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絶望的
しおりを挟む「この外道共め!」
殺は憎悪を剥き出しにして刃を向ける。
皆は殺を囲んで四方から襲おうとしていた。
四人は殺に斬りかかる。
だが殺は笑っていた。
それは余裕そうに。
「それでは私は倒せませんよ」
殺は四人の斬撃を見事に躱したり、弾き返したりしている。
四人と一人。
殺が劣勢でないといけない筈が、皆は彼に子供との戯れあい感覚で弄ばれていた。
鋭く光る斬撃同士がぶつかる。
だが、それは殺の方が強いもので皆が弾かれた。
「先ずは一人」
そう言って殺は陽に向かっていく。
戦場では弱い者から狙われる。
それが当たり前なことで、この四人の中で殺は陽を一番の弱者とみなした。
「うあっ!?」
陽は己の眼前まで迫っていた刀に気がつき既のところで避ける。
髪の毛が僅かに切れるほどに迫っていた刃。
陽は死の恐怖を身を以て体感する。
「死ね!」
殺は連続して斬撃を繰り出す。
その攻撃は常に相手を捕らえようとしていた。
だからこそ陽はその一撃一撃を避けられない。
「ぐっ……!」
陽が少しずつ傷だらけになっていく。
傷口が開き、血が滴り落ちる。
陽の黒い服が徐々に紅くなっていることに殺は快感を覚えていた。
そうして殺は蹲る陽に近づいていく。
「楽には死なせませんよ」
殺の刀が振り下ろされ様とした時だった。
殺は動けなくなる。
殺は即座に自分が拘束されていることに気づいて、誰がやったかを確認した。
殺の視線は己を縄で縛ったMにいく。
「貴様か!」
「陽様には手出しさせません!貴方が後悔しない為に!」
「ほざけ!!」
殺は一瞬の間に縄を引き千切り、僅か一秒ほどでそれなりに距離があった筈のMのもとへ向かっていた。
Mは一瞬のことでそのスピードについていけなかった。
「ガハッ!?」
Mは蹴られて唇を噛み、血を流した。
蹴られた箇所が腹だったので、今朝の痛みが再び蘇る。
Mは蹴られたことで飛ばされ、木にぶつかる。
殺は蹴られたうえに木にぶつかって痛みで動けないでいるMのもとへ一飛びした。
(動かないとやられる!!)
Mは必死に体を動かそうとする。
だが木にぶつかった時に背骨を損傷したのか、まともに立てない。
このままでは死んでしまう。
そう思った時だった。
誰かがMの前に立つ。
それは痛みに顔を歪めながらもMを守ろうとする陽だった。
陽は殺の刀を己が刀で受け止める。
だが殺の攻撃は重い、気を抜いたら自分が斬られてしまうだろうほどだった。
「陽様!?」
「仲間を守るのは当然だ!大丈夫だ!僕は絶対に斬られない!」
斬られないと言いながらも、陽は斬られてしまうのではと焦る。
刀を持つ手が痺れてきた、痛い。
だが刀から手を離せば、M諸共斬られてしまう。
だから陽は刀から手を離さなかった。
どれだけ痛かろうが絶対に手離さなかった。
(刀を持ってさえいれば……斬られない!)
そう思って、陽は火事場の馬鹿力をこれでもかと使った。
「はぁぁぁぁぁぁ!!」
「何!?」
殺の刀は陽によって弾かれる。
殺は陽の力を見くびっていた様だった。
弾かれた殺は二人から距離を取る。
だがその時に殺は自身の両側から何者かの気配を感じ取った。
「うォォォォォォォ!!」
「うォォォォォォォ!!」
殺の両側にはサトリと御影が居たのだ。
左にサトリ、右に御影。
そういった状況に殺は置かれる。
殺の距離を置く地点を読み取ったサトリが御影に指示を下し攻撃をしようとした様だった。
だが殺は笑った。
瞬間に二人の腹に鋭い痛みが走った。
何かがサトリと御影の腹に刺さっている。
それが何かは容易に想像が出来た。
サトリと御影の腹には刀が刺さっていた。
「ぐはっ!?」
ザシュっと刀が二人から抜かれる。
攻撃は早めに行った筈だ。
だがしかし、それは殺には通用しなかったのだ。
そして皆に謎が出来る。
何故、殺が二本の刀を持っていたのかと。
「な……んで、殺が……刀が……二本……?」
陽とMが地に転がったサトリと御影に近づく。
そして血を止めようと必死に御影に習った回復術を二人に施す。
だが傷口が深い所為で、妖術に長けない陽とMが術を施すところで変わるものは何一つなかった。
「くそ!傷が広がる!」
「それより何故、殺様が刀を二本も!?」
すると殺は気味の悪い笑みを浮かべ、栗色の髪の男はケラケラ笑った。
そうして栗色の髪の男は語りだす。
「俺の仕込みの技術を教えたんだ。武器は多い方が良いだろ?」
「砲牙兄さんのおかげで、より強くなれました。兄さん、ありがとうございます」
御影とサトリは息絶え絶えながらも思った。
『兄さんはお前じゃない!』
だがそれも言えぬほどに腹から血が出る。
「もう良いだろう。殺、やれよ」
「はい!兄さん!」
殺は嬉しそうな笑顔を浮かべ、Mのもとへ走り彼女を斬り裂いた。
それも幸せそうな笑顔のままで。
斬り裂かれたMは全身から血を噴き出させる。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!?」
痛みで失神も出来ないMは、只々ずっと大きな悲鳴をあげた。
次に殺は陽の下へ向かう。
血に汚れた顔を見せ、楽しそうに陽を斬り刻もうとした。
そうして陽の足を深く斬り、転ばせる。
「ぐがっ!!」
更には転んだ陽に馬乗りになり、その顔を殴ろうとする。
「死んでください」
殺の拳が振るわれ様とする。
だが陽は痛みに抗いながら笑顔を見せた。
「お前は必ず連れて帰る」
「は?」
さあ、愛を知らなかった者はどの様な終わりを迎えるのか?
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