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封じられし者
しおりを挟む俺たちは地獄に実体で攻め入ることは出来ない。
なんて不便で不平等なのだろうか。
不幸の鬼は俺たちの肉体を封じているという。
ということはその封印を解けば俺たちはいつでも地獄に攻め入れることが出来るわけだ。
ならば話は簡単だ、封印を解いて早く世界を元に戻したら良い。
だから俺が……砲牙が参ります。
我が親愛なる父が為に……。
~~~~
「ねえ、裏切り者が居るとしたら君は如何する?」
「重い処罰を下します」
お昼の休憩時間に他愛なくない重たい内容の会話を交わす閻魔と殺は通常運転だ。
暗く雨が降る本日は電気を点けないと書類が見え辛いというのに天気よりも二人は重い話題を語る。
誰も居ない部屋で閻魔は笑いながら「だよねぇ」などと言う。
殺は少しだけ考えた。
自分は裏切り者を如何するかと、だが答えは決まっているのだ。
勿論のこと残酷に殺す。
それはそれは裏切りを後悔するほどに生き地獄を味あわせて最後は死体を誰にも見つからない場所に捨てる。
自分は処罰では済ませられないのだなと少し自嘲気味に笑えば閻魔が買ってきたという美味しいお茶を一口飲む。
紅茶とは閻魔も中々洒落たものを選んでくるなと感心してお菓子を口の中に放る。
今日のお菓子は殺が好きなクッキーだ。
そもそも彼には嫌いなお菓子は無いがその中でもクッキーは好きなものの上位に入る。
「今日のクッキーと紅茶はお高いんだよー」
「それは何となくわかりますよ」
物の価値に興味は無いが高いものはそれなりにわかるつもりの殺は素っ気なく返事を返した。
閻魔は殺の素っ気ない態度に文句を少し言うがそれが彼なんだと割り切ることにする。
それにしても先程まで重たい話題を振ってきていたのに何故ここまで軽い態度で居られるのかは謎だ。
「閻魔大王、本題を言ったら如何ですか?」
唐突。
本当にそうとしか言い表せない程だった。
殺の目は少し前までの適当な目と違って真剣でどこか苛立ちを見せていた。
おそらく彼はわかっているのだろう、閻魔の口から何が語られるかを。
「君は鋭いね。私が何を言いたいのかわかっている」
「一応ですが間違えていたら……間違えていた方が良いので早く言ってください」
閻魔は暗い表情を浮かべて口を開く。
それは閻魔にとっても間違いであってほしいことを口にする。
「裏切り者が居る」
「やはりですか……」
やはり、そう口にした殺は困ったかの様な顔つきで一枚だけクッキーを食べた。
気を紛らせたかったから手近にあったクッキーを口にすることにしままでだ。
閻魔も困った顔で続きを言い始める。
「最近は地獄の内情を探っている者が居る気がするんだよ」
「はあ……」
殺は思わず溜め息を吐く。
彼は裏切りを最も嫌う、だからこそ嫌いなことをしてくる者が居ることに腹がたち溜め息を吐く。
「で、裏切り者を探せば良いのですか?」
「その通り!人殺し課に頼みたい」
閻魔はお菓子を貪りながら指を指し不敵に笑った。
人に指をさすとは行儀が悪いと叱りたいが今はそんな気分ではない。
殺は暫くの間、沈黙を続けながら考えた。
「その仕事、私に任せていただけませんか?」
「人殺し課でやらなくて良いの?」
「ええ、大丈夫です」
「ならば任せるよ」
「この命に代えても命令を成し遂げます」
殺はニヤリと笑い部屋を後にした。
~~~~
「美優、貴方に頼みたいことがある」
「大体は察したわ、いつものパターンの裏切り者探しでしょう?」
「その通りです」
殺は一人の少女に電話をかける。
旧くからの友は何も言わなくても話を察してくれるのでいつも感謝していた。
殺とよく一緒に裏の仕事をする少女、美優は裏切り者が出たと言っても大して驚くことも無かった。
「定期的に裏切り者探しをしていたでしょう。結果を言うわね」
「はい」
殺は静かに返答を待つ。
美優は言ったら殺のストレスが最高潮に達してしまうだろうと頭を悩ませてしまうが言わなければならない。
「裏切り者は複数居るわ。日に日に変わっていってる」
「複数か……」
「基本は夜の遅い時間に行動しているから閻魔殿を式神を使って張り込んでみたら?」
「そうします」
殺は複数の裏切りに苛立ちを覚える。
信じていた、仲間だと思っていた、だからこそすぐに憎くなってしまう。
今夜は式神を使って張り込みをして徹夜の覚悟を決めた時だった。
『嫌な気配を感じます』
不幸の鬼の声が頭の中に響いたのだ。
嫌な気配、その言葉に疑問を生じさせたが殺は張り込み用の食料をまず買い込むことに決めた。
「裏切りは許さない、絶対に」
その言葉を呟く彼の顔は酷く美しかった。
きっと彼はその美しい顔で人を殺すのだろう、その顔を狂気に歪めて。
裏切り者が最期に見るのは美しい世界。
彼の歪んだ美しい世界をみるのだ。
~~~~
封印はどこに張り巡らされているのかな?
早く実体が欲しい。
自由に動ける体が欲しい。
そしたら世界を正すんだ。
元の完全が存在する美しい世界に。
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