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不幸の理由

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 人殺し課

 本当にそんな名前でいいの?
 閻魔がそうやってチワワの様なつぶらな目で見てくる。
 でも皆で決めたことだから何とも思わない。
 この名前を出したときは確かに場はどよめいたが皆は理由を聞いて納得してくれた。
 だから後悔などあるわけがない。

「それでいいんですよ。災いを起こす英雄なんて人殺し……。それにしても何で災いが起きるのですか?それ次第では名前変更可能ですよ」

「それじゃあ名前変更不可能だね……」

「?」

 殺は首を傾げる。
 それほどまでに英雄に何かあるのだろうか?
 気になって答えを待つ。
 閻魔はそれを悲しそうに憐れみを含めた目で見つめた。

「君たちはもう呪われたんだ……」

「は?」

 殺は一瞬この人は何を言っているんだと本気で呆然とした。
 普段から冗談をよく使い、殺を困らせる閻魔である。
 だから今回も冗談かと思い聞き流そうとした。
 けれども聞き流せなかった。
 何故なら閻魔の声は震えていて恐怖を現していた。
 そういうことがあり、今回の話は真実であると殺は判断するしかなかったのである。

「この開かずの間はもともとは一人の鬼の部屋だったんだ。だがこの鬼は厄災をもたらす神だった。そして自分も己が力で死んでしまった。
更には置き土産に自分の力を残していったんだ。
その置き土産は唐突な永遠の不幸」

「……迷惑ですね」

 殺は思ったことを素直に言う。
 唐突な永遠の不幸なんて迷惑だ。
 そんなものを残していく位なら甘いお菓子でも残していけと呑気に思った。

「でもね、その鬼はとても優しかったんだ。
鬼は死ぬ間際に全ての厄災を祓ってくれる英雄的な存在を作った。それが君たち、五人の英雄だ。その僅かな幸福の力を自分に使っていれば生きてたかもしれないのに……。だが鬼は自分の死を選んだ。理由は簡単、自分が生きてたらこの世界に不幸が訪れるから」

「……」

 閻魔は何かを思い出しているのか終始辛そうである。
 閻魔にとって不幸の鬼とは如何いう存在なのか。
 殺は気になるが無闇に閻魔の領域に立ち入ろうとしなかった。
 辛いことは思い出してほしくないからだ。

「せめて被害を最小限に……、その思いから君たちは生まれたんだ。……どうか運命に負けないでくれ。不幸なんて祓いのけれるんだ。この哀れな鬼の命を無駄にしないでくれ!」

 閻魔は必死の形相を殺に向けた。
 それほど本気なのだろう。
 だが殺は下を向いている。
 その瞬間に閻魔はこの世界の終末を迎えたかのような表情になる。
 己が定め、永遠の不幸、鬼の思い、命、それら全てにおしつぶされたのかと閻魔は思った。
 嗚呼、やはりこの話は重かったか……。
 そう思った次の瞬間だった。

「被害……?そんなの出しませんよ。運命に負けないでくれ?ハナっから負ける気がしません!私たちを舐めないでください。……その鬼の運命くらい跳ね除けられますよ」

 殺は笑っていた。
 重圧など感じさせないほどに。
 殺はそれではと一礼し閻魔の部屋を後にする。
 殺の足取りは何故かとても軽かった。
 鬼の呪いは確かに呪いだった。
 けれど思いは優しいものだった。
 この鬼の思いを無駄にしたくない。
 期待を超えて運命すら変えてやる。
 そう思い、殺は前に進んでいった。

 最後に笑うのは貴方ですよ。
 優しい鬼殿……。
 そう微笑む殺は不幸など気にもしていなかった。

 部屋に戻る。

「おかえり。遅かったな」

 陽に話しかけられる。
 陽の声を聞いてやっと人殺し課というものが存在するのかと思った。
 殺は遅かったなという言葉に戯(おど)けながら返す。

「そうですかね?まぁ衝撃の事実を聞かされた程度ですよ」
「えー!なんですの?」
「知りたーい!」

 皆が集まってくる。
 これから起こる厄災を理解して……。

 それでも今を楽しもう。
 皆と束の間の平和を楽しもう。
 傷つくのは殺だけでは無理になってしまったけどこの仲間とならやっていける気がすると殺は不敵に笑みを浮かべた。

 運命なんて変えられる可能性だってある。

 鬼如きの力に負けるほどこちとら弱くないんでね。
 だから安心して安らかに眠ってください。
 みんな貴方の味方ですから。

『ありがとう』

 どこかで柔らかな女性の声が聞こえた気がした。
 礼には及びません。
 そうやって殺は少しだけ微笑んでかえす。

『謙虚なお方ですね。ふふっ』

 誰かが笑っている。
 いや、誰かは殺にはわかる。不幸の鬼だ。
 不幸の鬼は笑う。
 その声は幸せそうだ。




 さあさあ!
 まだ物語は序章です!
 これから起こるのは悲劇か喜劇か?
 それはまだ誰もわかりません。
 彼らは一体どんな道を歩むのか……?
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