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式・雛菊!

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 雛菊。
 そう名乗る女性は眩しいほど素敵な笑みを浮かべた。

「殺さんの……式神……」

「そうだね!式神だよ。取り敢えずここは任せな!」

 そう言う雛菊は腕を無くした黄色い頭巾の者を刀で深く斬り込む。
 斬られた者は悲鳴をあげて倒れた。
 それ以上何も声も発さない、動かないそれは息絶えたのだろう。

「地獄の者か!ちっ、余計な邪魔が!」

「もう全員殺しちまえ!式神を扱った餓鬼も要注意だ!」

 全員殺せとの言葉に恵里奈と美咲は恐怖を覚えた。
 だが、雛菊はまたもや笑みを浮かべ「大丈夫だよ」と答える。
 二人はその言葉に何故だかとても安心をした。

「さあ、かかって来な!」

「うォォォォォォォ!!」

 黄色い頭巾の者は雄叫びをあげて雛菊に斬りかかろうとする。
 だが雛菊はそれを避け、斬りかかって来た者の腹を殴った。

「ぐあっ!」

「先ずは一人といったところかねぇ」

 殴られた者は雛菊に心臓を刺され息絶える。
 黄色い頭巾の者はまだ沢山いる、数的には頭巾の者が有利だ。
 それに甘えたのか黄色い頭巾の者は、また雛菊に襲いかかる。
 しかも四人同時にだ。
 雛菊は四人に囲まれたが、不敵な笑みを浮かべた。

「甘いねぇ。殺様オススメのお菓子より甘い」

 そう笑って言った雛菊は、くるりと回りながら四人に斬撃をいれる。
 刀が体を貫通して一回転される、そうして敵は体が上半身と下半身にわかれ、血飛沫をあげた。
 更に雛菊は黄色い頭巾の者の群れに入り、首を狩っていく。

 あれだけ沢山いた黄色い頭巾の者が今では嘘の様に数を減らしている。
 首を狩られ、心臓を突かれた者は息絶えていった。

「くっ、覚えてろ!」

 残り僅かな黄色い頭巾の者がその場で走り去っていく。
 だが雛菊はそれを追って一人残らず皆殺しにした。

「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」

「何だい、つまらなかったねぇ」

 赤い着物から血が滴り落ちる。
 雛菊は唇についた紅を着物の袖で拭えば恵里奈と美咲の方を向いた。

「これは如何いうことだぃ?」

「あ……」

 恵里奈は雛菊の目を見て、真実を語るしかないと悟る。
 そうして雛菊に真実を語った。

「これは……復讐です」

「「復讐?」」

 美咲と雛菊が首を傾げる。
 恵里奈はそんな二人を見て、また語っていった。

「美咲の一族は人狩りを裏切った人狩りの一族です。おそらく黄色い頭巾の一族は裏切りの復讐を……」

 美咲は暫く何が何だかといった風な表情をしていたが、漸く状況を理解すると絶句した。
 彼女は自分が人狩りであることを理解し易いほど非現実的な世界を生きすぎていた。
 雛菊は「うーむ」と何かを長考していれば、考え終わった後に口を開く。

「これは殺様に報告しなきゃね。美咲、恵里奈、アンタらも地獄に来な。今ここに居ればその身が危ない」

「で、でも。私は家に帰った方が良いんじゃ?狙われているのは美咲だけですし、私が迷惑をかけるわけには……」

 恵里奈のその言葉に雛菊は呆れかえる。

「奴らは言っただろう?式神を扱った餓鬼も要注意だと。つまりアンタも標的にされる。おとなしく守られときな」

「そう……ですか……」

 恵里奈は自分も標的に入れられたことに身を竦ます。
 恐怖が包み込む、怖い。
 そう思っていた時だった。

「大丈夫だよ!恵里奈ちゃん!あやさんが守ってくれるから!」

 本来なら恐怖でいっぱいな立場の筈の美咲が笑って恵里奈の背をさすっていた。
 怖くない、と言えば嘘になるだろう。
 だが彼女はそれ以上に殺を信頼していた。

「さあ、もう良いかい?地獄へ行くよ!」

「は、はい!」

 そうやって彼女らは、地獄へ舞い戻った。



~~~~



「……ということがありまして……」

 雛菊は人間界で、起こったことを全て殺に報告する。
 そうですか……、という殺は下を向いて何かを考えていた。
 殺はやがて上を向いては雛菊に労いの言葉をかける。

「取り敢えずご苦労様でした。二人を守ってくれてありがとうございます」

「いえ!アタイは当然のことをしたまでで!」

「素直に礼を受け入れなさい」

「……はい、我が主人よ」

 雛菊は下を向き、跪く。
 ちらっとだが、恵里奈から見えた雛菊の顔は真っ赤だった。
 雛菊は殺に恋をしているのかと恵里奈は呑気に考える。
 やっと呑気に考えられる様になれたのも安全な地獄に来(こ)れたからか。
 今いる場所、殺の自室も初めて来たなと呑気に考えている。
 その時だった。

 コンコン。

 ノックの音が静かな部屋に反響した。
 殺が誰ですかと訊くと思わぬ人物の返事と共に、まだ入って良いと許可を得ていないのに入って来るという荒技が披露された。

「やっほー!皆のアイドル、閻魔さんだよ!」

「閻魔大王……ノックは覚えたのですね……」

 殺が呆れ顔を閻魔におくる。
 閻魔大王、その言葉を聞いて目の前の人物がかの有名な閻魔大王だと恵里奈は知る。
 現世の地獄絵図では巨大な体だったが、実際は普通の人間サイズだったんだなと一人驚いた。

「閻魔大王、話があるのですが」

「なーに?」

「美咲さんが人狩りの一族に狙われていて……守る為に動きたいのですが」

 殺が守ると言った瞬間に閻魔は愉快だとでもいう様に笑った。

「何がおかしいのですか?」

「だって、別にその子は死んでも獄卒になるんだからー。毎日会える様になるから良いじゃん!」

 閻魔のその言葉に殺は反論をすることにした。
 反論が出来るのも殺だから許されている様なものか。

「人は死んだら悲しむ人が必ず現れます!美咲さんの場合は天国のお祖母さんや、恵里奈さんです!人の死には何らかの悲しみがついてきます!貴方のその軽率な発言は、悲しみを理解してからにしていただきましょう!まあ、悲しみを理解出来たらその軽口は叩けなくなるでしょうが!」

 殺はかなり怒っていた。
 それを閻魔は察して少したじたじになる。
 だが閻魔は流石は閻魔だ。
 すぐに冷静に戻って、殺の目を覗き込んだ。

 暫し静かな時間が彼らを包む。
 そうして閻魔は「はぁー……」と言いながら言葉を発した。

「そうだね。人の死が悲しいものだと少し忘れてたよ。私も皆が死んだら悲しいから一緒だね。だから殺ちゃん、美咲ちゃんを守って良いよ」

「閻魔大王……理解してくれたのですね!」

 うん!と微笑む閻魔はもう子供ではなく、立派な大人だった。
 だが閻魔は疑問に思う。
 如何やって美咲を守るのかと、何を動くのかと。
 そうして閻魔は殺に訊ねた。

「美咲ちゃんを守るって如何するの?動くって?」

 すると殺はニヤリと笑う。

「美咲さんを囮にして人狩りを討伐するのですよ」

「え……それ美咲ちゃん大丈夫なの?」

 殺はその問いに待ってましたと言わんばかりの笑みを見せる。
 そうしてこれから如何するかを答えた。

「勿論ですが、護衛として人殺し課の皆がつきます!」

「え……、仕事は?」

「それは貴方がやってくれますよね?」

 殺は有無を言わさない様な顔で閻魔を見つめる。
 光を灯さない禍々しい目はこういう時に効果的だ。
 閻魔は「あー……う……」と面倒臭そうである。
 それに対し、殺は顔を更に近づけ迫る。
 そうすれば閻魔は、もう如何とでもなれと口を開いた。

「あー!もー!やるよ!やれば良いんでしょ?!」

「わかればよろしい」

 閻魔は文句を言いたそうに殺を見ているが、殺は知らん振りだ。
 殺はその次に雛菊を呼ぶ。

「雛菊!」

「はっ!我が主人よ!」

 雛菊は大きな声で返事をする。
 それを見て殺は雛菊を出来の良い部下だと思いながら言葉を続ける。

「雛菊も美咲さんの護衛につきなさい。貴方は強い、そんな貴方がついてくれれば私は助かります」

「言われなくともアタイは殺様についていきます!」

 殺と雛菊はお互いを見つめ合う。
 そうしてお互い笑顔になった。

「やはり貴方は頼れる」

「アタイをいつも信じてくれてありがとうございます!」

 雛菊は可憐な笑みを殺に見せる。
 殺はその笑顔を見て、雛菊との信頼関係を確かなものとする。
 そして言葉を放った。

「人間界へ行って人狩りを討伐しましょう!」

 その言葉は皆の士気を上げるのに充分だった。



~~~~


 嗚呼、我が主君よ。
 そんなに憎しみに身を焦がせば己が身が危うい。
 我が主君よ、地獄の者は私が相手をします。
 主君はあの一族の当主の娘を存分に甚振ってください。
 我が愛しの主君……沙羅様よ……。



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