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第21話【妖精の役目】

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 エタンセルには人の気配が無くなりつつあるのをフェアリーは肌で感じていた。

 まるで戦争でもあったかのようの街中は火の手が上がり、黒煙が上がり、至るところで建物が倒壊している。

 これだけの惨事を招いたのは、争っているたったの二体。
 本来宇宙で戦うはずの妖精とドラゴンが地上で戦えばこうなる。

 目まぐるしいドラゴンの猛襲を、フェアリーは即席の二刀流で捌いていた。
 しかしそれも限界を迎え、二刀流の片割れが音を立てて折れた。

 折れた方を即座に捨てて戦闘スタイルを変えるフェアリーだが、一刀流など生まれて数億年一度もやったことがない。

 二刀流との練度の差は歴然であり、先程まで捌き切れていた敵の連撃が身体を掠るようになってきた。
 頬・腰・腕・腿・肩と徐々に傷が増えていく。
 
【妖精の黒衣】に施された『世界樹の加護』のおかげで致命傷は避けられているが、やられるのは時間の問題だった。

 しかしフェアリーは顔色一つ変えない。
 追い詰められているこの状況でさえ淡々とした真顔で剣を振っていく。
 
 ようやく自分の順番が回ってきたかと、フェアリーはさながら軍人の本能のように悟った。
 死ぬことに恐怖はない。

 妖精は戦っていつか死ぬだけの存在だ。
 無駄に長く生き残ってきたが、ようやく永遠とも感じていた義務から解放される。

 フェアリーは意を決し【憑依】を使おうと身を強張らせた。
 このドラゴンには勝てない。
 しかし、ただ黙ってやられてやるわけにもいかない。
 コイツを野放しにすれば、地球の全生命体が危険に晒される。

「お前も道連れだ」

 残酷なまでに冷たくフェアリーが告げた。
【憑依】を発動しようとしたその時、ドラゴンが背後から現れた影に羽交い締めにされた。

 その影の正体はイルセラの使い魔【剣聖】だった。
 なぜコイツがここに!? っと驚く間に「ドラゴンから離れてフェアリー!」と弾けたリズの声に反応して、フェアリーは咄嗟に後ろへ飛んだ。

「燃え盛る炎よ! 燦然さんぜんと輝け! 爆ぜよ破壊の力!【エクスプロード】!」

 夜空にイルセラの詠唱が弾け、ドラゴンの頭上に紅い流星が現れ落ちる。
 ドラゴンに着弾した流星は大爆発を起こし、羽交い締めにしていた剣聖を巻き込んで爆砕した。
 爆炎に飲み込まれた剣聖。
 彼の大剣が地面に突き刺さる。

「やった! 当たった!」

 爆風に耐えながらリズが言った。

 何が当たっただ! あれほど逃げろと言ったのに! こんな無駄なことを!

 フェアリーは怒りで打ち震えた。
 どうして言われた通りにしないのか?
 人間の力では例え魔法でもドラゴンにダメージを与えることなど不可能なのに。

 いっそ怒鳴り散らしてやりたかったが、爆炎の中に潜む殺気を感じてそれをやめた。

 果たして、殺気にほぼ反射的に反応したフェアリーはすぐに剣聖の残した大剣を手にして構え、残っていた直剣を棄てる。

【エクスプロード】を食らったドラゴンは、しかし何事もなかったように立ち上がって来た。
 
「嘘でしょ!?」
「あれを食らって無傷なの!?」

 驚愕するリズとイルセラに、フェアリーは怒りを通り越して溜め息が出た。

「……もう気は済んだか?」

「フェ、フェアリー……」

「これで分かったろうリズ。イルセラ。人間じゃドラゴンには勝てない。戦いにすらならないんだ」

 冷たく言い放つフェアリーに、リズとイルセラは発する言葉を失った。
 
「リズ。私はこれから【憑依】を使う」

「【憑依】って……え、ちょっと待って! それって!」

 使ったら最後。
 ドラゴンも死ぬがフェアリーも死ぬ。

「もうコイツを止めるにはそれしかない」

「待ってよフェアリー! それ使ったらあんた死ぬじゃない!」

「それがどうした」

「あんた人間嫌いなんでしょう! なんでそこまで……」

 リズの言葉にフェアリーは再三目の溜め息を漏らす。

「嫌いだよ。お前らなんか。今でも死ねばいいと思ってる」

「だったら!」

「だがな! 世界樹さまがお前たちを認める限り。私はお前たちを見捨てるわけにはいかないんだ!」

「「!?」」
 
 リズとイルセラの目が大きく見開かれる。

「それが妖精として生まれた私の役目なんだよ」

 それだけ言い切って、迫りくるドラゴンに対して【憑依】を使おうと狙いを定めるフェアリー。
 しかしリズは叫んだ。

「待ってフェアリー!」

 今度はなんだとフェアリーはリズを睨む。
 リズは走り出していた。
 どこへ行こうと言うのか?

「【憑依】はまだ使わないで! もう少しだけ粘って! 絶対に助けるから!」

 助ける?
 リズが? 私を?
 何をバカなことを……
 この上まだ何をやろうと言うのだ。

 リズのせいで【憑依】のタイミングを逃した。
 接近され過ぎた。
 舌打ちをし、フェアリーは大剣を構えた。
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