地獄の日常は悲劇か喜劇か?〜誰も悪くない、だけど私たちは争いあう。それが運命だから!〜

紅芋

文字の大きさ
上 下
69 / 167

封じられし者

しおりを挟む


 俺たちは地獄に実体で攻め入ることは出来ない。
 なんて不便で不平等なのだろうか。
 不幸の鬼は俺たちの肉体を封じているという。
 ということはその封印を解けば俺たちはいつでも地獄に攻め入れることが出来るわけだ。
 ならば話は簡単だ、封印を解いて早く世界を元に戻したら良い。
 だから俺が……砲牙が参ります。
 我が親愛なる父が為に……。



~~~~


「ねえ、裏切り者が居るとしたら君は如何する?」

「重い処罰を下します」

 お昼の休憩時間に他愛なくない重たい内容の会話を交わす閻魔と殺は通常運転だ。
 暗く雨が降る本日は電気を点けないと書類が見え辛いというのに天気よりも二人は重い話題を語る。
 誰も居ない部屋で閻魔は笑いながら「だよねぇ」などと言う。

 殺は少しだけ考えた。
 自分は裏切り者を如何するかと、だが答えは決まっているのだ。
 勿論のこと残酷に殺す。

 それはそれは裏切りを後悔するほどに生き地獄を味あわせて最後は死体を誰にも見つからない場所に捨てる。
 自分は処罰では済ませられないのだなと少し自嘲気味に笑えば閻魔が買ってきたという美味しいお茶を一口飲む。

 紅茶とは閻魔も中々洒落たものを選んでくるなと感心してお菓子を口の中に放る。
 今日のお菓子は殺が好きなクッキーだ。
 そもそも彼には嫌いなお菓子は無いがその中でもクッキーは好きなものの上位に入る。

「今日のクッキーと紅茶はお高いんだよー」

「それは何となくわかりますよ」

 物の価値に興味は無いが高いものはそれなりにわかるつもりの殺は素っ気なく返事を返した。
 閻魔は殺の素っ気ない態度に文句を少し言うがそれが彼なんだと割り切ることにする。

 それにしても先程まで重たい話題を振ってきていたのに何故ここまで軽い態度で居られるのかは謎だ。

「閻魔大王、本題を言ったら如何ですか?」

 唐突。
 本当にそうとしか言い表せない程だった。
 殺の目は少し前までの適当な目と違って真剣でどこか苛立ちを見せていた。
 おそらく彼はわかっているのだろう、閻魔の口から何が語られるかを。

「君は鋭いね。私が何を言いたいのかわかっている」

「一応ですが間違えていたら……間違えていた方が良いので早く言ってください」

 閻魔は暗い表情を浮かべて口を開く。
 それは閻魔にとっても間違いであってほしいことを口にする。

「裏切り者が居る」

「やはりですか……」

 やはり、そう口にした殺は困ったかの様な顔つきで一枚だけクッキーを食べた。
 気を紛らせたかったから手近にあったクッキーを口にすることにしままでだ。
 閻魔も困った顔で続きを言い始める。

「最近は地獄の内情を探っている者が居る気がするんだよ」

「はあ……」

 殺は思わず溜め息を吐く。
 彼は裏切りを最も嫌う、だからこそ嫌いなことをしてくる者が居ることに腹がたち溜め息を吐く。

「で、裏切り者を探せば良いのですか?」

「その通り!人殺し課に頼みたい」

 閻魔はお菓子を貪りながら指を指し不敵に笑った。
 人に指をさすとは行儀が悪いと叱りたいが今はそんな気分ではない。
 殺は暫くの間、沈黙を続けながら考えた。

「その仕事、私に任せていただけませんか?」

「人殺し課でやらなくて良いの?」

「ええ、大丈夫です」

「ならば任せるよ」

「この命に代えても命令を成し遂げます」

 殺はニヤリと笑い部屋を後にした。


~~~~


「美優、貴方に頼みたいことがある」

「大体は察したわ、いつものパターンの裏切り者探しでしょう?」

「その通りです」

 殺は一人の少女に電話をかける。
 旧くからの友は何も言わなくても話を察してくれるのでいつも感謝していた。
 殺とよく一緒に裏の仕事をする少女、美優は裏切り者が出たと言っても大して驚くことも無かった。

「定期的に裏切り者探しをしていたでしょう。結果を言うわね」

「はい」

 殺は静かに返答を待つ。
 美優は言ったら殺のストレスが最高潮に達してしまうだろうと頭を悩ませてしまうが言わなければならない。

「裏切り者は複数居るわ。日に日に変わっていってる」

「複数か……」

「基本は夜の遅い時間に行動しているから閻魔殿を式神を使って張り込んでみたら?」

「そうします」

 殺は複数の裏切りに苛立ちを覚える。
 信じていた、仲間だと思っていた、だからこそすぐに憎くなってしまう。
 今夜は式神を使って張り込みをして徹夜の覚悟を決めた時だった。

『嫌な気配を感じます』

 不幸の鬼の声が頭の中に響いたのだ。
 嫌な気配、その言葉に疑問を生じさせたが殺は張り込み用の食料をまず買い込むことに決めた。

「裏切りは許さない、絶対に」

 その言葉を呟く彼の顔は酷く美しかった。
 きっと彼はその美しい顔で人を殺すのだろう、その顔を狂気に歪めて。
 裏切り者が最期に見るのは美しい世界。
 彼の歪んだ美しい世界をみるのだ。


~~~~


 封印はどこに張り巡らされているのかな?
 早く実体が欲しい。
 自由に動ける体が欲しい。
 そしたら世界を正すんだ。
 元の完全が存在する美しい世界に。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

リヴァイアトラウトの背の上で

結局は俗物( ◠‿◠ )
ファンタジー
巨大な魚とクリスタル、そして大陸の絵は一体何を示すのか。ある日、王城が襲撃される。その犯人は昔死んだ友人だった―… 王都で穏やかに暮らしていたアルスは、王城襲撃と王子の昏睡状態を機に王子に成り代わるよう告げられる。王子としての学も教養もないアルスはこれを撥ね退けるため観光都市ロレンツァの市長で名医のセルーティア氏を頼る。しかし融通の利かないセルーティア氏は王子救済そっちのけで道草ばかり食う。 ▽カクヨム・自サイト先行掲載。

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

処理中です...