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一年
入寮
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聖翼男子学園。
その学園は中高一貫の進学校で、学生たちは日夜勉強に育んでいる。
成績が優秀な学生にはあらゆる優遇がされているらしい。
授業に出ずに図書館で受験勉強をさせてもらえるやら、教科書や参考書が無料やら、学食で特別なメニューが買えるやら、寮の部屋が豪華やら、美人の寮監の先生に性欲処理をしてもらえるやら…本当かどうか怪しい噂が巷に流れている。
その進学校の高等部に俺、武蔵大和は外部の中学校から入試試験を経て入学することになった。
本当は、適当な男子高に進学して適当な学園生活を送る予定だったのだが…父親が海外に転勤することになり、母親もついて行くことになり、一人息子の俺は日本に残ることになり、一人生活をさせたくない両親が寮設備のある高校を探してくれたことにより、この学校を受験することになった。
勉強は嫌いじゃないし、寮生活も経験してみたかったからいいんだけどさ。
この学園のことをネットで調べると、さっき書いたような噂がちらほら掲示板に書かれていた。
まぁ、しょせん噂だろう。
寮監の先生は筋肉質のおじさんだったからな。
試験日の監督が寮監の先生で、それを知った他の受験者は落ち込んでいたのを覚えている。
夢見すぎだろ、お前ら…。
そういえば、中等部からのエスカレーター進学組も俺たち受験組と同じ試験を受けていたらしい。
中等部組と受験者組、合わせた成績で順位をつけて寮の部屋を決めるとのことだった。
試験の後、無事に合格通知は届いていたが成績のことは書かれておらず、入学式の一週間前に学園で発表し、そのまま入寮となるそうだ。
自己採点したらケアレスミスがあって500満点で495点だったから、一番良い部屋に入れるだろう。
…他の奴らが500点を量産してなければの話だけど。
時は流れて4月1日。
試験の結果が学園で発表される日であり、両親が海外に転勤する日だ。
両親に見送られ、財布とスマホのみ持って学園へと向かう。
その他の荷物は前日までに荷物を学園に郵送してあり、すでに寮の部屋に届いているそうだ。
学園に到着すると校庭に私服の男子が集まっていた。
そして、大きな電光掲示板の前で寮監の先生が大きな声で説明してくれていた。
「………というわけで成績発表をするわけだが、その前に注意をしておく。ひとつ、部屋はオートロックになっているから部屋を出る時は必ず鍵を持っていくこと。ふたつ、消灯時間以降は勉強禁止だ。夜更かしして勉強したところで身につかん。遅刻の原因にもなるからな。みっつ、部屋の交換は禁止だ。その部屋が嫌なら今年度最後の期末試験で成績をあげることだな。よっつ、噂になってる性欲処理のことだ。私でよければいつでも手伝ってやる」
学生はその言葉に無関心な者、引いている者、興味津々な者と別れた反応を見せていた。
もっとこう…可愛い感じだったら俺もお願いしたいんだけど、筋肉質の年上はちょっと好みではないんだよな。
ここで簡単に俺のことを説明しておく。
俺は身長が175cmで体重が70kgの標準体型よりやや筋肉質、顔は自己評価で上の下だと思う。
そして…俺は可愛い系男子が好きだ。
中学校は共学で彼女もいた時期があったが、ある日突然目覚めてしまった。
きっかけは水泳部の部室に置いてあったBL本である。
誰がどういう目的で男子水泳部にBL本を置いたのかは未解決だが、それ以来、男の身体を性的に見てしまうようになった。
受験日に念のため物色していたが、受験者組にはときめくことがなかったから、中等部組に期待している。
「では、成績を発表する!鍵と一緒に学生証も渡すから、忘れずに取りに来い」
少し想い出に浸っているうちに寮監の話が終わっていたようで、電光掲示板に成績発表として名前がずらりと書き出されていた。
一位 天使飛鳥 500点
ニ位 武蔵大和 495点
三位 織田正義 465点
四位 服部弥助 450点
五位 小野直也 445点
六位 山本太郎 440点
・
・
・
どうやら500点は一人だけだったらしい。
よかった、量産されてなくて。
一部屋に二人で生活するから、俺も一番良い部屋に入れることになった。
寮監の先生が言っていた通り、最後の期末試験の成績で部屋のランクが下がるかもしれないから、気は抜けないな。
一度楽な生活を覚えたら、それ以下の生活を送れないのが人間だと、俺は思っている。
それに…どうせなら一位を目指さないとな。
「今から鍵と学生証を配る。受験者組は合格通知を、中等部組は中等部時代の学生証を私に見せること。他人のを奪って鍵をもらおうと考えている学生はいないとは思うが…万が一発覚したら退学を頭に入れておけ」
わざわざ言うくらいだから、もしかして以前にそんな学生がいたのだろうか。
そう考えると、俺の合格通知はある意味お宝のようなものってことだな。
面倒なことになる前にさっさと鍵を受け取りに行こう。
「お前は…武蔵大和だな。中等部組を抑えての二位は見事だった。これからも勉強して成績を落とさないようにな」
「はい、ありがとうございます。これからよろしくお願いします」
「あぁ、よろしく。何かわからないことがあれば私に聞いてくれ。分かる範囲で答えてやる」
「わかりました」
俺は鍵を受け取ると期待を胸に学生寮へと向かった。
学生寮は10階建てで一年生から三年生まで全員が2階から10階まで入寮しており、最上階はそれぞれの学年の成績トップの計三部屋しかないらしい。
初日から階段で10階まで行くのは面倒だったので、三基のエレベーターの前でスマホを弄っていると、いつの間にか数人に囲まれていた。
「お前が武蔵大和か」
「違いますので失礼します」
ちょうどエレベーターが来たので他の学生と乗り込むと、囲んでいた学生も一緒に乗ってきた。
各階のボタンが押されており、俺も10階のボタンを押してエレベーターは各階に止まりながら10階に到着した。
この階は俺を含めて6人の部屋しかないはずだが、なぜか俺を含めて10人ほどが降りた。
「お前!やっぱり武蔵大和だろ!」
「違いますよー、私は七篠権兵衛ですー。それでは失礼しますねー」
「誤魔化すなっ!俺は織田正義!お前に用がある!」
「そうですかー」
「この部屋は俺が使う部屋だ、その鍵を寄越せ」
「………退学になりたいんですか?」
俺は目の前の男の発言に目を開いて驚きを示した。
何言ってるんだ、このバカは…と。
まぁ、言い分はわかった。
中等部で学年二位だったのに、他所から俺が割り込んできて最上階の部屋でなくなったことに怒っているのだろう。
「ちっさいなぁ、お前」
「んだとごるぁ!!」
俺に絡む時間があるなら、その分勉強したらいいのに。
予習復習とか、この学園の受験の過去問とか見直せばいいのに。
こいつ、頭良いかもしれないけど頭悪いな。
「だいたい、部屋交換は禁止されてるでしょう。『俺が喜んで交換してくれたー』って説明するわけじゃないだろうな?絶対に疑われるぞ?」
「うるさい!いいから鍵を寄越せ!」
「渡すわけないだろ、少しは無い知恵絞ってから来いよ」
「無理やり奪ってもいいんだぞ?入寮してすぐに病院行きは嫌だろ?」
「そうなったら、お前たちを警察に突き出すよ」
「はっ、証拠もないのにどうやって突き出すんだよ」
織田が余裕ぶって粋がっているけど、全然怖くない。
進学校のお坊ちゃんなんだろうなぁ…共学の不良生徒のほうがよっぽど怖い。
周りの取り巻きも喧嘩弱そうだし…まぁ、俺も喧嘩弱いけど。
とりあえず証拠ね…あるにはあるけど、壊されたくないな。
『この部屋は俺が使う部屋だ、その鍵を寄越せ』
『無理やり奪ってもいいんだぞ?入寮してすぐに病院行きは嫌だろ?』
俺はスマホで録音していた音声を流してみた。
お~、焦ってる焦ってる。
ついでだし写真も撮っておくか。
「なっ!?」
「お前、何撮ってるんだよ!」
「何って、今日俺を脅しにきた学生の写真を撮ってるんだよ。あとで寮監に見せなきゃいけないし」
「お、おい…」
「で、どうするの?俺を病院送りにするの?監視カメラがバッチリ写しているのに?」
親切な俺は天井を指差して監視カメラの存在を織田たちに知らせてあげる。
織田も取り巻きもそこまで考えが及んでなかったようで見ただけでもわかるくらいに動揺していた。
不安そうに取り巻きが織田に視線を送っているが俺は気にすることなく自分の部屋番号の扉の鍵を開けた。
「じゃあ、次に会うのは入学式か?またな」
「ちょっと待て!その音声を…」
部屋の中に入るときに織田が何かを言おうとしていたが、扉を閉めたことで聞こえなくなった。
どうやら、防音はしっかりしているようだな。
さて、そんなことよりまずは部屋を確認しないと。
まずは入り口に近い扉を開けてみた。
中はトイレだった。
ウォッシュレット付きなのはありがたい。
扉を閉めてその横にある扉を開けると、洗面所だった。
洗濯機と乾燥機があるし、洗面台も大きいし、何より浴室も広い。
二人で湯船に浸かったとしても余裕があるとか…本当にここは寮か?学費のこととか心配になってくるぞ。
洗面所の扉を閉めて、向かいの扉を開けると二人で使うには広すぎるウォークインクローゼットだった。
こんなに服をかけることないし、荷物を置くこともない。
ここは本当に二人で生活する寮の部屋か?
次に廊下の突き当たりにある扉を開けてみた。
どうやら俺たちが生活するスペースらしく、大きな部屋の中にベッドの寝室エリア、本棚に勉強机の自習エリア、ソファにテレビのリビングエリア…あ、キッチンも冷蔵庫もある。
本当にここは寮なのか?都会のワンルームマンションの間違いじゃないのか?
思い描いていた寮とかけ離れている部屋に圧倒されながらソファに座っていると、部屋の扉が開いて一人の男子が入ってきた。
「うわぁ~…すごい…」
この部屋の広さに圧倒されてるらしい。
わかる、わかるよ。俺にはすごくよくわかる。
こんな部屋を用意されてるなんて思いもしないよな。
その男子は俺と同じように寝室エリア、自習エリアと見学していき、ソファに座っている俺と視線が合った。
座ったままだと態度が悪いと思い立ち上がって彼をじっくりと観察してみる。
彼は身長は俺より低く、ショートヘアーの可愛い系の男子だった。
彼も俺をじっくり観察していて、少し恥ずかしい。
とりあえず………。
「「よしっ!」」
可愛い系の男子と一年間この部屋で一緒に生活するとか、夢のようだ。
思わず声に出してガッツポーズをとってしまうのも無理もない。
「「え?」」
ただ、彼も同じように声に出してガッツポーズをとっていたのだが、どうしたのだろう?
「あ、初めまして。受験組の武蔵大和です。よろしくお願いします」
「あ、初めまして。僕は中等部から上がってきた天使飛鳥です。わからないことがあれば何でも聞いてくださいね」
とりあえず先程のガッツポーズの意味を教えて欲しいのだけど…何この子、はにかんだ笑顔がすごく可愛いんだけど!
やばい、直視できないくらい可愛い!
「あの…武蔵さん?」
「ヤマトでいいよ」
「じゃあ僕もアスカって呼んでね?」
「OK、アスカ」
よし!下の名前で呼び合うことに成功した!
より踏み込んだ関係になりたいけど、初対面だし無理せず段階を踏んで行こう。
焦ることはない、まだ一年以上の時間がある。
「ヤマトは何でガッツポーズをしたの?」
………アスカから聞いてくるか、その質問?
やばい、どう答えよう…誤魔化した方がいいか…いや、貫き通せる嘘が思いつかない。
「ヤマト?」
「あ、いや…なんだ、俺好みの可愛い系男子と生活できることに嬉しくてな…」
「……え?」
やっちまったぁぁぁぁ!!
よりによって本当のことを話してしまうとは…だって!仕方ないじゃん!!
可愛い顔して俺の顔を覗き込んできたんだよ!?
思わず喋っちゃうって!
「今のはその…何というか…」
「ぼ、僕と同じ理由だね」
「へ?」
誤魔化そうと言葉を選んでいると、アスカが恥ずかしそうに胸に手を当てて話を続ける。
「僕も…僕好みのかっこいい系の男子と生活できることが嬉しくて、ついガッツポーズしちゃって…」
「へ、へぇ~…」
え?何この展開?
告白したの?告白されたの?
くすぐったい雰囲気が流れちゃってるんですけど…。
「い、今の聞かなかったことにしてくれる…?いきなりこんなこと言われても迷惑だよね?」
「聞かなかったことには…出来ないかも」
「ま、まぁ…これから一年間よろしくね、やまと」
顔を赤くして恥ずかしそうにしながら俺のすぐ左に座るアスカに、俺も恥ずかしさを誤魔化すためにテレビをつけてニュースを見ることにした。
隣に座るアスカとの距離がすごく近いためにどうしても意識してしまい、ニュースは頭に入ってこなかった。
アスカの方をチラッと視線を送ると、アスカも俺の方をチラッと見ていて慌ててお互いに視線をそらす。
少し気まずい雰囲気の中で場を和ませようと思い、左腕を回してアスカの肩を抱いてみる。
驚いたアスカに冗談を言い、お互いに笑って何とかなる…という安易な考えだが。
ただ、肩を抱かれたアスカは驚くことなく、俺の肩に頭を乗せて身を委ねてきた。
第三者から見たら、どう見ても恋人にしか見えないだろう。
そういう関係になりたいとは思うが…。
「僕ね、高等部に入るの少し怖かったんだよね。中等部は一人部屋だから気が楽だったんだけど、高等部からは二人部屋になるって聞いててさ」
俺に身を委ねたまま、アスカが語り始めた。
やばい…茶化す雰囲気じゃない。
話に興味があるから、とりあえずこの状況のままで話をしてもらうことにした。
「中等部のまま行けば僕は織田くんと同室になるし、何も知らない受験組の人と同室になるのも怖かったんだ」
「織田は?」
「ん~…僕、彼のこと苦手なんだよね…強引なところとか、自分が正しいって思い込んでいるところとか…あと、僕を見る目が怖い」
うん、強引すぎないように気をつけよう。
あとアスカを見る目にも気をつけよう。
「織田くんから『高等部になったら同じ部屋だな』って言われてたけど、僕は受験組に期待をしてたんだ」
「怖かったんじゃないのか?」
「それは、何も知らないから怖かったけど、期待もしてたんだ。かっこいい人が来たらなぁって」
そう言うと俺の顔を見つめて微笑む。
さりげなく俺の右手を両手で包むように握りしめる。
「だからさ…ヤマトが同室で良かった」
「アスカ…」
可愛らしい笑顔で俺を見つめるアスカの肩をしっかり抱き寄せると、目を閉じて唇を突き出してきた。
俺は躊躇うことなく顔を近づけていき、そのまま唇を軽く重ねる。
少ししてから唇を離すと、相変わらず恥ずかしそうにしているあすかと視線が合う。
「ヤマトは…一目惚れって信じる?」
「信じるも何も…俺も一目惚れしてるしな」
「そっか…僕もだよ、ヤマト」
こうして、俺たちは出会って30分もしないうちに友人関係を飛ばして恋人関係となった。
この学園に入学して本当に良かった…神頼みをしたことのない俺は初めて神様に感謝をした。
その学園は中高一貫の進学校で、学生たちは日夜勉強に育んでいる。
成績が優秀な学生にはあらゆる優遇がされているらしい。
授業に出ずに図書館で受験勉強をさせてもらえるやら、教科書や参考書が無料やら、学食で特別なメニューが買えるやら、寮の部屋が豪華やら、美人の寮監の先生に性欲処理をしてもらえるやら…本当かどうか怪しい噂が巷に流れている。
その進学校の高等部に俺、武蔵大和は外部の中学校から入試試験を経て入学することになった。
本当は、適当な男子高に進学して適当な学園生活を送る予定だったのだが…父親が海外に転勤することになり、母親もついて行くことになり、一人息子の俺は日本に残ることになり、一人生活をさせたくない両親が寮設備のある高校を探してくれたことにより、この学校を受験することになった。
勉強は嫌いじゃないし、寮生活も経験してみたかったからいいんだけどさ。
この学園のことをネットで調べると、さっき書いたような噂がちらほら掲示板に書かれていた。
まぁ、しょせん噂だろう。
寮監の先生は筋肉質のおじさんだったからな。
試験日の監督が寮監の先生で、それを知った他の受験者は落ち込んでいたのを覚えている。
夢見すぎだろ、お前ら…。
そういえば、中等部からのエスカレーター進学組も俺たち受験組と同じ試験を受けていたらしい。
中等部組と受験者組、合わせた成績で順位をつけて寮の部屋を決めるとのことだった。
試験の後、無事に合格通知は届いていたが成績のことは書かれておらず、入学式の一週間前に学園で発表し、そのまま入寮となるそうだ。
自己採点したらケアレスミスがあって500満点で495点だったから、一番良い部屋に入れるだろう。
…他の奴らが500点を量産してなければの話だけど。
時は流れて4月1日。
試験の結果が学園で発表される日であり、両親が海外に転勤する日だ。
両親に見送られ、財布とスマホのみ持って学園へと向かう。
その他の荷物は前日までに荷物を学園に郵送してあり、すでに寮の部屋に届いているそうだ。
学園に到着すると校庭に私服の男子が集まっていた。
そして、大きな電光掲示板の前で寮監の先生が大きな声で説明してくれていた。
「………というわけで成績発表をするわけだが、その前に注意をしておく。ひとつ、部屋はオートロックになっているから部屋を出る時は必ず鍵を持っていくこと。ふたつ、消灯時間以降は勉強禁止だ。夜更かしして勉強したところで身につかん。遅刻の原因にもなるからな。みっつ、部屋の交換は禁止だ。その部屋が嫌なら今年度最後の期末試験で成績をあげることだな。よっつ、噂になってる性欲処理のことだ。私でよければいつでも手伝ってやる」
学生はその言葉に無関心な者、引いている者、興味津々な者と別れた反応を見せていた。
もっとこう…可愛い感じだったら俺もお願いしたいんだけど、筋肉質の年上はちょっと好みではないんだよな。
ここで簡単に俺のことを説明しておく。
俺は身長が175cmで体重が70kgの標準体型よりやや筋肉質、顔は自己評価で上の下だと思う。
そして…俺は可愛い系男子が好きだ。
中学校は共学で彼女もいた時期があったが、ある日突然目覚めてしまった。
きっかけは水泳部の部室に置いてあったBL本である。
誰がどういう目的で男子水泳部にBL本を置いたのかは未解決だが、それ以来、男の身体を性的に見てしまうようになった。
受験日に念のため物色していたが、受験者組にはときめくことがなかったから、中等部組に期待している。
「では、成績を発表する!鍵と一緒に学生証も渡すから、忘れずに取りに来い」
少し想い出に浸っているうちに寮監の話が終わっていたようで、電光掲示板に成績発表として名前がずらりと書き出されていた。
一位 天使飛鳥 500点
ニ位 武蔵大和 495点
三位 織田正義 465点
四位 服部弥助 450点
五位 小野直也 445点
六位 山本太郎 440点
・
・
・
どうやら500点は一人だけだったらしい。
よかった、量産されてなくて。
一部屋に二人で生活するから、俺も一番良い部屋に入れることになった。
寮監の先生が言っていた通り、最後の期末試験の成績で部屋のランクが下がるかもしれないから、気は抜けないな。
一度楽な生活を覚えたら、それ以下の生活を送れないのが人間だと、俺は思っている。
それに…どうせなら一位を目指さないとな。
「今から鍵と学生証を配る。受験者組は合格通知を、中等部組は中等部時代の学生証を私に見せること。他人のを奪って鍵をもらおうと考えている学生はいないとは思うが…万が一発覚したら退学を頭に入れておけ」
わざわざ言うくらいだから、もしかして以前にそんな学生がいたのだろうか。
そう考えると、俺の合格通知はある意味お宝のようなものってことだな。
面倒なことになる前にさっさと鍵を受け取りに行こう。
「お前は…武蔵大和だな。中等部組を抑えての二位は見事だった。これからも勉強して成績を落とさないようにな」
「はい、ありがとうございます。これからよろしくお願いします」
「あぁ、よろしく。何かわからないことがあれば私に聞いてくれ。分かる範囲で答えてやる」
「わかりました」
俺は鍵を受け取ると期待を胸に学生寮へと向かった。
学生寮は10階建てで一年生から三年生まで全員が2階から10階まで入寮しており、最上階はそれぞれの学年の成績トップの計三部屋しかないらしい。
初日から階段で10階まで行くのは面倒だったので、三基のエレベーターの前でスマホを弄っていると、いつの間にか数人に囲まれていた。
「お前が武蔵大和か」
「違いますので失礼します」
ちょうどエレベーターが来たので他の学生と乗り込むと、囲んでいた学生も一緒に乗ってきた。
各階のボタンが押されており、俺も10階のボタンを押してエレベーターは各階に止まりながら10階に到着した。
この階は俺を含めて6人の部屋しかないはずだが、なぜか俺を含めて10人ほどが降りた。
「お前!やっぱり武蔵大和だろ!」
「違いますよー、私は七篠権兵衛ですー。それでは失礼しますねー」
「誤魔化すなっ!俺は織田正義!お前に用がある!」
「そうですかー」
「この部屋は俺が使う部屋だ、その鍵を寄越せ」
「………退学になりたいんですか?」
俺は目の前の男の発言に目を開いて驚きを示した。
何言ってるんだ、このバカは…と。
まぁ、言い分はわかった。
中等部で学年二位だったのに、他所から俺が割り込んできて最上階の部屋でなくなったことに怒っているのだろう。
「ちっさいなぁ、お前」
「んだとごるぁ!!」
俺に絡む時間があるなら、その分勉強したらいいのに。
予習復習とか、この学園の受験の過去問とか見直せばいいのに。
こいつ、頭良いかもしれないけど頭悪いな。
「だいたい、部屋交換は禁止されてるでしょう。『俺が喜んで交換してくれたー』って説明するわけじゃないだろうな?絶対に疑われるぞ?」
「うるさい!いいから鍵を寄越せ!」
「渡すわけないだろ、少しは無い知恵絞ってから来いよ」
「無理やり奪ってもいいんだぞ?入寮してすぐに病院行きは嫌だろ?」
「そうなったら、お前たちを警察に突き出すよ」
「はっ、証拠もないのにどうやって突き出すんだよ」
織田が余裕ぶって粋がっているけど、全然怖くない。
進学校のお坊ちゃんなんだろうなぁ…共学の不良生徒のほうがよっぽど怖い。
周りの取り巻きも喧嘩弱そうだし…まぁ、俺も喧嘩弱いけど。
とりあえず証拠ね…あるにはあるけど、壊されたくないな。
『この部屋は俺が使う部屋だ、その鍵を寄越せ』
『無理やり奪ってもいいんだぞ?入寮してすぐに病院行きは嫌だろ?』
俺はスマホで録音していた音声を流してみた。
お~、焦ってる焦ってる。
ついでだし写真も撮っておくか。
「なっ!?」
「お前、何撮ってるんだよ!」
「何って、今日俺を脅しにきた学生の写真を撮ってるんだよ。あとで寮監に見せなきゃいけないし」
「お、おい…」
「で、どうするの?俺を病院送りにするの?監視カメラがバッチリ写しているのに?」
親切な俺は天井を指差して監視カメラの存在を織田たちに知らせてあげる。
織田も取り巻きもそこまで考えが及んでなかったようで見ただけでもわかるくらいに動揺していた。
不安そうに取り巻きが織田に視線を送っているが俺は気にすることなく自分の部屋番号の扉の鍵を開けた。
「じゃあ、次に会うのは入学式か?またな」
「ちょっと待て!その音声を…」
部屋の中に入るときに織田が何かを言おうとしていたが、扉を閉めたことで聞こえなくなった。
どうやら、防音はしっかりしているようだな。
さて、そんなことよりまずは部屋を確認しないと。
まずは入り口に近い扉を開けてみた。
中はトイレだった。
ウォッシュレット付きなのはありがたい。
扉を閉めてその横にある扉を開けると、洗面所だった。
洗濯機と乾燥機があるし、洗面台も大きいし、何より浴室も広い。
二人で湯船に浸かったとしても余裕があるとか…本当にここは寮か?学費のこととか心配になってくるぞ。
洗面所の扉を閉めて、向かいの扉を開けると二人で使うには広すぎるウォークインクローゼットだった。
こんなに服をかけることないし、荷物を置くこともない。
ここは本当に二人で生活する寮の部屋か?
次に廊下の突き当たりにある扉を開けてみた。
どうやら俺たちが生活するスペースらしく、大きな部屋の中にベッドの寝室エリア、本棚に勉強机の自習エリア、ソファにテレビのリビングエリア…あ、キッチンも冷蔵庫もある。
本当にここは寮なのか?都会のワンルームマンションの間違いじゃないのか?
思い描いていた寮とかけ離れている部屋に圧倒されながらソファに座っていると、部屋の扉が開いて一人の男子が入ってきた。
「うわぁ~…すごい…」
この部屋の広さに圧倒されてるらしい。
わかる、わかるよ。俺にはすごくよくわかる。
こんな部屋を用意されてるなんて思いもしないよな。
その男子は俺と同じように寝室エリア、自習エリアと見学していき、ソファに座っている俺と視線が合った。
座ったままだと態度が悪いと思い立ち上がって彼をじっくりと観察してみる。
彼は身長は俺より低く、ショートヘアーの可愛い系の男子だった。
彼も俺をじっくり観察していて、少し恥ずかしい。
とりあえず………。
「「よしっ!」」
可愛い系の男子と一年間この部屋で一緒に生活するとか、夢のようだ。
思わず声に出してガッツポーズをとってしまうのも無理もない。
「「え?」」
ただ、彼も同じように声に出してガッツポーズをとっていたのだが、どうしたのだろう?
「あ、初めまして。受験組の武蔵大和です。よろしくお願いします」
「あ、初めまして。僕は中等部から上がってきた天使飛鳥です。わからないことがあれば何でも聞いてくださいね」
とりあえず先程のガッツポーズの意味を教えて欲しいのだけど…何この子、はにかんだ笑顔がすごく可愛いんだけど!
やばい、直視できないくらい可愛い!
「あの…武蔵さん?」
「ヤマトでいいよ」
「じゃあ僕もアスカって呼んでね?」
「OK、アスカ」
よし!下の名前で呼び合うことに成功した!
より踏み込んだ関係になりたいけど、初対面だし無理せず段階を踏んで行こう。
焦ることはない、まだ一年以上の時間がある。
「ヤマトは何でガッツポーズをしたの?」
………アスカから聞いてくるか、その質問?
やばい、どう答えよう…誤魔化した方がいいか…いや、貫き通せる嘘が思いつかない。
「ヤマト?」
「あ、いや…なんだ、俺好みの可愛い系男子と生活できることに嬉しくてな…」
「……え?」
やっちまったぁぁぁぁ!!
よりによって本当のことを話してしまうとは…だって!仕方ないじゃん!!
可愛い顔して俺の顔を覗き込んできたんだよ!?
思わず喋っちゃうって!
「今のはその…何というか…」
「ぼ、僕と同じ理由だね」
「へ?」
誤魔化そうと言葉を選んでいると、アスカが恥ずかしそうに胸に手を当てて話を続ける。
「僕も…僕好みのかっこいい系の男子と生活できることが嬉しくて、ついガッツポーズしちゃって…」
「へ、へぇ~…」
え?何この展開?
告白したの?告白されたの?
くすぐったい雰囲気が流れちゃってるんですけど…。
「い、今の聞かなかったことにしてくれる…?いきなりこんなこと言われても迷惑だよね?」
「聞かなかったことには…出来ないかも」
「ま、まぁ…これから一年間よろしくね、やまと」
顔を赤くして恥ずかしそうにしながら俺のすぐ左に座るアスカに、俺も恥ずかしさを誤魔化すためにテレビをつけてニュースを見ることにした。
隣に座るアスカとの距離がすごく近いためにどうしても意識してしまい、ニュースは頭に入ってこなかった。
アスカの方をチラッと視線を送ると、アスカも俺の方をチラッと見ていて慌ててお互いに視線をそらす。
少し気まずい雰囲気の中で場を和ませようと思い、左腕を回してアスカの肩を抱いてみる。
驚いたアスカに冗談を言い、お互いに笑って何とかなる…という安易な考えだが。
ただ、肩を抱かれたアスカは驚くことなく、俺の肩に頭を乗せて身を委ねてきた。
第三者から見たら、どう見ても恋人にしか見えないだろう。
そういう関係になりたいとは思うが…。
「僕ね、高等部に入るの少し怖かったんだよね。中等部は一人部屋だから気が楽だったんだけど、高等部からは二人部屋になるって聞いててさ」
俺に身を委ねたまま、アスカが語り始めた。
やばい…茶化す雰囲気じゃない。
話に興味があるから、とりあえずこの状況のままで話をしてもらうことにした。
「中等部のまま行けば僕は織田くんと同室になるし、何も知らない受験組の人と同室になるのも怖かったんだ」
「織田は?」
「ん~…僕、彼のこと苦手なんだよね…強引なところとか、自分が正しいって思い込んでいるところとか…あと、僕を見る目が怖い」
うん、強引すぎないように気をつけよう。
あとアスカを見る目にも気をつけよう。
「織田くんから『高等部になったら同じ部屋だな』って言われてたけど、僕は受験組に期待をしてたんだ」
「怖かったんじゃないのか?」
「それは、何も知らないから怖かったけど、期待もしてたんだ。かっこいい人が来たらなぁって」
そう言うと俺の顔を見つめて微笑む。
さりげなく俺の右手を両手で包むように握りしめる。
「だからさ…ヤマトが同室で良かった」
「アスカ…」
可愛らしい笑顔で俺を見つめるアスカの肩をしっかり抱き寄せると、目を閉じて唇を突き出してきた。
俺は躊躇うことなく顔を近づけていき、そのまま唇を軽く重ねる。
少ししてから唇を離すと、相変わらず恥ずかしそうにしているあすかと視線が合う。
「ヤマトは…一目惚れって信じる?」
「信じるも何も…俺も一目惚れしてるしな」
「そっか…僕もだよ、ヤマト」
こうして、俺たちは出会って30分もしないうちに友人関係を飛ばして恋人関係となった。
この学園に入学して本当に良かった…神頼みをしたことのない俺は初めて神様に感謝をした。
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