地獄の日常は悲劇か喜劇か?〜誰も悪くない、だけど私たちは争いあう。それが運命だから!〜

紅芋

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狂気の学校

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第一章  五話



『先ず全ての混合者を倒してください。街の区域は十のうち三番。面積は今まで貴方たちが混合者と戦っていた街と同じ様にさほど広くはないですから安心してください』


 そうやって秦広王に告げられ、指定された場所に行く。


 そこは只の学校だった。
 だがその様子は何処かおどろおどろしい。
 木造の二階建ての校舎は古く、かなりボロボロになっている為に怖い印象を与えているのだろうか?

 だが此処には学校などなかった筈だ。

「うわぁー!此処は本当に化け物が出そうって感じですね!」
「いるから倒しに行くんでしょうが。馬鹿M」
「あぁん!殺様!もっと罵ってぇー!!」

 そんなMを無視して殺たちは先を急ぐ。

「あーん!ちょっと待って!」
「誰が待つか!!って、ん?」

 殺たちの前には見慣れた黒い影が立っていた。
 その手には相変わらず呪符の欠片が握られていた。

「呪符……の……か……けら。どうぞ……」
「ありがとうございます」

 呪符の欠片を受け取り、静かに影に礼を言って学校の中に入ろうとする。
 その時に影は「待って」と言った。
 その言葉に殺たちは一時的に歩みを止める。

「何です?」
「ここの……七不思議……突破……してください」

 七不思議の突破をするとは如何いうことだ?殺は突破という言葉に暫し思考を巡らす。しかし何故、七不思議を突破しなければならないのか?面倒事は回避すべきでは?

「七不思議……が呪符……持っている……地獄と……人間界の……境界……曖昧」

 なるほど、地獄と人間界の境界が曖昧で人間界の学校が地獄に出現し、七不思議が現れたのか。
 そして、七不思議が呪符を持っているから突破か。皆は納得する。

 呪符は混合者を倒す為には必要だ。ならばその呪符を持っている七不思議もなんとかしなければならない。
 その中にはある程度厄介な奴も居るだろうが、そんなのに邪魔されている暇はない。
 殺たちは仕切り直してから学校内に入る。

 殺は気分が高揚していた。
 学校の七不思議と呪符を関連させてくれるとは、と。
 人間の感じる恐怖を、人間を研究する身で体験出来るとは。
 人間と同じ様になれた気がして、なんともわくわく感が溢れ出るものだ。

 舞台は学校。
 人間にとって恐れを抱くもの、怪談の中で人間が語り継ぐほどメジャーである七不思議。
 やはり学校と言ったら七不思議だよな、と殺は思う。
 学校というと七不思議というのが殺の固定観念だ。

「先ずは探索からじゃな」

 やはり御影が先陣をきる。
 それに殺は思わず心の声を漏らした。

「……御影兄さんかっこいい」
「そうか!」

 ここで殺は自分の心の声がだだ漏れということに気づく。
 それがわかった瞬間に殺に羞恥心が襲い掛かる。

「……聞かなかったことにしてください」
「嫌じゃな」
「俺の方がかっこいいぜ!殺!」

 だんだん鬱陶しくなってくる。
 Mの罵ってくれという態度の所為で疲れているというのに。
 皆は元気だなと殺は一人そう思った。

 ところでこの学校の七不思議は何だろう?
 殺は冷静に考える。殺は常日頃から人間のことを調べていた。そして人間研究をしていたら、必ず人間が怖がる訳も探さなければならない。
 つまり七不思議程度は知らなければならないのだ。

 勿論だが、殺は七不思議を知っている。
 だからこそ混乱するのだ。
 どの怪異が出て来るのかを。

 七不思議というものはその名の通り七つの不思議な怪談のことだ。
 全てを知ってしまうと不幸になるとか、死んでしまうとか。
 七不思議は学校によって内容が違う。
 だから殺はどの怪異が来るのかわからずにいた。

「トイレの花子さんは確実じゃない?」

 サトリが呟く。
 読まれていた、というか勝手に読むな。
 殺は少しムッとする。このサトリ妖怪は能力を自在に操れるのだ。
 力が操れないなら怒れないが、操れるとなったら話は別だ。これじゃあプライバシーの欠片も無い。

 学校内を探索していると図書室を発見した。
 ここなら、この学校の七不思議がわかるかもしれない。
 一つずつ資料に目を通していく。
 まず怪談が書かれていたりする資料が何処の棚にあるか手探りで探し出す。
 その中で、この学校の七不思議が書かれている資料を探した。
 今の所は七不思議に関する怪しい資料は見つからない。

 何もないのかと思った時だった。

「おい!これを見るのじゃ!」
「声のトーンを落としてくださーい」

 サトリが苛つきながら答える。
 まぁ、兎に角見てみましょうと殺とMで宥めて場を治めた。

 御影が見つけた資料を見る。
 其処には《海原光》と人の名が書かれていた。
 続きに目をやるとおかしな光景を目にすることになる。

《1983年9月4日、享年九才
死因:焼死。誤って焼却炉に入ってしまったと見られる。死体には首が頭が…首、頭、首、頭、首頭、首、頭、頭ちょうだい?》

「あれ?おかしいのう。さっきまで死因は普通じゃったのに……!?」

 目を疑った。
 あぁ、これがこの学校の怪異かと殺は納得する。
 足音が聞こえたので何者かと思って資料から目を外し、図書室の入り口を見た殺たちの眼前には首から上のない男の子が鉈を持って佇んでいた。
 少し黙っていた後、その様子をサトリは悲しそうに見つめる。何かを読み取ったのだろうか。

 サトリが話しかける。

「君が欲しいのは……」

 刹那だった。
 子供とは思えない速さで首無し少年はサトリに近づき持っていた鉈を大きく振りかぶる。

「兄さん!」

 サトリは読みきっていたのか既のところで避ける。其の時もどこかサトリは悲しそうな表情だった。

「逃げますわよ!」

 Mが叫んだと同時に皆が走って逃げていく。
 この怪異は厄介だ。

 走っても走っても子供は疲れないのか速度を落とさずついてくる。廊下の曲がり角を曲がる。するとその先にトイレがあるのが見えた。少年はまだトイレに気づいていない。こうなればトイレに隠れるしかない。

 その考えは皆も一緒だった。だが最悪なことに殺がトイレの個室に入れなかった。
 陽と同じ個室に入ろうとしたら笑顔で締め出されたのだ。

 殺は陽に突き飛ばされた時に初めて皆に危機が迫ったことに気づく。

 やってしまった。個室に入れなかった、それは首無し少年が前を通りかかったら気づかれるということだ。
 用具入れに入るにも掃除道具がいっぱいで入れない。
 それらをかき出して用具入れに入ったとしても、床に転がっている掃除道具に首無し少年の目がいって気づかれてしまうだろう。
 それにこの様な狭い場所で戦ったら、皆を攻撃の巻き添えにしてしまう。

 遂に少年がトイレの前まで来た。
 如何対処すれば正解なのかと考えるが答えが出ない。情けなくて拳を握り締める。
 だが、少年は手をわたわたと振るという焦った様な仕草をして何かを指差して去って行った。
 トイレに籠城されていては待っていても無駄かと思ったのか?

 その様子が気になって少年が指差したところを見てみると、ただの女子トイレの表記だった。何故なのだろうかと殺が思っていればサトリが個室から出て発言する。

「女子トイレには入れないよね~。あそこまで純粋さがきたら可愛すぎる」

 女子トイレに入れない。その事実を知りみんなが逃げるときは女子トイレという意味不明な規則を作る。
 それにしても純粋とは?何を読み取ったのか聞いてみると本当なら自分たちで見つけなければいけないものだからと答えてくれなかった。

 だが一つわかったことは、陽は取り憑かれている。あの亡者に……。

「花子さん」
「ん?」

 御影が個室から出ていきなり呟く。
 その言葉が気になってしまい「如何しました?」と訊ねてしまった。
 すると御影は興奮して話しだす。

「いやー、トイレの花子さんはトイレの怪異じゃろ?このトイレで一発試してみようと思って!」

 殺は「はぁ?」とまぬけな声をあげた。この兄さんは何を考えているんだと呆然とする。
 試す?確かに七不思議攻略はしないといけないかもしれないが今やるのは危険じゃないか?と思っていればサトリは良い笑顔で扉をノックをした。

 コン、コン、コン。

「はーなこさん!遊びましょ!」

 サトリ兄さんは何をしているんだ?などと唖然とする。
 危険かもしれない怪異はなるべく回避すべきなのでは、と殺は内心呆れかえる。

「はーい!」

 三番目の個室から「遊びましょ!」と高い声がする。
 すると個室から出てきたのは可愛らしいおかっぱ頭の少女だった。

「意外と可愛い……!?」

 ヒュン

 いきなり縄跳びが首に巻きつこうとする。
 それを避けたサトリは少女をトイレの個室へ突き飛ばし、ドアを閉めた。

「気配が消えた……。呼ばれたら出てきて殺しに来るのか」

 サトリは頭を悩ます。何せ花子さんがトイレの個室に現れた時、花子さんが居るトイレの個室の中から呪符の欠片の気配がしたのだ。
 あの怪異はどうも攻略しなくてはいけないらしい。

 サトリは取り敢えず呪符の気配がしたことを、皆に伝える。

「嘘じゃろ……面倒じゃな……」
「本当に嘘だったら良かったのにねー。それと、首無し少年からも呪符の気配がしたよ」

 厄介な怪異が呪符の欠片を持っているという事実に殺は頭を悩ます。
 結論的には探索をしながら攻略方法を考えることになった。

 トイレから出て廊下に立つと、みな声が出ないほど悍ましい空間が広がっていた。
 目の前の壁が血塗れでお札が沢山貼られている異様な光景。

 パリーン!

「きゃっ!?」

 Mが思わず耳を塞ぐほどの大きな音。
 皆は只々、呆然としていた。
 目の前の窓ガラスがいきなり割れたのだ。

 バンバン!

「今度は何じゃ!?」

 御影は怯えて叫んだ。
 そして床を見ると、先ほどまではなかった手形がそこらに無数にあった。

 手形を見ていると気づいた。文字も書かれている。
 『七不思議に近づくな』と。
 それも血で乱暴に書かれていた。
 得体の知れない何かがこれ以上は深入りするなと怒りを示している様だった。
 Mは何が起こったのかわからなくて焦る。

「……なんですの!?これは!?」

 Mは混乱していた。御影も「ひいっ!」と手で耳を塞ぎ、サトリに落ち着ける様にと尻尾を撫でられている。
 殺も内心で恐怖を覚えながらも、先へ進むことにした。 サトリが言っていた一言、ただそれが気になって仕方がなかったからだ。

 確かあの少年は九才だった、三年生か四年生の教室に何かあるかもしれない。そう思い殺は三年生の教室に向かう。

 三年二組

 一組には特にめぼしい物はなかったので二組に行く。すると、三つの机の上に花が置かれていた。
 机には殺人鬼と書かれている。

 この時点で嫌な感じだ。
 殺人鬼とは一体何だ?

 机の横には名前が書かれている。
 佐藤、岡崎、宮本。
 この名前を頼りに少年を調べることにした。

 それとサトリがいうにはこの校舎には今、少年の気配はないらしい。
 調べるなら今の内と急かしてくる。

 一階には職員室しか怪しい部屋はない。
 校長室なども様々な資料が集まって怪しいだろうが、一番に生徒の情報が集まる場所は職員室だ。
 だからこそ職員室を調べることは重要だ。
 職員室に入って、片っ端から机の引き出しを調べてみる。

「……なんだこれは?」

 殺が手に取ったのは、いじめ調査表という物だった。

 そこにはさっきの三人がいじめをしていたと書かれていた。引き出しの奥深くに入れていたということは隠蔽(いんぺい)する気だったのだろう。
 そしていじめられていたのはあの少年だ。

「おーい!何かの書物を見つけたぞー」

 御影が書物を手に取り殺たちに駆け寄る。
 その書物を読んでやっとサトリの言葉の真意がわかった。

「サトリ兄さん」
「何?」
「あの少年はこの校舎にきてますか?」
「……うん」

 なら丁度良い。
 殺はそう呟き少年の下へ向かう。

「答え……わかったの?」

 サトリが殺に問いかける。
 それに対して殺はニヤリと口角を上げて答えた。

「頭の中を覗いたらわかるでしょう」
「……!くっくっく……上出来!」
「ありがとうございます」

 さぁ、やっと……助けられる!


 サトリに先導され殺たちはわざと少年の下へ行く。
 そんな殺たちの前に少年が只、静かに立つ。
 だが、皆は逃げる気はない。
 少年がゆらゆら近づく。

「光君ですよね」
「……」
「貴方はこんなことをしていていいのですか?そんなことしても首は戻りませんよ」

 その言葉に怒った少年は殺に斬りかかる。
 だが殺は冷静に少年の攻撃を刀で弾いて防ぐ。
 殺に押し返されて少年は思わず鉈を手から離した。
 そして殺はその際に鉈を奪うことも忘れていない。
 少年から離れた鉈を取り上げ、皆の方に投げる。
 投げられた鉈はMによって取られてしまう。

 つまり少年の動きを制したも同然だ。
 少年は素手でも攻撃をしようと思えば出来るが、殺たちは刀を持っている。
 武器を持たず、武器を持った五人の敵を相手しなければならない。
 少年は殺たちに対し、かなり不利になったのだ。

 少年は唯一の武器を奪われ、その場に立ち尽くす。
 きっと存在の消滅を恐れたのだ。

 少年は七不思議の一つであり、霊だ。
 霊とは人間が死んでなるもの。無念を持ち天国や地獄に逝けず、人間界を彷徨う存在。
 霊は亡者の一歩手前。人間は死後に霊となり、未練を果たし成仏したその後に亡者になる。

 人間界に駐在して霊の未練を果たす手助けをしている地獄の職員とは違い、地獄に居る者と霊は直接関わりは持たない。
 だが、悪霊化や、滅多にない亡者の暴徒化のメカニズム解明の為に霊のことを深く知る必要があり、人間界に駐在している地獄の職員が霊について調べて報告している為、獄卒や十王は霊の性質を知っている。

 霊は亡者と同様に、念力を使えたり人間に視認されなかったりするが、混合者や地獄に堕ちた亡者とは違って、擦(かす)り傷でも負傷してしまえば傷は再生しない。
 そのことは少年も殺も知っている。

 七不思議だって存在が消えてしまう。
 それは忘れられたり、祓われたりした場合などだ。
 祓うという行為は呪術や特別な武器を用いたり、人間ならざる者の殴打などの物理攻撃によって霊を殺し存在を消すこと。

 殺たちは特別な武器を持っているし、殺たちは人外なので何も持たずとも少年を祓えるのだ。

 しかし少年は祓われることを恐れているが、殺たちや閻魔、獄卒は地獄に堕ちた亡者だけでなく、霊も無闇に消霊してはならなかった。
 地獄や天界のルールでは、そう決まっているのだ。

 だが地獄や天界のルールだからと消霊しないわけではない。
 この少年は無念を抱えているのだ。
 それを殺はわかっているからこそ消滅させたくないと思ったのだ。

 さあ、少年を救おう。
 この少年の記憶を悲しみで終わらせない為に。

「貴方の首はもうありません。ですが一つ手に入れられるものがあります」
「……」
「光君、私と友達になってくれませんか?」
「!」

 友達という言葉を聞いて少年は体をぴくりと動かす。
 それは話を聞いてくれていることを示していた。
 そんな様子を見て殺は己の言葉で少年に語りかけていく。

「悲しいことに私には友達があまりいないのです。だから光君に友達になってもらいたいなと。それに見ましたよ、文集。貴方が本当に今でも欲しいのは首ではない!友達です。この紙に本音を書いてくれませんか?貴方の返事が聞きたいです」

 殺は職員室から拝借した紙と筆を渡す。
 少年は少しだけ戸惑う様子を見せたが、その紙を受け取り文字を綴(つづ)り始めた。
 その内容はあまりにも悲しいものであった。

『僕は首がほしい。じゃないとみんな僕のすがたを見てにげちゃう。それに言葉も話せない。笑いあえない。そんなのいやだ。ねえ、何で僕はいじめられたの?つらいよ、苦しいよ、いたいよ、悲しいよ』

「言葉が話せないなら紙に書けばいい。笑いあえない?たとえ首が無くても人は笑いあえます。姿をみたらみんな逃げちゃう?鉈を持ってたら普通に逃げます」

『でも、だって』

 少年の筆を持つ手は震えている。
 殺は少年に伝えるべきことを伝え様とする。

「だってじゃない!友達が欲しいからって首を狩ろうとするな!そんな事しなくても私たちが友達になります!」

『ほ「んとう?」
「!?」

 喋った。首が無いのに。
 だが次の瞬間に納得する。あぁ、良かったじゃないか。

 首……戻ったんだなと。

 少年の首から上に灰が集まっていき、少年の顔を形成している。

「あれ?僕の顔が!」
「良かったですね。これでもう首を狩る必要がない」
「……!ありがとう!」
「いえ、礼には及びません。ですが一つ欲しい物が……」
「これでしょ!」

 少年の手には呪符の欠片が握られていた。

「お礼にあげる!」
「ありがとうございます」

 もはや少年には邪悪さの欠片もなかった。きっと殺の言葉で救われたのだろう。殺は常に相手のことを真剣に考える。
 だからこそ人は殺についていくんだろう。

「そーいえば少年!」
「何?きつねさん」

 御影が唐突に会話の中に割って入る。

「この学校の七不思議についてなにか知らんか?」
「知ってるよ」
「害がある奴だけ頼む!教えてくれ!」

 御影の頼みに少年は「良いよ!」と答える。

「まずトイレの花子さんとー、かべの中の死体とギロチン階段くらいかなぁ」
「詳しく教えてくれないか?」

 七不思議を知らないサトリと御影とMは詳細を催促する。

「花子さんは定番だからはぶくよ。やっかいなのがギロチン階段とかべの中の死体だね。ギロチン階段はその名の通り。まず階段が十三段になる。これは断頭台へと向かう階段の段数で登り切るとギロチンが落ちてくる」

 それを聞いてサトリは面倒臭そうにした。

「マジか……もしそれが呪符の欠片を持っているとなると……超面倒臭い」
「これはおふだを階段にはればいいんだけど……」
「如何したのじゃ?」
「そのおふだはかべの中の死体に使われていて先へ進みたかったら死体からにげきらないといけないんだ……」

 少年は引きつった顔で言うが、御影とサトリは顔を見合わせて何かを閃いてみせた。

「「いいこと思いついたー!」」

 いつもなら碌なことがないが、いざという時には頼りになる二人だ。きっと本当にいいことなのだろう。……多分。

「先ずはトイレの花子からじゃな!少し手伝ってくれんか?少年!」
「いいよー!」

 少年は無邪気すぎて可愛かった。


~~~~


「えー……本当に入らなきゃいけないの?はずかしいよ……」

「少年!お主なら出来る!頑張るのじゃ!」

 女子トイレ前の会話。
 何か恥ずかしげな子供の声。
 トイレの花子さんは女子トイレに男子が入るなと思いながらも呼ばれるのを待った。
 如何やって甚振ろうかと考えて。


 コン、コン、コン。

 扉がノックされる。
 花子さんはニヤリと笑い、トイレの個室の扉を開けて這い出る。

「花子さん、遊びましょ」
「はーい……って!?ひぃぃぃぃぃぃ!」
「ちょーっとじゅふくれないと、きりきざんじゃうよ?」

 可愛い子供が鉈を持って子供を脅してる。少し怖い光景が広がる。思わず花子さんに同情してしまうものだ。

「はーやーくー」
「わかったわよ!なんでもやるから帰って!でも呪符は便器の中よ!取れるもんなら取って見なさ「おーい!トイレブラシあったぞ!」
「私が取ります。もう慣れました」
「んー!もう出てけー!」

 残りの呪符の欠片はあと二つの筈。
 今までの欠片は五つだったからという憶測だが。
 二つの呪符の欠片はどの七不思議が持っているのか?


~~~~


「あれがギロチン階段だよ」
「うわー、登りたくない」
「ちょーっと登りたいですわー」
「黙れM」

 そんなやりとりをしている中、少年は壁の中の死体の場所まで案内した。

「ここがかべの中の死体だよ!」
「うわー、人の顔が……」
「まあいい!取り敢えず作戦を言うぞ!」

 御影とサトリの作戦をきくと皆がニヤつき始めた。

「さぁ、これからギロチン階段まで死体から逃げ切るぞ!」
「札外すねー!」

 バリッ
 札を剥がすと人の形をした全身に火傷を負った様な見た目の化け物が姿を現した。
 壁の中の死体はそれなりに速いスピードで走って殺たちを追いかける。

「うぁぁぁぁぁぁぁあ!」

「来たぞー!罠とも知らんで!」

「うぁぁぁぁぁぁぁあ!!」

 さてそろそろ断頭台か。残念ながら殺たちはやられる気など微塵もなかった。

 ギロチン階段の最後の段に登りかける。
 だが死体が追いついたと同時に皆が後ろに下がり、死体だけが切られる形となった。

「ううぁぁ」
「ハイ!お札貼ってきたよー!これで進めるね!」
「一応そいつを縛っとけM」
「はい!殺様ー!」

 階段を登ると呪符の欠片が落ちてきた。
 おそらくギロチン階段の怪異が持っていたのだろう。

「サトリ兄さん……」
「何?殺?」
「混合者は?」
「今のところ体育館から動いてない。自分から動く気はないらしいね」
「そうですか。呪符の気配はしますか?」
「うん、この先からするよ」
「それなら良かった……」

 階段を登った先には音楽室があった。綺麗な音色が響き渡る。音楽室を覗くとピアノが自動演奏していた。
 何だ?そう思っていると少年が説明に入る。

「あれも七不思議です。いっしょにえんそうすると、よろこぶとか……とにかく悪いものではないです!」
「そうですか。それならば私が一緒に弾いてあげましょう」

 殺はピアノを弾く準備をする。
 準備が整って殺はピアノを巧みに奏で始める。
 そこからはまるで演奏会みたいだった。
 綺麗で感動的な音色に皆が聞き惚れていた。
 演奏が終わると皆が拍手をする。

「凄えー!殺はこんな特技を持ってたの!?」
「流石は儂の弟じゃ!」
「殺様ー!最高でした!」
「えーと、殺さん!すごかったです!」

 そこまで褒められると恥ずかしいと思った瞬間だった。

「流石は神様!お見事!」
「誰だ!?」

 殺は突然の声に驚く。
 驚いたのは殺だけではない。
 Mは飛び跳ね、御影は耳を塞いで地面に蹲っていた。
 殺は神様とは自分のことかと考える。
 陽も死神で神様だが、ピアノを弾いていたのは自分だ。

 殺は神々を統一する立場の神である。
 神とは人々の信仰を糧とする存在で、信仰を得る為に人間に恵みをもたらす。
 殺は閻魔を補佐し、罪人を裁く傍らで、神々のいきすぎた恵みを抑制する役割を担っている。
 殺が神様だということは地獄や天界では常識である。

「あれは……!」

 教室の入り口を見ると骸骨がケラケラ笑っていた。
 理科室の骨格標本だろうか?

「……何者ですか?」
「私はこの学校の七不思議です!校舎内を散歩していると美しい音色が聞こえてきたのでつい!」

 ……取り敢えず悪い者ではなさそうなことにに安心する。

「この学校の七不思議は私で終わりですから、どうぞ安心してこの呪符の欠片を受け取ってください!」

 七不思議なのに六つか……、探らない方が身の為だと判断を下す。

「これで呪符が揃った!」

 敵は体育館にいる、後は倒すだけだ。


~~~~


 カラン、カラン。
 下駄の音が体育館に響き渡る。
 殺たちは体育館の入り口前に立つ。

「ふしゅぅぅぅぅ……やっと来たかぁ!待ってたぜぇ」
「貴方が校庭を彷徨こうともしない馬鹿で助かりました。ありがとうございます」

 混合者の前に立った殺は、爽やかイケメン営業スマイルで答えた。
 殺以外の四人は入り口付近に立ったままである。
 四人は只、何をするわけでもなく混合者と殺を見ている。

 今回の混合者は濁った黄色の体で四メートルくらいの大きさだ。
 殺は今回の混合者は喋るのだなと呑気に考える。
 そんな殺の態度に混合者は少し怒りを示した。

「そんなでけぇ口叩けるのは今の内だぜぇ」
「そちらこそ、気づいてないんですか?もう攻撃されたことに……」
「なっ!?」

 混合者の両腕が斬り落とされる。
 混合者は腕が斬られたのを自覚すると、痛みで悲鳴をあげて後ろへ倒れてしまいそうになる。
 悲鳴を聞いた殺は愉悦を感じニヤリと笑う。

 殺は床を強く踏みしめ走る。
 殺は倒れかけの混合者の側へ向かい、刹那に両足の膝を切断するとまではいかないが、深く斬り込む。

 そして混合者の腹を力一杯殴る。

「がはぁ!?」

 殴られた混合者はステージの真ん中に飛ばされた。
 壁が、演台が轟音を立てて壊れる。
 殺は体育館の真ん中から混合者の下まで一瞬で走りきる。
 そして呪符を構える。

「これでトドメだ」
「ぐぅぁぁぁぁぁぁ!?」

 完成した呪符を混合者の額に貼り付けてみせた。
 これで混合者は燃やされ、妖と分離され、ただの亡者に戻る。

 妖と亡者が光りながら分離される。
 亡者に戻れば、もう何も出来ないと思っていた。
 だが……。

「これで終わってたまるかぁぁぁぁぁぁ!」

 亡者の殺気がサトリに向かった。
 亡者は瓦礫を殺の方に投げ、瓦礫を避ける殺の目を掻い潜りサトリの方に走る。
 亡者でも、不意打ちならばサトリなどにダメージを与えられる。

「サトリ兄さん避けて!」
「うわぁ!何でこっちに!?」

 サトリを見殺しにする訳にはいかない。
 殺は叫び、亡者の行動を阻止し様とする。

「うらぁぁぁぁぁぁあ!」

 殺はサトリに向かっている亡者を止める為に、素早く走って亡者に追いつけば背後から太腿の付け根を狙って蹴って脱臼させた。
 足を脱臼したことがあまりにも痛すぎて、地獄で罰を受けていた頃を思い出した亡者は動けなくなった。

 Mは亡者を縄で縛り、入り口付近に転がして置いた。これで滞りなく警察が地獄の裁判所へ連行出来るだろうと。

 殺は仲間の下へ、サトリの下へ向かう。
 サトリは申し訳ないという気持ちに駆られ、殺に謝った。

「殺……ごめん。俺が焦ったから……」
「いえ、サトリ兄さんが謝ることではありません。それにしてもやはり人間とは奥が深い。悪事を働いて死ぬ間際も罪を重ねる……。そう、そこの混合者もだ!」

 殺が振り向いた先には?
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巨大な魚とクリスタル、そして大陸の絵は一体何を示すのか。ある日、王城が襲撃される。その犯人は昔死んだ友人だった―… 王都で穏やかに暮らしていたアルスは、王城襲撃と王子の昏睡状態を機に王子に成り代わるよう告げられる。王子としての学も教養もないアルスはこれを撥ね退けるため観光都市ロレンツァの市長で名医のセルーティア氏を頼る。しかし融通の利かないセルーティア氏は王子救済そっちのけで道草ばかり食う。 ▽カクヨム・自サイト先行掲載。

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