地獄の日常は悲劇か喜劇か?〜誰も悪くない、だけど私たちは争いあう。それが運命だから!〜

紅芋

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無償の愛

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「お前は必ず連れて帰る」

「は?」

 殺は此奴は何を言っているんだと、本気で考えた。
 連れて帰る?
 負けそうなお前らが何を言っているんだか。
 連れて帰られる訳がないだろう。
 そう思っていたら殺の背後からヒュンっと音が鳴った。

 まるで何かが風を切って飛んで来たかの様な音。
 殺はまさかと思い、背後を向く。
 するとそこには殺に走って接近していたMがいた。
 殺は嘘だろと動揺し、Mが元いた場所を見るが、そこにはサトリも御影もいなかった。

 気づけば殺は囲まれていた。
 複数の修羅を掻い潜ってきた猛者に。
 殺は三人の攻撃を避ける。

(馬鹿な!奴らには傷を負わせた筈!……!?)

 殺は気づいた。
 M、サトリ、御影が気を操り、体の血流を巡らせ怪我をより早く直していたことに。
 殺は三人に与えたダメージが軽減したことに腹を立てる。

「死ね!」

 殺が無数の弾幕を放った時だった。

「なっ!?」

 殺の世界はいきなり人殺し課の部屋の中に変わる。
 見飽きすぎた部屋に戻って、殺は呆然とした。
 だがすぐに冷静に戻る。

 これはサトリの能力、幻影を見せる能力だと。
 幻影を見せ、自分たちの姿を隠して殺を攻撃するつもりなのだろう。
 だが殺はまた笑う。

「私は気配にも気づける!」

 そうやって殺は見えない攻撃を弾いていく。
 おそらくは四人で攻撃をしているのだろうが、殺には姿が見えなくても、四人でも雑魚は雑魚だった。

 殺は気配を手繰り、一人を片付け様とする。
 場所は完璧。
 あとは回復されない様に一撃で仕留めるだけ。
 毒なら砲牙に持たされている。
 楽に死なせない様に最後までとっておくつもりだったが……やむを得ない。

 殺は砲牙から貰った刀に毒を塗る。
 そうして気配のもと、御影へと向かっていった。

「ははは!死ね!」

 そうやって御影を斬ろうとする。
 だがしかし世界は急に元に戻った。
 只一つ違ったことは殺の目が見えなくなるほどの眩い光が世界を包んでいたのだ。

「ぐあっ!?」

「今だ!やれ!」

 陽の声とともにサトリと御影が殺に近づく。
 いきなり景色が眩しくなったことで混乱をしていた殺はサトリと御影が近づいていたことに気づかず二人に斬られた。

「ぎゃっ!?」

 殺は小さく悲鳴をあげるが、即座に敵を見据えて考え事をする。
 おそらく光は御影の妖術なのだろう、そしてサトリは幻影を見せられる。
 厄介だ。
 ならば先に二人を消しておく方が良い。
 殺はそう判断を下した。

 だから二人のもとに向かった。
 だがそれを邪魔する人物が現れる。

「うォォォォォォォ!」

「チッ!邪魔だ!」

 殺は目の前に現れた陽を仕方なく先に殺そうとする。
 だが陽も気を操っていて身体能力が跳ね上がっていた。
 だからこそ殺は陽が相手でもてこずる。
 更には陽の大技まで出てきた。

「いけ!がしゃどくろ!」

 大きな骸骨が殺の前に立ち塞がる。
 殺はこの攻撃は初見だった。
 だから陽がこれだけの技を持っているだなんてと思い、舌打ちをした。

 だが殺もやられる訳にはいかない。
 がしゃどくろが手を動かして殺を掴もうとする。
 殺はそれを避けていき、陽に近づいていった。
 けれどそれをも阻む人物が現れる。

 パン!パン!

 突如、銃声が鳴る。
 殺は背後を向いて二本の刀で銃弾を弾いてみせた。
 銃を撃ったのは暗殺者として武器を沢山仕込んでいるMだ。
 その仕込み武器の一つの銃で撃ったのだろう。
 殺はまた邪魔されたと溜め息を吐く。

 だがその油断が彼の命とりになった。

「余所見は禁物だ!」

「ぐっ!?」

 殺は陽に斬られ、更に蹴られて空中に飛ばされる。
 すると空中には結界が張り巡らされていた。
 殺は空中で身動きが取れなくなる。

「流石は御影だ」

「照れるのう!」

 皆は笑顔で楽しそうにしている。
 その様子を見て殺は憎悪に身を焦がす。
 黒い霧が殺を包んでいく。

「どうして笑える……私は要らない子なのですか?」

 黒い霧の中で殺は溢す様に言った。
 憎悪に染まっても尚、殺には何かの感情があった。

「要らない子な訳ないだろ!」

 サトリが真剣な表情で叫ぶ。
 皆の顔も真剣になる。

「ですが皆は今、私を傷つけようとしています!」

 殺の泣きそうな声。
 陽は殺に声をかける。

「傷つけてでも取り返したいものがあるんだ」

 陽の発言に殺は顔を歪める。
 そんなことはあり得ないと殺は顔を歪める。
 そうして殺は言葉を放った。

「私を取り返すって……もう遅いのですよ。何故、私を探す?どうか私を見つけないでください、探さないでください。…… 貴方たちが探しているとわかってしまうと早く見つけてくれるかもと期待してしまうのですよ……。……如何して早く見つけてくれないのですか?!」

 殺は泣いていた。
 己が言いたいことを初めて言ったのだろう。
 だから今、自分は何を言っているんだと混乱しているのだろう。
 混乱して、錯乱して、泣き散らした。
 そんな殺を見てサトリは口を開く。

「仕方ねえだろ!」

 殺の顔は強張る。
 次に言われる言葉は何だろう?
 お前は要らない子なんだから、か。
 死んでしまえば良かったんだ、か。
 殺は耳を塞ぎたくなる。
 だがサトリが言った言葉は殺の予想とは違った。

「お前と一緒に居るうちに、お前との思い出が出来すぎて……探す場所が増えていくからだろ!だからなかなか見つけられないんだよ!!」

「っ!」

 思い出。
 何故、偽物の家族なのにそんなことを言うのか?
 まるで自分を本当の家族の様に思ってくれているみたいではないか。
 やめてくれ、これでは私は一瞬でも本当の家族で居られたと勘違いしてしまうではないか。

 殺は泣き喚く。
 するとその時に柔らかな女性の声が殺の頭に響いた。

『貴方は今までの愛を有償だと思いますか?たとえ血が繋がっていなくとも無償の愛は降り注ぐ。それを身を以て体験してきたのは貴方ではないのですか?』

 自分が例外を体験していた?

 殺は混乱する。
 自分は無償の愛を注がれていたのかと。
 そうして理解した、愛が有償でも彼らが求めてきた見返りは自分の笑顔だと。
 殺は理解すると同時に、また涙を流す。

「俺たちはお前を探す!そして時間をかけてでも見つけだす!だから帰ってこい!殺!」

 その瞬間、殺はわかった。
 自分が帰るべき場所が何処かを。
 だから……刀を己の腹に突き刺した。

 勿論、毒を塗っていない刀の方だが。

 殺は血の核を破壊しようとしていた。
 翠の仲間たちとの縁を切る為に。
 紅い闇が刀を、殺を包む。
 殺は気合いで体を持ち堪えさせ様とする。

「うおりゃぁぁぁぁぁぁ!!」

「馬鹿な!それをやったら俺たちとの血の繋がりが消えるぞ!?」

 砲牙は焦りだす。
 それを見た殺は苦しみながらも笑顔を見せ答えた。

「これで良いのです!」

 殺が血の核を破壊すると、結界まで壊れていく。
 血の核を破壊し終える頃には結界は壊れ、殺は地上に落ちた。
 地上に落ちた殺に皆が駆け寄り、回復術を施す。

「くっそ!これでもくらえ!」

 砲牙は急いでナイフを投げる。
 だがそれは殺の手によって受け止められた。
 殺はゆっくり立ち上がる。
 そうして皆と並んで砲牙の前に立ち塞がる。
 皆には其々闇が纏われていた。
 Mは桃色の闇、サトリは青色の闇、御影は黄色の闇、陽は紫色の闇、殺は紅色の闇が纏われていた。

「手負いの虎でも貴方には負けない!」

「くっ!」

 砲牙は焦って逃げようとする。
 だがそれを殺は引き留めた。

「あ、砲牙」

「何だよ!?」

 砲牙は苛ついている様だった。
 そんなことは如何でも良いという風に殺はにんまり笑っている。

「龍牙に伝えといてください。昨日の敵は今日の友、今日の友は明日の処刑人って」

「お前が敵になったことだけ伝えてやるよ!じゃーな!」

 そうして砲牙は黒い闇の中へ消えていった。

 皆を包んでいた闇が消える。
 それと同時に殺は力尽きゆっくりと倒れていった。
 殺が地面で頭を打たない様にサトリと御影が彼を支える。

「おそらくは血の核は破壊すると体に多大な負担がかかるものじゃったのじゃな」

「そんなことは如何でも良いよ。殺を取り返せたんだし。見ろよ殺の顔」

 皆は何だといった風に殺の顔を覗き込む。
 そうして笑ってしまった。
 幸せそうな顔で気絶をしていた殺の顔を見て笑ってしまった。

 愛を知らなかった者は愛を思い知った。
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