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黄色い人狩り

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 黄色い頭巾に気をつけや。
 奴らは人狩り鬼の子よ。
 奴らは人を食ろうては、その魂を消す者ぞ。
 人狩って得た血は己の血に変えるじゃろう。
 その血をもって主を殺しゃんせ。



~~~~


「やっほー!あやさん!」

「皆様方、ご機嫌よう」

 人殺し課内に今日も響き渡る声。
 その声を殺は歓迎する。

「美咲さん、恵里奈さん、いらっしゃい。外は涼しくなってきたでしょう?」

「うん!秋だね!もう二学期だよ……」

 元気に返事はしていても、二学期という学校の始まりに美咲は嫌気がさしていた様だ。
 少し声のトーンが下がる。
 そんなに学校が面倒かと殺は呆れながらも、微笑んで美咲の頭を撫でた。

「あやさん?」

「学校で勉強するだけが子供ではないのですから、遊んでいても良いんですよ」

 殺のその発言に美咲は「そうだよねー!」と元気に言葉を返し、Mの胸に飛び込んでいった。
 きっとむにむにな感触が堪らないんだろう。
 Mは己が胸に飛び込んで来た美咲を抱きしめ、お菓子を渡していた。

 殺はこれがいつもの日常だと安心しきっていた。
 恵里奈のある言葉を聞くまでは……。


~~~~



 美咲はスマホで時間を確認する。
 人殺し課に来て何時間経ったのだろうか?
 もう時刻は夕方だ。
 美咲は帰る用意を始める。
 それを殺は見守っていた。
 だが殺は恵里奈の不審な態度と青い表情に気づく。

「恵里奈さん、如何したのですか?」

「殺さん……」

 少女は顔を下に向ける。
 だが殺はそんな恵里奈を見て、屈んで下から顔を眺めた。
 少女は顔を背けられない、言わなければならないと腹をくくったのか前を向いた。
 そうしてある言葉を話した。

「人狩りって知ってます?」

 恵里奈は何かに恐怖をしているみたいだった。
 人狩りのことを訊かれ、殺は己が知っていることを話す。

「ええ、知ってますよ。地獄の人間界駐在の職員たちが討伐している筈ですが?」

 殺は何故、人狩りが話題に出たのかわからないでいた。
 只一つわかったことは、平和が崩れたということか。
 恵里奈は話を続ける。

「ええ、ですがある一族が討伐しきられずに怪しげな動きを見せているのです。調べれば、その一族は美咲の一族と関係がある様で……。私がわかるのはそこまでですが、もしかしたら美咲が危ないかもしれない。なので良ければ殺さん、美咲を守ってください」

 人狩りのある一族が怪しげな動きを……それは殺のもとに回って来ていない情報だった。
 殺は悩む。自分のもとに回って来ていない情報なら、それは自分には関係のないものだ。
 それに自ら関与すると、殺に関係ないとした者の立場がなくなる。
 だが美咲が危ないかもしれない。

 友人が危険な目に遭うのは避けたい。
 だから殺は決めた。

「美咲さん」

「なーに?あやさん?」

 殺は己が服の中に入っているものをゴソゴソ漁る。
 そうして一枚の式符を美咲に渡した。

「これは?」

「美咲さん。この式符を肌身離さず持っていてください。危ない目に遭遇した時に役に立つかもしれませんから」

「う、うん!わかった!」

 美咲は危ないという言葉に若干だが戸惑いながらも殺と約束を交わした。
 さあ、今日は早い内に帰りなさい。
 そう殺に急かされる。
 美咲はわかったとは言ったが、状況はわかっていない。
 なので少しの不安を孕みながらも、陣が描かれた紙を破き恵里奈と人間界へと帰った。

「どうかあの子が危ない目に遭いません様に……」

 殺は真っ赤な天井を見上げ、一人で願っていた。




~~~~


「あやさん如何したんだろー?」

「さあ……ね」

 美咲は道路の白線の上をはみ出さない様に歩きながら恵里奈に訊ねる。
 だが恵里奈は美咲に恐怖を感じてほしくない為、敢えて答えないでいた。
 本来なら教えて、危機感を持たせた方が良いのだが。

 恵里奈は美咲に恐怖は与えたくない、だが少しは教えた方が良いかもしれない。
 恵里奈が少しだけ美咲が置かれている状況を話そうと口を開いた時だった。

『黄色い頭巾に気をつけや』

 ふとその言葉が頭に浮かんだ。
 その瞬間だった。

「何!?この人たち!!」

 誰も、車も通っていなかった道路で美咲と恵里奈は複数の者に囲まれる。
 その者たちは皆が黄色い頭巾を深く被っていた。
 その頭巾に恵里奈は恐怖した。

 恵里奈は式符を取り出し、式神を召喚する。
 呪符も取り出しては黄色い頭巾の者たちに攻撃をした。
 黄色い頭巾の者の眼前に大きな犬神や光が迫る。

 それを彼らはいとも簡単に防いだ。

 だが、恵里奈は防いだ際に出来た隙間に割り込み、美咲の手を取り走った。
 無我夢中、それが恵里奈に相応しい言葉だろう。

「恵里奈ちゃん!?如何したの?!」

「如何したもこうしたもない!」

 恵里奈はあの唐突に現れた異様な存在を知っていた。
 それは陰陽師をやっていると自然と知っていくこと。

 人狩り。

 奴らは人狩りだ。
 恵里奈は式神を囮にして美咲と逃げる。

(如何いうこと!?何で人狩りが私たちを!?私たちを食らう気?!……いや、私たちじゃない。美咲だけを追っている!)

 美咲だけが追われ、自分が眼中にないことを恵里奈は知る。
 本当なら恵里奈も自分の身を案じなければならないが、美咲を放っておくことは友人として出来なかった。

(何故、美咲だけが追われて?確か美咲と人狩りの一族は何か関係が!でも今の美咲の一族は人狩りのひの文字もない!ならば何故……!まさか!)

 恵里奈の頭の中に最悪の言葉が過ぎった。
 それは信じたくもないことでもあった。

(美咲は人狩りの一族を裏切った元人狩りの一族!?)

 ならば話は簡単だと恵里奈はわかった。
 これは人狩りの復讐。
 美咲の一族への復讐だ。
 確か黄色い頭巾の一族はある時期を境に一旦姿を消した。
 それは美咲の祖母の代だ。
 つまり美咲の祖母が人狩りを裏切った?

 恵里奈は酸素が充分に取り込まれない脳で考える。
 すると恵里奈は地面の小石に躓き転んだ。
 美咲もろとも転ぶ。
 そうこうしていたら黄色い頭巾の者たちが近づいて来る。

「くっ……そんな!」

 恵里奈は黄色い頭巾の者の手が迫ると同時に目を閉じる。
 だが手がそれ以上迫ることはなかった。

「ぎゃ!?」

「なーにアタイの主人の友人たちに手を出してんだい?強引なのは嫌われるぞ」

 目を見開いたのと同時に黄色い頭巾の者の手が斬り落とされる。
 鮮血が美咲と恵里奈を汚したが、二人はそれに臆さずに急に現れた茶髪の赤い着物を着た女性に問いかけた。

「貴方は……?」

 赤い着物をより赤く染め上げた女性が二人の方を向く。

「アタイは雛菊!殺様の式神だよ!」

 そう言う女性は笑顔を見せた。




~~~~



 嗚呼、憎い。
 私たちを裏切り、地獄の者に我が同胞を売ったあの一族が。
 何が私たちは人間と共存するだ、私たちは人狩り。
 貴様らは鬼だ。
 さあ、始めよう。
 裏切りの審判を……。




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