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閻魔の頼みは断れない
しおりを挟む何でこんなことになったのだろう?
殺は現在進行形で落下している。
遡ること数時間前……。
「殺ちゃん!」
「どうしたのですか?閻魔大王」
殺はいつもの真顔で訊ねる。
すると閻魔は申し訳なさそうに何かを言おうとしていた。
それを見て殺は何かを頼まれるんだと先読みする。
閻魔の態度くらい殺はお見通しだ。
「実はこの前の混合者事件で人間界と地獄の境界が開いちゃったんだ……だから……」
「だから?」
殺は閻魔の言いたいことを大体察する。
そうして即答の用意をした。
「直してくれない?」
「はい」
答えは勿論Yesだ。
閻魔大王に逆らうなんてありえないし、考えたこともない。
「相変わらず即答!ありがとう!でも一部の境界は危険だから気をつけてね!」
「はい。」
はい、現在その危険な境界に飲み込まれています。
どれほど落下しただろうか?
わからない、だが特に何も気にせず落下する。
出口も見当たらなくて、飛んでいても疲れるだけだろうと思い落下していく。
この時間内に解決策を考えれば大丈夫だろうと思い落下する。
冷静なのか、はたまた呑気なのか?
……落下し続ける。
だがいつまで経っても地面が見当たらない。
いつまで落ちるんだろうか?流石に殺に焦りから額に脂汗が滲み出てくる。
すると……声が聞こえてきた。
「あひゃひゃひゃひゃ?」
声は下からだった。
下を見ると、地面はあった。
だが、変に笑う黒いぐちゃぐちゃな物体が居た。
こちらを細い瞳で見つめてひたすら笑っている。
……気持ち悪い、他にもドロドロとした物体が沢山。
どれも此方を見て笑っている、まるで餌を楽しみに待っている犬のようだ。
犬だったらどれだけ楽だったろうか……。
殺は正直なことを言うと、この状況が面倒臭かった。
けれども死んではならない、殺はとっさの判断で刀を構えて化け物に攻撃する。
だが化け物は死ななかった。
「あひゃひゃひゃひゃ!」
化け物はぐちゃぐちゃになり更に分裂して増える。なんだ?この妖怪は?
殺は目の前の妖怪を疑問に思いながら刀を振るう。
そうして思う、サトリだったら何かわかるのだろうかと。
戦いを続けているとふと思い出す。
自分が念を飛ばせられる事に。
いや……妖怪全般は念を飛ばせられるけど。
決して忘れていた訳ではない。決してだ。
人殺し課の皆に念を送ってみる。
その間ずっと化け物の攻撃を避け剣を振るい続ける。
化け物は悔しそうに腹ただしそうに叫びながら単純な攻撃を繰り返した。
攻撃は単純だから避けられるが、叫び声が奇妙でどこか嫌だと思ってしまう。
気味の悪い声……、地の底から響く。
それはそれはどこか恨めしそうだ。
そうこうしている間に思いだす。ここは人間界と地獄の境界と。
ならば人間と関係あるのでは?
そう思っていると頭の中で声が響いた。
「ビンゴだよ!殺!」
……よく聞きなれた五月蝿くて明るい声。
サトリの声だった。
「今届いたのですか?」
「うん!みんな心配してるぜ!」
「そうは思えな……「殺!今何処に居る?!すぐに僕がいく!」
陽の声が響く。化け物とは違って優しい美しい声。
自分を心配してくれる人がまだ居てくれていたのかと殺の心臓が少し心拍数を上げる。
「陽!落ち着くのじゃ!殺!取り敢えず情報を送るぞ!」
「えー、実況は私ことMで……」
「解説は俺!サトリが行いまーす!」
「「「早くしろ!」」」
殺と御影と陽の殺気が二人に向けられる。
だがそんなことは気にせず続ける二人は正に残念な馬鹿だ。
「えー、そのグロい物体は人間の負の心です」
「負の心?」
「主にストレス?」
「まぁ、倒し……癒して差し上げればいいと思いますわ」
……M、本音出てるぞと言いたくなる。
まぁ、いいだろう。
そう思い、殺はサトリにこの化け物の倒し方を訊いた。
だが返って来た返事は殺にとって良くないものであった。
「サトリ兄さん!倒し方は!?」
「しばらくの間遊び相手になってやれ!」
「は?」
この間ずっと化け物の攻撃を殺はひたすら避けている。会話と戦いと日頃の仕事で最早ヘトヘト状態。
そんな殺にとっては残酷な通知だ。
「ストレスを発散してやるんだ!」
「嘘だと言ってください」
「残念でした~!真実です!」
「初めて兄さんを殴りたいと思いました。後で覚悟しとけよ」
「ごめんなさい」
無駄な会話が続いていく。
この会話を省いて戦った方が楽なのではないかと皆が疑問に思う。
「殺……大丈夫か?」
陽が殺に訊ねる。
嗚呼、癒される。
陽といえば最近優しくて可愛いんだよな……、陽の淹れてくれるココアは凄く美味しい。
早く帰ってココアを飲むんだ。
そうやって殺は戦いの決心を固める。
化け物が攻撃を仕掛けてくる。
それを受け流しそのまま斬りかかる。
更に刀を真っ直ぐ構え敵の頭上に刀を刺す。
化け物は呻き声をあげている様だ。
殺はどんどん化け物を薙ぎ払っていく。
その様はまるで戦神だ。
更には化け物のもとまで攻撃を避けながら走っていき心の臓らしき場所を突き破る。
そして化け物を蹴り飛ばし刀を振り下ろし叩き切った。
この姿はもはや戦神どころではない気がしてくる。
この化け物に技は無用と判断して殺は最終的には刀を振り回すだけにしていた。
黒い化け物は増える。
だが小さくなりだんだんと消えていってる様に思えた。
これは勝利が近い。
最後の小さな化け物を片付ける。
手間がかかる化け物たちだった。
だがこれでこの心の持ち主たちのストレスが晴れたのなら人間好きな殺にとって良いことだ。
眩い光が射し込む。
どうやら境界が開き、出口が現れた様だった。
殺はやっと帰られると安堵の表情を浮かべる。
さぁ、早く皆が待ってる場所に帰ろう。
殺は自分の帰るべき場所に帰る為に開かれた境界の出口までひとっ飛びした。
~~~~
「陽……心配かけましたね。」
「全くだ!」
陽は拗ねているようだった。まるで子供みたいに頬を膨らませ体育座りで部屋の隅っこにいる。
「だから、すいませんって!」
殺もムキになる。
だが陽は殺に食ってかかるかの様に叫んだ。
「一言くらい言ってくれれば良かったのに!」
「え?」
殺は陽の一言に一瞬固まる。
自分は誰にも一言も言わなかった。
その事実を思い出し固まった。
「いくら閻魔大王から任された任務だといえ僕に……僕たちに頼ってくれれば良かったのに!何で一人で行くんだ!?」
「……」
殺は返答に困る。ただ皆に無駄な怪我をさせたくなかっただけだ。
それがかえって皆に心配をかける羽目になるなんて……。
「すいませんでした。今度から一言くらい言います。だから機嫌を直してください。膨れっ面の貴方も素敵ですが、笑顔の方が良いですよ。」
殺は誠心誠意を込めて謝ったつもりだった。
だが陽は思わず赤面していた。
殺は何故、赤面しているのか、わかっていないようだ。
しかし殺は小声で思わず「可愛い」と言って笑う。
その声は皆に聞こえていた。
妙に色っぽい声、まるで恋をしてるみたいな声だった。
陽は更に顔を赤くし「うるさい!」と叫んでいる。
「ココアはいつも通り甘めでお願いします!」
殺は楽しそうに大きな声で頼む。
「砂糖は大匙十杯入れてやる!」
「大歓迎です!」
「糖尿病になれ!」
……殺と陽の甘そうな会話に、残された三人はこの二人は怪しいと思うしかなかったとのこと。
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