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一年
バレンタイン?
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「そういえば、もうすぐバレンタインやなぁ…」
「正気か?お前…」
「はい、自習中断。セイヤが壊れた。30分の休憩を設けるぞ」
もはや恒例となった俺たちの部屋での自習と言う名の勉強会。
中間テストを無事に越えて、今は期末テストの範囲を予習している。
ちなみに、今は6月14日。
バレンタインどころかクリスマス、ハロウィンすらまだまだ先に控えている時期。
「まったく、バレンタインの前に色々あるだろう。なんでそこに至ったんだよ」
「ちゃうねん、壊れたわけちゃうんやで?甘いもの食いたくなったらふと言葉にしてもうてん。ほら言うやろ?頭使いすぎたら甘いもん食えって」
「間違ってないが、それは俺にチョコを用意しろって催促か?………作れないことはないが、今から作るとしたら夕方になるぞ?」
まぁ…無理して勉強しても身につくわけでもなし、チョコがわりに何か用意でもしようか。
セイヤが完全に壊れる前に。
ちなみに、中間テストの結果なんだが…一位はやっぱりアスカだった。
俺が二位、織田が三位、ケイタが三十五位、セイヤが四十位。
「あの時のケアレスミスがなければ…」
「だから、ヤマトもしっかり見直しをしないとダメだよ。軽くしかしないから、スペルミスをしちゃうんだよ」
「言い返す言葉もないが、見直す時間があるなら俺は退室して次のテストに控えるぞ」
「あすかちゃん、言っても無駄だよ。その点、俺は何回も見直してるからね。来年は二位になってあすかちゃんと同室になるから頑張るよ」
ちなみにちなみに、アスカが500点満点。
俺が498点で、織田が460点。
何だかんだ平均90点をオーバーしてるんだよな、織田も。
これは本当に危ないかもしれないな、見直し、ちゃんとするか。
「あらやだ、正義ちゃんってば。私と離れるのが寂しくないのぉ?」
「離せ、バケモノ。俺は今すぐにでもお前から離れたいんだよ。俺とあすかちゃんの間に割り込むな」
「あらひどいわね。大和ちゃーん、正義ちゃんが私をいじめるぅ」
「ヤスケ、それが織田の愛情表現だ。良かったな、両思いじゃないか」
「おい、武蔵!」
「そうなんだ、やっぱり同室だから気心の知れているんだね。」
「あすかちゃん!?違うよ、俺は男に興味なんてないからね!!」
「大和ちゃん、飛鳥ちゃん。私の好みのタイプを知ってるくせにからかわないの。ごめんね、正義ちゃん。私は心に決めた人がいるのよぅ」
「ちょっと待て!俺が振られたようになってるだろうがっ!!」
「そうか…どんまい、織田。そのうちいい男が現れるよ」
「だから!俺は男に興味無いって言ってるだろ!俺は可愛い子が好きなんだよ!」
「そうなんだ、ごめんね織田くん。素敵な彼女ができるといいね。僕も友達として応援するよ」
「えっ!?いや、その…そうなんだけど違うんだよ…服部はいつまで俺を抱きしめてるんだ!離せっ!」
織田を背後から抱きしめて離さない人物、入学時の成績四位の服部弥助。
織田と同室で、とある事情から俺と親交を持ち、自習勉強会にも織田を連れて参加するようになった。
中間テストの順位も四位で、点数は入学時と同じ450点。
俺の予想では、おそらくわざと90点で調整していると思う。
ヤスケも俺やセイヤと同じ受験組、そして俺と同じく恋愛対象は男。
そして言わずもがな、ノリは典型的なオカマキャラ。
美を追求しているらしく、肌の手入れやムダ毛の処理、化粧も無駄にレベルが高い。
アスカを可愛い系男子と例えるのであれば、ヤスケは美しい系男子だろう。
もちろん、俺たちはありきたりな男子だが。
「そんなことよりも、皆はバレンタインデーはどんな感じだったのぉ?」
「弥助も晴也の話につられるのかよ」
「景太ちゃん、休憩時間なんだから気にしないの。私はもちろん、男子に手作りチョコをプレゼントしたわぁ。当然義理チョコってやつ」
「俺は…中学2年までは女子からもらってたけど、中学3年の時にはヤスケと同じようにチョコを作って配ったなぁ…」
「大和、中学3年のときは女子からもらわなかったのか?」
「いや、渡されたけど返した。女子とは関わりたくなかったからな。お前らは?」
「………大和…お前みたいな美形なキャラは楽しいイベントかもしれん。せやけどな、俺みたいな平凡な男は母親からしかチョコはもらわれへんねん。それを…チョコを返したやと…?」
「闇堕ちしている晴也は置いといて…俺たち中等部組は男子校だからな。男同士でチョコを交換というか…一緒に食べてたよ」
「そうか、ホモチョコか」
「そうね、ホモチョコねぇ」
「おいこら、そこのホモ2人。お前たちと一緒にするな」
ケイタの話に同調したら何故か怒られた。
いいじゃん、ホモチョコ。
男同士の劣情を高め合っていいじゃん。
どうせ、俺たちみたいなやつもこっそり隠れてるんだって、ここは男子校なんだから。
「そういえば、ここの学校には女子がいないから、バレンタインも気が楽だな」
「そうねぇ、いらない気を遣わなくてもいいって、すばらしいわぁ」
「いったい…お前らの過去に何があったんや?…いや、言わんでええわ、聞いてもわからんと思うし」
「だいたい、男からチョコをもらっても嬉しくねぇよ。でも、どうせならあすかちゃんから….」
「ねぇ、ヤマト?一つ聞いてもいい?」
季節外れにも程があるバレンタインの思い出を語り合っていると、アスカに服の裾を掴まれて上目遣いで声をかけられた。
相変わらず可愛いなぁ…目が据わってなければだけれど。
「ヤマトは中学時代に手作りチョコを配ってたの?本命?相手はどんな人?」
「もちろん義理だよ。中学時代に好みの男はいなかったからなぁ。今回は本命を作るから楽しみにしててくれよ」
「…っ!うん、楽しみにしてるよ!」
「本当…飛鳥ちゃんは可愛いわねぇ。私からは義理だけどプレゼントするわね」
「ヤスケさんもありがとう、嬉しい!」
「お、俺からもあすかちゃんにプレゼントするよ!」
バレンタインの話で盛り上がっていると、30分がいつのまにか過ぎていたことに気づいた。
………ここで終えても集中はできないだろうな。
まだ時間はあるし、午前はこのまま雑談で終わらせようか。
「織田もチョコ作れるのか?」
「そんなことするわけないだろう。百貨店で販売している高級チョコをプレゼントするんだよ」
「そうか………愛情が足りないなぁ」
「そうね、愛情がたりないわねぇ…」
「な、なんだよ…何が言いたいんだよ」
「なぁ、景太」
「ん?どうした?」
「前から思ってたんやけど、大和って織田のこと結構気に入っとるよな?」
「そうだな、何だかんだ相手にしてるし、嫌ってはないだろうな。自習勉強会にも参加させてるし」
外野が何か言ってるけれど、あえて聞き流そう。
それよりも織田だ。
こいつはアスカのことになると空回りするところがある。
そこが最近楽しい。
性格悪いなぁ、俺。
「織田、俺たちは当然手作りだ。チョコを湯煎するところから型どるところ、冷やすところ、ラッピングするところすべてに愛情を注ぐ。たしかに市販のチョコは味も安定しているし、高級なチョコならなおさら間違いなどないだろう。しかし、しかしだ。そのチョコのどこにお前の愛情があるんだ?」
「そうよねぇ…チョコを買いました、はいどうぞ、だけなら愛情は感じられないわねぇ」
「ちょ…愛情なんて…俺は今までお世話になっているあすかちゃんにお礼として…」
「甘いっ!そんなことじゃアスカを俺から奪うことなぞ出来んぞ!」
「!?」
「ヤマト?ヤスケさん?織田くん?話が変な方向に進んでない?それに、僕は…」
「悪い、アスカ。部外者は口を挟まないでくれ」
「ごめんね、飛鳥ちゃん。これは私たちの問題なのよぉ」
「僕、思いっきり当事者だと思うんだけど!?」
アスカが何かを言ってるけれど、気にしない。
今は織田をからかう…もとい、やる気にさせることが大事だ。
「織田…お前のアスカへの愛情はそんなものなのか?物を買って渡すだけで済むほどなのな?」
「いや…俺は…」
「大丈夫よ、正義ちゃん。誰だって初めは下手くそなんだから。私だって何度も失敗して今に至ってるのよぉ?」
「今も失敗してるようなもんやろ、男として」
「口を挟むなって、こっちに飛び火したら面倒だろう」
「セイヤくん、ケイタくん、僕もこっちにいていい?あっちにいたら追い出されたよ…」
「ええよええよ、何もないけどゆっくりしていきや」
「気分転換にトランプ持ってきたから、大富豪でもしよっか」
「で、でも…そもそも俺はアスカちゃんにそんな感情は…」
「チョコを渡すのならば!そのチョコに愛情を込めるのが筋ってやつだろう!」
「そうよぉ、たとえ上手く伝わらなくても愛がこもったチョコをもらったら誰だって嬉しいものよぉ」
「お前もチョコをもらうなら、市販よりも手作りの方が愛を感じると思わないか、アスカ?」
織田を説得しつつ少しヒートアップしている中で、当事者の意見としてアスカに助言を求めて振り返ると、アスカはセイヤたちと昆布茶を飲みながら煎餅を食べ、トランプをしていた。
この大事な時に何をしているんだ、こいつらは。
「何でそんなところにいるんだ、アスカ。お前も当事者だろう。話に参加しろって」
「そうよぉ、何で距離をとってるのぉ?」
「本当に怒るよ、二人とも!さっきは部外者って言ってたじゃんかっ!!」
怒られた、ごめんなさい。
「ん~…まぁたしかに手作りの方が気持ちがこもってるように感じるかなぁ。二人はどう思う?」
「ん?俺ら?俺はもらえるんやったら何でも嬉しいで?」
「俺は…まぁ好きな人からだったら、手作りかな。下手でも不味くても愛がこもってたらそれだけで嬉しいし」
「俺は一度も料理したことがないんだっての。失敗するに決まってるだろ」
「だからぁ、私が手取り足取り腰取りおしえてあげるわよぉ」
「ヤスケの指導なら間違いないな。料理の腕は確かだし…ほい、スペードの2」
ヤスケと揃ってアスカに土下座して許しを請い、今は6人で大富豪をしています。
…だって、俺もトランプしたかったんだもん。
平日の授業の合間の休憩時間じゃ、時間に追われて中途半端に終わっちゃうし、じっくり楽しみたいもん。
「どうするー?俺の手札はあと一枚だぜ?」
「そうだね、ならジョーカーを使うよ」
「なっ!?やはり立ちはだかるのはアスカか!」
「さすがあすかちゃん!トップはあすかちゃんが一番似合うよ!」
「ありがとう、織田くん。でも…僕が上がっちゃうと…」
「隣の俺が上がると…あぁ~あ、また富豪かぁ。都落ちさせたかったんだけどなぁ」
「大富豪って、地方(ローカル)ルールがあってややこしいんやけど、最低限のルールだけでも結構楽しいんやな」
「そうだな…なぁ大和、今日は自主勉強法は中止か?」
「ん?………そうだな、中止にしようか」
時計を見ると、いつのまにか15時を過ぎていたことに今気づいた。
昼ごはんも食べずにトランプに熱中していたらしい。
今日はこのままトランプをして解散となった。
まぁ、たまにはこんな日があってもいいだろう。
期末テストまでまだ一ヶ月はあることだし。
「ヤマト、こっち来て」
「ん?どうした?」
二人でお風呂から上がり、アスカをベッドに先に向かわせて俺は電気の消し忘れがないか確認していた。
呼ばれてアスカのところに向かうと、ベッドにシャツとパンツのみの姿のアスカが妖艶な表情で俺を見つめている。
風呂場でもあんなに愛し合ったというのに、本当に可愛らしい恋人だな。
「どうした?アスカ」
「これ、一緒に食べよ?」
アスカが取り出したのは、以前買い出しの時に購入していた一口サイズのブロックチョコレートだった。
音符マークが描かれているチョコレートで、たまに無性に食べたくなるやつだ。
「さっき歯磨きしたばかりだろう?それに寝る前は糖分の取り過ぎは…」
「今日だけ、今日だけだからさ。ヤマトと一緒に食べたいなって…ダメ?」
「………ダメじゃない。そもそもアスカに誘われて断ることなんてするわけないだろう?」
「良かった…じゃあ…」
アスカはブロックチョコレートを袋から取り出して口に入れると、そのまま俺に顔を近づけてくる。
あぁ、なるほど。
一緒に食べるってそういうことか。
「んん…ん~…」
「はぁ………ん…」
唇を重ねてすぐに舌を伸ばすと、アスカも口を開けて俺の舌を待ちわびていた。
お互いの口の中でチョコを舐めて溶かしていき、チョコが無くなっても唇を離すことなく、舌を絡め合わせお互いの愛情を確認し合う。
この可愛い恋人のためにも、今回は本気を出して本命チョコレートを作らないとな。
「正気か?お前…」
「はい、自習中断。セイヤが壊れた。30分の休憩を設けるぞ」
もはや恒例となった俺たちの部屋での自習と言う名の勉強会。
中間テストを無事に越えて、今は期末テストの範囲を予習している。
ちなみに、今は6月14日。
バレンタインどころかクリスマス、ハロウィンすらまだまだ先に控えている時期。
「まったく、バレンタインの前に色々あるだろう。なんでそこに至ったんだよ」
「ちゃうねん、壊れたわけちゃうんやで?甘いもの食いたくなったらふと言葉にしてもうてん。ほら言うやろ?頭使いすぎたら甘いもん食えって」
「間違ってないが、それは俺にチョコを用意しろって催促か?………作れないことはないが、今から作るとしたら夕方になるぞ?」
まぁ…無理して勉強しても身につくわけでもなし、チョコがわりに何か用意でもしようか。
セイヤが完全に壊れる前に。
ちなみに、中間テストの結果なんだが…一位はやっぱりアスカだった。
俺が二位、織田が三位、ケイタが三十五位、セイヤが四十位。
「あの時のケアレスミスがなければ…」
「だから、ヤマトもしっかり見直しをしないとダメだよ。軽くしかしないから、スペルミスをしちゃうんだよ」
「言い返す言葉もないが、見直す時間があるなら俺は退室して次のテストに控えるぞ」
「あすかちゃん、言っても無駄だよ。その点、俺は何回も見直してるからね。来年は二位になってあすかちゃんと同室になるから頑張るよ」
ちなみにちなみに、アスカが500点満点。
俺が498点で、織田が460点。
何だかんだ平均90点をオーバーしてるんだよな、織田も。
これは本当に危ないかもしれないな、見直し、ちゃんとするか。
「あらやだ、正義ちゃんってば。私と離れるのが寂しくないのぉ?」
「離せ、バケモノ。俺は今すぐにでもお前から離れたいんだよ。俺とあすかちゃんの間に割り込むな」
「あらひどいわね。大和ちゃーん、正義ちゃんが私をいじめるぅ」
「ヤスケ、それが織田の愛情表現だ。良かったな、両思いじゃないか」
「おい、武蔵!」
「そうなんだ、やっぱり同室だから気心の知れているんだね。」
「あすかちゃん!?違うよ、俺は男に興味なんてないからね!!」
「大和ちゃん、飛鳥ちゃん。私の好みのタイプを知ってるくせにからかわないの。ごめんね、正義ちゃん。私は心に決めた人がいるのよぅ」
「ちょっと待て!俺が振られたようになってるだろうがっ!!」
「そうか…どんまい、織田。そのうちいい男が現れるよ」
「だから!俺は男に興味無いって言ってるだろ!俺は可愛い子が好きなんだよ!」
「そうなんだ、ごめんね織田くん。素敵な彼女ができるといいね。僕も友達として応援するよ」
「えっ!?いや、その…そうなんだけど違うんだよ…服部はいつまで俺を抱きしめてるんだ!離せっ!」
織田を背後から抱きしめて離さない人物、入学時の成績四位の服部弥助。
織田と同室で、とある事情から俺と親交を持ち、自習勉強会にも織田を連れて参加するようになった。
中間テストの順位も四位で、点数は入学時と同じ450点。
俺の予想では、おそらくわざと90点で調整していると思う。
ヤスケも俺やセイヤと同じ受験組、そして俺と同じく恋愛対象は男。
そして言わずもがな、ノリは典型的なオカマキャラ。
美を追求しているらしく、肌の手入れやムダ毛の処理、化粧も無駄にレベルが高い。
アスカを可愛い系男子と例えるのであれば、ヤスケは美しい系男子だろう。
もちろん、俺たちはありきたりな男子だが。
「そんなことよりも、皆はバレンタインデーはどんな感じだったのぉ?」
「弥助も晴也の話につられるのかよ」
「景太ちゃん、休憩時間なんだから気にしないの。私はもちろん、男子に手作りチョコをプレゼントしたわぁ。当然義理チョコってやつ」
「俺は…中学2年までは女子からもらってたけど、中学3年の時にはヤスケと同じようにチョコを作って配ったなぁ…」
「大和、中学3年のときは女子からもらわなかったのか?」
「いや、渡されたけど返した。女子とは関わりたくなかったからな。お前らは?」
「………大和…お前みたいな美形なキャラは楽しいイベントかもしれん。せやけどな、俺みたいな平凡な男は母親からしかチョコはもらわれへんねん。それを…チョコを返したやと…?」
「闇堕ちしている晴也は置いといて…俺たち中等部組は男子校だからな。男同士でチョコを交換というか…一緒に食べてたよ」
「そうか、ホモチョコか」
「そうね、ホモチョコねぇ」
「おいこら、そこのホモ2人。お前たちと一緒にするな」
ケイタの話に同調したら何故か怒られた。
いいじゃん、ホモチョコ。
男同士の劣情を高め合っていいじゃん。
どうせ、俺たちみたいなやつもこっそり隠れてるんだって、ここは男子校なんだから。
「そういえば、ここの学校には女子がいないから、バレンタインも気が楽だな」
「そうねぇ、いらない気を遣わなくてもいいって、すばらしいわぁ」
「いったい…お前らの過去に何があったんや?…いや、言わんでええわ、聞いてもわからんと思うし」
「だいたい、男からチョコをもらっても嬉しくねぇよ。でも、どうせならあすかちゃんから….」
「ねぇ、ヤマト?一つ聞いてもいい?」
季節外れにも程があるバレンタインの思い出を語り合っていると、アスカに服の裾を掴まれて上目遣いで声をかけられた。
相変わらず可愛いなぁ…目が据わってなければだけれど。
「ヤマトは中学時代に手作りチョコを配ってたの?本命?相手はどんな人?」
「もちろん義理だよ。中学時代に好みの男はいなかったからなぁ。今回は本命を作るから楽しみにしててくれよ」
「…っ!うん、楽しみにしてるよ!」
「本当…飛鳥ちゃんは可愛いわねぇ。私からは義理だけどプレゼントするわね」
「ヤスケさんもありがとう、嬉しい!」
「お、俺からもあすかちゃんにプレゼントするよ!」
バレンタインの話で盛り上がっていると、30分がいつのまにか過ぎていたことに気づいた。
………ここで終えても集中はできないだろうな。
まだ時間はあるし、午前はこのまま雑談で終わらせようか。
「織田もチョコ作れるのか?」
「そんなことするわけないだろう。百貨店で販売している高級チョコをプレゼントするんだよ」
「そうか………愛情が足りないなぁ」
「そうね、愛情がたりないわねぇ…」
「な、なんだよ…何が言いたいんだよ」
「なぁ、景太」
「ん?どうした?」
「前から思ってたんやけど、大和って織田のこと結構気に入っとるよな?」
「そうだな、何だかんだ相手にしてるし、嫌ってはないだろうな。自習勉強会にも参加させてるし」
外野が何か言ってるけれど、あえて聞き流そう。
それよりも織田だ。
こいつはアスカのことになると空回りするところがある。
そこが最近楽しい。
性格悪いなぁ、俺。
「織田、俺たちは当然手作りだ。チョコを湯煎するところから型どるところ、冷やすところ、ラッピングするところすべてに愛情を注ぐ。たしかに市販のチョコは味も安定しているし、高級なチョコならなおさら間違いなどないだろう。しかし、しかしだ。そのチョコのどこにお前の愛情があるんだ?」
「そうよねぇ…チョコを買いました、はいどうぞ、だけなら愛情は感じられないわねぇ」
「ちょ…愛情なんて…俺は今までお世話になっているあすかちゃんにお礼として…」
「甘いっ!そんなことじゃアスカを俺から奪うことなぞ出来んぞ!」
「!?」
「ヤマト?ヤスケさん?織田くん?話が変な方向に進んでない?それに、僕は…」
「悪い、アスカ。部外者は口を挟まないでくれ」
「ごめんね、飛鳥ちゃん。これは私たちの問題なのよぉ」
「僕、思いっきり当事者だと思うんだけど!?」
アスカが何かを言ってるけれど、気にしない。
今は織田をからかう…もとい、やる気にさせることが大事だ。
「織田…お前のアスカへの愛情はそんなものなのか?物を買って渡すだけで済むほどなのな?」
「いや…俺は…」
「大丈夫よ、正義ちゃん。誰だって初めは下手くそなんだから。私だって何度も失敗して今に至ってるのよぉ?」
「今も失敗してるようなもんやろ、男として」
「口を挟むなって、こっちに飛び火したら面倒だろう」
「セイヤくん、ケイタくん、僕もこっちにいていい?あっちにいたら追い出されたよ…」
「ええよええよ、何もないけどゆっくりしていきや」
「気分転換にトランプ持ってきたから、大富豪でもしよっか」
「で、でも…そもそも俺はアスカちゃんにそんな感情は…」
「チョコを渡すのならば!そのチョコに愛情を込めるのが筋ってやつだろう!」
「そうよぉ、たとえ上手く伝わらなくても愛がこもったチョコをもらったら誰だって嬉しいものよぉ」
「お前もチョコをもらうなら、市販よりも手作りの方が愛を感じると思わないか、アスカ?」
織田を説得しつつ少しヒートアップしている中で、当事者の意見としてアスカに助言を求めて振り返ると、アスカはセイヤたちと昆布茶を飲みながら煎餅を食べ、トランプをしていた。
この大事な時に何をしているんだ、こいつらは。
「何でそんなところにいるんだ、アスカ。お前も当事者だろう。話に参加しろって」
「そうよぉ、何で距離をとってるのぉ?」
「本当に怒るよ、二人とも!さっきは部外者って言ってたじゃんかっ!!」
怒られた、ごめんなさい。
「ん~…まぁたしかに手作りの方が気持ちがこもってるように感じるかなぁ。二人はどう思う?」
「ん?俺ら?俺はもらえるんやったら何でも嬉しいで?」
「俺は…まぁ好きな人からだったら、手作りかな。下手でも不味くても愛がこもってたらそれだけで嬉しいし」
「俺は一度も料理したことがないんだっての。失敗するに決まってるだろ」
「だからぁ、私が手取り足取り腰取りおしえてあげるわよぉ」
「ヤスケの指導なら間違いないな。料理の腕は確かだし…ほい、スペードの2」
ヤスケと揃ってアスカに土下座して許しを請い、今は6人で大富豪をしています。
…だって、俺もトランプしたかったんだもん。
平日の授業の合間の休憩時間じゃ、時間に追われて中途半端に終わっちゃうし、じっくり楽しみたいもん。
「どうするー?俺の手札はあと一枚だぜ?」
「そうだね、ならジョーカーを使うよ」
「なっ!?やはり立ちはだかるのはアスカか!」
「さすがあすかちゃん!トップはあすかちゃんが一番似合うよ!」
「ありがとう、織田くん。でも…僕が上がっちゃうと…」
「隣の俺が上がると…あぁ~あ、また富豪かぁ。都落ちさせたかったんだけどなぁ」
「大富豪って、地方(ローカル)ルールがあってややこしいんやけど、最低限のルールだけでも結構楽しいんやな」
「そうだな…なぁ大和、今日は自主勉強法は中止か?」
「ん?………そうだな、中止にしようか」
時計を見ると、いつのまにか15時を過ぎていたことに今気づいた。
昼ごはんも食べずにトランプに熱中していたらしい。
今日はこのままトランプをして解散となった。
まぁ、たまにはこんな日があってもいいだろう。
期末テストまでまだ一ヶ月はあることだし。
「ヤマト、こっち来て」
「ん?どうした?」
二人でお風呂から上がり、アスカをベッドに先に向かわせて俺は電気の消し忘れがないか確認していた。
呼ばれてアスカのところに向かうと、ベッドにシャツとパンツのみの姿のアスカが妖艶な表情で俺を見つめている。
風呂場でもあんなに愛し合ったというのに、本当に可愛らしい恋人だな。
「どうした?アスカ」
「これ、一緒に食べよ?」
アスカが取り出したのは、以前買い出しの時に購入していた一口サイズのブロックチョコレートだった。
音符マークが描かれているチョコレートで、たまに無性に食べたくなるやつだ。
「さっき歯磨きしたばかりだろう?それに寝る前は糖分の取り過ぎは…」
「今日だけ、今日だけだからさ。ヤマトと一緒に食べたいなって…ダメ?」
「………ダメじゃない。そもそもアスカに誘われて断ることなんてするわけないだろう?」
「良かった…じゃあ…」
アスカはブロックチョコレートを袋から取り出して口に入れると、そのまま俺に顔を近づけてくる。
あぁ、なるほど。
一緒に食べるってそういうことか。
「んん…ん~…」
「はぁ………ん…」
唇を重ねてすぐに舌を伸ばすと、アスカも口を開けて俺の舌を待ちわびていた。
お互いの口の中でチョコを舐めて溶かしていき、チョコが無くなっても唇を離すことなく、舌を絡め合わせお互いの愛情を確認し合う。
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