地獄の日常は悲劇か喜劇か?〜誰も悪くない、だけど私たちは争いあう。それが運命だから!〜

紅芋

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術者

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 肉を切る。
 手から滴り落ちる血の雫をひと舐めすれば男は恍惚の表情を浮かべた。
 肉を、骨を叩き粉々に食べやすい大きさで揃えれば皿に綺麗に盛り付ける。
 真っ赤に染まっているそれは自然の赤色で見る者の目を惹き付けてしまうだろう。
 肉とは何て芸術的な食べ物だ、美味しくて美しい。
 男は同族の肉を食べながらこれから男を倒しに来るだろう者を待つ。
 楽しみに楽しみに待ちわびる、強い者の肉を食べることを……。



~~~~



 殺たち、人殺し課は草木が生い茂る廃墟の前に立ち尽くしていた。
 小さい、公共施設であっただろう場所。
 廃村に建つそれはもうボロボロだ。
 今にも崩れそうな外壁、落書きがされていないそれは人が立ち入らないということを現していて逆に不気味で仕方がない。
 そんな奇妙な建物にも動じずに足並み揃えて彼らは中へ入って行く。
 だが中へ入ると彼らは思い思いの驚愕の表情を浮かべることとなる。

「……中が広い」

「空間を操っているのか?」

 見た目からかけ離れた広さをもつそれに警戒を抱く。
 妖術に長けた御影はここまで空間を操れるということはそれなりに強いのだろうと見解を示した。
 するとサトリが顔を歪めて言葉を放つ。

「ここにいる敵は一人じゃない」

「なんじゃと?!」

 少し声をあげて驚く御影に静かにする様にと殺は宥める。
 サトリは「話を続けて良い?」と訊ねる。
 勿論のことだが聞かない訳にはいかないということでサトリの話に皆んなが耳を傾けた。

「複数の敵はおそらく式神だと思う、今回の敵は相当な術者だよ」

 強い術者という言葉に皆が納得する。
 この空間を操る術を見れば強いというのは一目瞭然であった。
 それなら強い術者が従える式神も相当な強さなのだろうと陽は顔を顰める。

 すると沢山の足音が聞こえてきた。
 がしゃりと鎧が耳障りな音を響かせる。
 おそらくはサトリが今話していた式神が気配を察知して集まり始めたのだろう。
 四方八方からがしゃり、がしゃりと音が鳴り周りを囲んだ。

 殺たちを囲んだそれは古い鎧兜を纏った骸骨の様なものだった。
 あの短い時間に囲まれるとは、してやられたと殺は頭を悩ませる。
 するとMが笑顔で鞭を取り出した。
 その瞬間に一部の式神が吹き飛んで骨をバラバラに崩した。

「ここは私と陽様にお任せください」

「何で僕も?!」

「貴方も強いですから大丈夫かと」

「うっ……」

 陽は焦りながらも逆らえないと本能で察知する。
 仕方がないと言いながら彼は冷たい笑みを浮かべた。
 殺はそれを見て二人なら任せられると信じて御影とサトリと先に行く決意を固める。

「無茶はしないでください」

「わかっている」

 この会話を交わした直後にお互いの進むべき方向へ彼らは向かった。
 殺たちは唯一の階段へ向かい、陽とMは眼前の敵へ向かう。

「数には数を」

 陽は笑いながら何かを唱え始める。
 その瞬間に地面が渦を巻いて黒く歪み始めた。
 歪みから這いずり出てくる者は敵の式神と同じ見た目の骸骨。

「やはり貴方もお強いですわね」

「これくらい出来なければ駄目だろう?」

 二人は黒く嫌味な笑みを浮かべれば敵の方へと足を向かわせる。
 何十と数えられない程の沢山の式神はいったいどれほどに保つかと楽しそうにMは考える。

「さあ、始めよう」

 陽の言葉を皮切りに戦いの火蓋が切って落とされた。



「……階段が長すぎる気がしてしまうのですが?」

「実際に長すぎると思う」

 敵大将の下へ向かう殺たちは長すぎる階段と暫く戦うこととなる。



~~~~



 やっと戦いに来た。
 嗚呼、楽しみだ。
 どうやって調理をしようか?今から悩んでしまう。
 強い者を食べれば更に強くなれるんだ、早く、早く殺させてくれよ。
 殺したい、食べたい、待ちきれない。
 この気持ちはお前らにわかるか?
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