地獄の日常は悲劇か喜劇か?〜誰も悪くない、だけど私たちは争いあう。それが運命だから!〜

紅芋

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血の繋がり

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 殺が部屋から立ち去った後、皆は只々呆然としていた。
 いつもは厳しいながらも優しい殺が何故あんな行動にでたのかと。
 そのことについて皆が考えていた。

「殺……いったい如何したってんだよ!」

 サトリは頭を抱えドガッと音を立てながら席に座った。
 あの時、Mを助けながら殺の心を読み取れば良かったのではないのか。
 そうしていたら殺が変わった原因が何かわかる筈だったのに。
 そうサトリは自分のことを責めていた。

「殺様……楽しんでいたみたいでした」

「は?」

 Mの発言に陽は疑問を抱く。
 楽しんでいた?あの殺が?
 殺は人を傷つけることを常に嫌っていた。
 そんな殺が?
 だが陽やサトリ、御影からはその時の顔は見えていなかった。

「あの時、殺様の目は紅く輝いていました」

 Mは踏まれた腹をさすりながら答える。
 普段、光の灯らない目が、あの時は光っていたと言う。
 その顔を見たMはいったいどれだけの恐怖を感じたことか。

「あとの仕事は任せましたって、何処かへ行くつもりか……?」

 陽の発言でお通夜の様な状況が打破される。
 皆が呆然としている間にどれだけ時間が経ったか。
 焦って時計を見る。
 すると経過していた時間はかれこれ一時間ほどだった。

「何処かへ行くつもりなら探さないといけないのじゃ!」

「じゃあ閻魔に会いに行こう。鏡で場所がわかるかもしれない」

 そうやって四人は閻魔に会いに向かった。


 ~~~~


「如何したの?皆」

「殺がいなくなった」

 サトリの発言に閻魔は若干動揺する。
 殺が居なくなったとは如何いう意味なんだと。
 そうして閻魔は皆から朝の経緯を聞いて「うーん」と唸った。

「閻魔大王!浄玻璃鏡は使えないのですか?」

 普段は裁判の時以外は使っていない鏡。
 それ以外に使うことはあまり許されていない。
 だが今回は五人の英雄の一人の居場所がわからないのだ。
 これは緊急事態だ。
 だから閻魔は鏡を使うことを決める。

「じゃあ、使うね。浄玻璃鏡よ、殺ちゃんの姿を見せよ」

 鏡が黒く染まっていく。
 やがて血の様な真っ赤なものが映された。
 最初は近づきすぎていたからわからなかったが、離れるにつれ、それが殺の髪の毛とわかった。
 殺は誰かと話していて、その誰かから手渡された果実を食べている。

 此奴は誰だ?
 そう思いながら皆が見ていた。
 すると一瞬だけ殺と話していた誰かの顔が映る。
 黒いコートを着た、栗色の髪の毛を持つ男。
 顔立ちはかなり整っている。
 そしてその顔を見た閻魔は戦慄して後退った。

「何じゃ?閻魔!知っているのか?!」

 御影が閻魔を問い質す。
 すると閻魔は震えながら答えた。

「あれは不幸の鬼の元家族……」

「それじゃあ敵じゃないか……!」

 陽が頭を抱える。
 だが何故、殺が敵と?
 ますますわからなくなってくる。
 だが、それでも目的は変わらなかった。

「殺を探そう」

 陽は真剣な表情で言う。
 そうして鏡から他の情報を得ようと、閻魔に鏡を操ってもらった。
 だがしかし上手くいかなかった。

「鏡が映らない……」

「何だって!?」

 サトリが声を荒げる。
 それに対し閻魔は焦って状況を伝えた。

「鏡が真実を映そうとしないんだよ!まるで何かを映したくない様に!」

「そんな……」

 殺の手がかりは、もう鏡からは得られない。
 ならば殺を如何探せば良いのか。
 陽とMはまだ殺のことは知らなすぎる。
 だがそのことを考えれば、逆に違うこともわかった。
 それはサトリと御影が殺に詳しいということだ。
 これならば殺を見つけられるのでは?
 そう期待を持ったがサトリは言う。

「俺ら……殺を見つけられる自信は無えよ」

 その言葉に僅かな希望は打ち砕かれた。



 ~~~~



「邪お姉さんのご飯は美味しいですね!」

「あら~、殺ちゃん!おだてるのが上手ね!」

「本当に美味しいですよ!」

 殺は翠の仲間以外は立ち入れない異空間で、邪の作ったご飯を食べていた。
 今回のご飯は如何やら炊き込みご飯である。
 殺は邪の作る美味しいご飯に舌鼓を打ち、至福に満ちていた。

「俺ちゃんのことは悪先輩って呼んで良いぜ!」

「はいはい、悪先輩」

「なんか適当~」

 殺の雑な対応を見て皆がクスッと笑ってしまう。
 悪は不憫だなと皆が思いながらも口に出さない。
 殺は皆の笑顔を見ながら少し暗い表情を浮かべた。
 その表情を見て、皆は何かあった?と訊ねる。
 すると殺は語る。

「今まで皆さんを傷つけてきた私が、皆さんの仲間になって良いのか不安になりまして……」

 殺のこの言葉に龍牙は少し微笑むと、殺の頭を撫でて答えた。

「昨日の敵は今日の友って……そういう言葉……あるよ」

 龍牙の優しい笑みに思わず殺は泣きそうになる。
 血の繋がった者が居るとは幸せなんだな。
 そう考えながら。

「殺ちゃんも今まで苦労したんだから、もう笑って良いのよ~」

 殺は皆の優しさに触れて、心が温まる気がした。
 すると罪が殺の隣に座って殺に親しそうに声をかけた。

「此処の環境は合う様になってきたか?」

「はい!寧ろ元気になりました!」

 それを聞いて罪は安心したという表情を浮かべる。
 罪は殺の体の状態を気遣っていた。
 大切な家族、今まで傷ついていた者が苦しんでいたらと思うと此方まで辛くなる気もしていた。
 だが殺の元気そうな姿を見て罪は嬉しそうにする。

「それは俺たちの家族になった証拠だな。改めて歓迎する。ようこそ、我が家へ」

「ありがとうございます」

 罪の言葉で家族の一員という自覚が持てる。
 ならば自分がすべきことはわかる。
 忌まわしい奴らを片っ端から始末するまで。
 そう考えた。

「砲牙兄さん」

「なーに?」

 砲牙はニヤニヤと笑う。
 それは殺が何を言いたいかがわかっているかの様に。

「私が完全に良いと思えるコンディションまであと少し。完全になったら彼奴らを殺しましょう。ついてきてくれますよね?」

「もっちろーん!高みの見物をしてるよ」

「そうですか」

 黒に染まった殺は笑う。
 やっと忌まわしい奴らとの関係を終わらせられる。

 だが殺は気づかない。
 忌まわしいに隠れるものは愛おしいと。

 殺は愚かだ。
 たとえ血が繋がっていなくとも、いくつもの愛が降り注ぐことを知らない。

 この時はまだ知らない。
 愛が何かを。

 さあ、愚かな彼は最期を迎えるのか?
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