの様な表情で何から話せば……いや、何を話せばいいかはわかっているのだろう。
 重い口を殺は開いた。

「敵が実体化しました」

「え……?」

 実体化……前回は封印されていたと聞いていた筈の皆は焦る。
 昨日にいったい何があったのか?それが気になる。

「封印先は閻魔大王だったのです。それを知った敵は閻魔を斬った、そして私と戦う……ただそれだけです」

 太古の完全を望む敵と斬り合いをした、その事実に御影は殺の傷の心配をより強めた。
 だが殺は「痛いだけで治ってきています」などと心配されない様に言葉を放つ。
 そして更に話さなければならないことを言うことにした。

「敵大将の封印先は謎です、不幸の鬼の記憶は完全ではないので……」

 記憶が不完全ということに皆は不安になる。
 もし敵に、先に封印の場所を知られてしまったら……そう考えるだけで恐ろしい。
 皆は己の顔が不安でひどく歪むのがわかる様だった。
 だが殺はたいして不安そうではなかった。
 寧ろ言いにくいことを言い終え、清々としている様だった。
 そして彼は言葉を放つ。

「別に敵を撃破したら良いだけですから大丈夫です」

 そう彼は自信満々に言った。
 その言葉は強い意志と決意に満たされていて信じざるを得ない程にだ。

「……そうだな、それが仕事でもあるし運命だからな」

 陽は少しだけ笑いながら小さな声で呟く。

「縄で縛れば良いのですわね!」

「SMかよ!」

「面白そうじゃな!」

 殺の言葉にとても安心してしまった彼らは、もはや笑うしかなかった。
 この自信家は本当に不可能を可能にしてしまう者だから誰も疑わない。
 いや、皆は信頼で成り立っているから誰も疑ったりしない。

 やれば出来る子、少し残念なところもあるが彼らに出来ないことはきっとないのだ。
 だから世界の終末すら日常に戻してしまう。
 それが彼ら、選ばれし者なのだ。

「絶対に平和を取り戻しますよ」

 そう彼は強く発言した。
 御影とサトリは笑顔で、陽とMは張り切っている。

「さあ、日常は我等の手に」

 彼らは正々堂々とこれからの争いに立ち向かう。

 運命は何を選び捨てるのか?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞 ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。 そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。

処理中です...