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第32話【残念美人のフェアリー】

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「……あなたでは話にならないみたいですね。他の人間に話してみます」

「ええ!?」

「ちょっとフェアリー! あんたいい加減にしなさいよ!」

 しかしリズの静止も聞かず、フェアリーは奥にいる作業員たちに声を掛けた。

「誰でもいいです。船を出せる方は今すぐ出してください。ドラゴンは待ってはくれません。繁殖されたらそれこそ手に負えなくなります」

「な、なんだコイツいきなり……」
「ドラゴンってなんだい?」

「ドラゴンとはこの空より遥か上に生息する化物の事です。ヤツはなんでも捕食します。放っておけば地球上の生命体は根絶やしにさせられるでしょう」

 フェアリーが言い終えると、ほんの一瞬だけ沈黙してから漁師たちがこぞって大爆笑をし始めた。

「「「ぎゃっはっはっはっはっは!」」」

「な、何が可笑しいんですか!」

「ソイツは大きいのかい?」

「大きいですよ!」

「鋭い牙とか持ってるぅ?」

「持ってますよ! 船を出してください!」

 笑われ怒るフェアリーに、先程の漁師さんが腕を組んでやってきた。
 顔は呆れ返っている。

「おい姉ちゃん。妄想なら余所でやってくれや」

「妄想!?」

「こっちは仕事中だ。姉ちゃんの遊びに付き合ってる暇はねぇ。帰んな」



「何なんですかアイツらは! ドラゴンの事を説明したのに何で笑ってられるんですか!」

 港町レザーフの通りを、フェアリーは苦情が来そうなレベルで喚く。
 近所迷惑この上ない。

「落ち着きなさいよ。あれが普通の反応よ。ドラゴンなんて見るまでアタシも信じられなかったもん」

「あなたも口添えしてくれれば信じてもらえたかもしれないのに、なんで黙ってたんですか!」

「無理だからよ。アタシが口添えしたところで信じてもらえなかったわ。大人しく船を待つしかなかったのよ」

「エタンセルの状況を教えれば信じてくれましたよ!」

「だから無理だって。アタシとあんたじゃ発言力がなさ過ぎるのよ。今すぐ信じてもらうのはどうやっても無理だわ。もっと情報が回ってからじゃないと……」

「……ぁあもう! 人間ってヤツは本当に……っ! こっちが助けてあげようとしてるのにこれだ!」

「わかったからもう休みましょう。戦うのはアタシたちなんだから。寝不足でヘロヘロだなんて笑えないわ」

 言いながらリズは通りの途中で見つけたベンチで横になった。
 こんな時間に開いている宿屋はない。
 朝までは船には乗れない。

 もう野宿しかな選択肢がなかった。
 まさか騎士の身分になってまで野宿するとは思わなかったが。
 だいたいフェアリーのせいな気がする。

「アイツらがドラゴンに襲われても守りませんからね。私は」

「はいはい……ならアタシが代わりに守るから……おやすみ」

「ふん……」

 フェアリーはもう一つのベンチに座って腕を組んで空を見上げていた。
 顔はもうカンカンで強張っている。
 どうしようもないのだから、もっと肩の力を抜けばいいのに。



 朝日が昇り始め、港は光に照らされ始めた。
 作業を終えた漁師たちはエールを片手に朝食を取りながら雑談を楽しんでいる。

「しかし残念美人だったなぁ……」

「あぁ、あの銀髪の娘か? 確かにスゲェ美人ではあったな。妄想語りさえなければ」

「そーそー、ドラゴンだっけ? みんなを根絶やしにしてくるとかなんとか」

「この空より上にいる化物なんだろ? はっは。そんなのが実在するなら見てみてぇもんだ」  

 みんなで「ちげぇねぇ」と大笑いしていると、それを掻き消すほどの轟音が海から響いた。

「なんだ!?」

 突然の事に戸惑いながらも立ち上がり、音の方を見る。
 静寂を破ったのは船が轟沈する音だった。

「船が沈んだぞ!」

 一人の漁師が叫んだ。
 大きさ20メートル幅7メートルの船が真っ二つにされて沈んでいく。
 さらに轟音が響き、別の船が粉砕した!

「な、何が起きてんだ!?」
「分かりません! うわっ!」

 今度は漁師達の近くにあった船が何者かによって持ち上げられた。

「え……」

 船底の下には、青い鱗に覆われた赤い瞳の化物がいた!
 その大きさは船と大差なく巨大だった。

「ひっ!」
「な、な……!?」

 漁師たちはいきなりの出来事に脳がパニックを起こして腰が抜けた。

 鋭い視線は一瞬で周囲を見渡し、何者も逃れられないかのような圧倒的な存在感を放っている。
 船を優に持ち上げる上半身は強靭な筋肉と鱗で覆われていた。

「な、なんだこの化物!?」

 漁師の悲鳴に反応したドラゴンは一瞬睨み、即座に船を投げ飛ばしてきた。

「「「うわああああああああああああ!」」」

 20メートルもの船が漁師たちに迫りくる!
 腰が抜けて立てない漁師たちは悲鳴を上げるしかできなかった。
 もうダメだとみんなが諦めかけたその時、一人の影が飛び出してきた!

 ドンッ!

 その影は蹴り一発で船を跳ね返し、ドラゴンの顔面にブチ当てた。

「へ!?」

 何が起こったか分からない漁師たちは現れた影を見る。
 そいつはあの時の……銀髪の残念美人!

「ふん……そっちから来てくれるとは好都合だ」
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