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第20話【ゼラードの名案】
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時計台が崩れたことにより、それは返って住民たちへの警告代わりとなった。
エタンセルの住民は揃って炎の加護を求め【炎の神殿】へと避難しようとしている。
フェアリーは出来るだけ遠くへ逃げろと言っていた。
こんなエタンセル内部にある【炎の神殿】では話にならない。
もともと有事の際の避難先としても設定されている場所ゆえ、彼らが城壁の外ではなくそこへ向かうのは仕方のないことだった。
「ベネディクト! 避難の鐘を鳴らして! ブロンクソンには住民を城壁の外へ誘導するよう伝えるのよ!」
館から出たイルセラがすぐにそう指示を飛ばした。
はっ! っと応じる声を後にベネディクトが駆け出していく。
まだ右も左も分からないリズはとりあえずイルセラの護衛に付いた。
自分が護衛についたところでドラゴン相手に何か出来るわけでもないのだが、主君を一人にするわけにもいかない。
出来るだけのことはしなければ!
そう決意を固めた時、先程いた三階の執務室から轟音が響いた。
壁に亀裂が走ると瞬時に破砕し、フェアリーとドラゴンが飛び出してくる。
争う両者は別の屋根に飛び移り、激しい剣戟を繰り返していく。
フェアリーがパリィを決め、ドラゴンの体幹を崩す。
その隙を逃さず、刹那に放つ秒間十もの斬撃!
斬撃は音速を越え、衝撃波を生みながらドラゴンの身体を斬り刻んでいく!
す、凄い……
フェアリー対ドラゴンの凄絶なる戦いは人間の介在を許さない。
間に入れば、即座に首が飛ぶのは明白だった。
フェアリーを援護したいのに付いて行けない。
だが、その援護さえ必要としない圧倒的なフェアリーの技量。
『本当に強かったのねあんた。凄いわ』
『別に凄いことないですよ。レベル低いんですよ人間は』
剣聖戦の後に言っていたフェアリーの言葉を思い出した。
あの時の言葉はフェアリーにとって、本当に悪気のない言葉だったんだ。
剣聖と戦った時も、あんな男みたいな口調にはなっていなかった。
つまり、まったく本気じゃなかったということか。
つくづく見せつけられるフェアリーの強さ。
しかし対峙するドラゴンは先ほどからまるでダメージを受けていないことにリズは気づいた。
フェアリーの斬撃を全て受けながら突撃してくるドラゴンはまるで無敵。
怯みはするものの、フェアリーの剣がドラゴンの鱗を抜くことはない。
そういうことか! っとリズは唐突に得心した。
おかしいとは思っていた。
あの時フェアリーが言っていた言葉――
『早く逃げろ! 私がコイツを抑えていられるのも時間の問題だ! 急げ!』
――攻め立てているのはフェアリーなのに、まるで勝てないような言い草だった。
その謎が解けた。
攻撃が通じないんだ。
あのドラゴンに対してフェアリーは決定打を持っていない。
フェアリーの斬撃は悉く鱗によって弾かれている。
宇宙で戦っていた時の話とは随分違うが、今思えばフェアリーは能力を世界樹さまに封印されている。
おそらくそれが原因でフェアリーは苦戦しているんだ。
このままではマズイ。
遠くへ逃げても、フェアリーがやられたら結局みんなドラゴンに殺されてしまう。
あんな速いヤツ相手に人間の足で逃げられるはずもない。
なんとかしないと!
フェアリーが居てくれる今こそなんとかしないと、フェアリーがやられたら総崩れになる。
「イルセラ様! このままではフェアリーがやられてしまいます!」
「なんですって!?」
「さっきからフェアリーの攻撃がまったくドラゴンに効いてないみたいなんです。このままじゃいつかフェアリーは……」
リズの視線の先で戦うフェアリーとドラゴン。
それを見たイルセラも顔を険しくして言う。
「あの子がやられたらおしまいだわ。皆殺しになる」
「はい。なにかもっと強力な武器をフェアリーに渡せばきっと勝ってくれるはずです! なにかありませんか! ドラゴンを斬れるほどの名剣とか!」
「そんなのあるわけないでしょう? だいたいドラゴンなんて存在自体が初めてなのに……」
万事休すかと、リズとイルセラが諦めかけた時、抱っこされていたゼラードが口を開く。
「ママの魔法でドカーンとやっつけよう!」
「あ……そうか!」
娘の言葉にイルセラは気づく。
リズも気づき、イルセラの異名を思い出す。
【焔の魔領主】たるイルセラはエタンセル随一の魔力を持つ。
イルセラ以上の火力を出せる人間はこのエタンセルには居ない。
彼女の繰り出す最大火力の魔法ならば、ドラゴンの防御力を突破できるかもしれない。
「でも……あんな速いヤツにどうやって当てれば……」
イルセラの悩みは当然だった。
あんな目で追えない速度で動く相手に当てるのは至難の技だ。
それこそフェアリーしか当てられないだろう。
けれど、1回だけなら確実に当てられる方法がある。
「イルセラ様! アタシに考えがあります!」
「え?」
「『使い魔』は死んでも次の日には回復するんですよね?」
真摯な視線を向けるリズに、イルセラはひとまず聞く姿勢を見せた。
エタンセルの住民は揃って炎の加護を求め【炎の神殿】へと避難しようとしている。
フェアリーは出来るだけ遠くへ逃げろと言っていた。
こんなエタンセル内部にある【炎の神殿】では話にならない。
もともと有事の際の避難先としても設定されている場所ゆえ、彼らが城壁の外ではなくそこへ向かうのは仕方のないことだった。
「ベネディクト! 避難の鐘を鳴らして! ブロンクソンには住民を城壁の外へ誘導するよう伝えるのよ!」
館から出たイルセラがすぐにそう指示を飛ばした。
はっ! っと応じる声を後にベネディクトが駆け出していく。
まだ右も左も分からないリズはとりあえずイルセラの護衛に付いた。
自分が護衛についたところでドラゴン相手に何か出来るわけでもないのだが、主君を一人にするわけにもいかない。
出来るだけのことはしなければ!
そう決意を固めた時、先程いた三階の執務室から轟音が響いた。
壁に亀裂が走ると瞬時に破砕し、フェアリーとドラゴンが飛び出してくる。
争う両者は別の屋根に飛び移り、激しい剣戟を繰り返していく。
フェアリーがパリィを決め、ドラゴンの体幹を崩す。
その隙を逃さず、刹那に放つ秒間十もの斬撃!
斬撃は音速を越え、衝撃波を生みながらドラゴンの身体を斬り刻んでいく!
す、凄い……
フェアリー対ドラゴンの凄絶なる戦いは人間の介在を許さない。
間に入れば、即座に首が飛ぶのは明白だった。
フェアリーを援護したいのに付いて行けない。
だが、その援護さえ必要としない圧倒的なフェアリーの技量。
『本当に強かったのねあんた。凄いわ』
『別に凄いことないですよ。レベル低いんですよ人間は』
剣聖戦の後に言っていたフェアリーの言葉を思い出した。
あの時の言葉はフェアリーにとって、本当に悪気のない言葉だったんだ。
剣聖と戦った時も、あんな男みたいな口調にはなっていなかった。
つまり、まったく本気じゃなかったということか。
つくづく見せつけられるフェアリーの強さ。
しかし対峙するドラゴンは先ほどからまるでダメージを受けていないことにリズは気づいた。
フェアリーの斬撃を全て受けながら突撃してくるドラゴンはまるで無敵。
怯みはするものの、フェアリーの剣がドラゴンの鱗を抜くことはない。
そういうことか! っとリズは唐突に得心した。
おかしいとは思っていた。
あの時フェアリーが言っていた言葉――
『早く逃げろ! 私がコイツを抑えていられるのも時間の問題だ! 急げ!』
――攻め立てているのはフェアリーなのに、まるで勝てないような言い草だった。
その謎が解けた。
攻撃が通じないんだ。
あのドラゴンに対してフェアリーは決定打を持っていない。
フェアリーの斬撃は悉く鱗によって弾かれている。
宇宙で戦っていた時の話とは随分違うが、今思えばフェアリーは能力を世界樹さまに封印されている。
おそらくそれが原因でフェアリーは苦戦しているんだ。
このままではマズイ。
遠くへ逃げても、フェアリーがやられたら結局みんなドラゴンに殺されてしまう。
あんな速いヤツ相手に人間の足で逃げられるはずもない。
なんとかしないと!
フェアリーが居てくれる今こそなんとかしないと、フェアリーがやられたら総崩れになる。
「イルセラ様! このままではフェアリーがやられてしまいます!」
「なんですって!?」
「さっきからフェアリーの攻撃がまったくドラゴンに効いてないみたいなんです。このままじゃいつかフェアリーは……」
リズの視線の先で戦うフェアリーとドラゴン。
それを見たイルセラも顔を険しくして言う。
「あの子がやられたらおしまいだわ。皆殺しになる」
「はい。なにかもっと強力な武器をフェアリーに渡せばきっと勝ってくれるはずです! なにかありませんか! ドラゴンを斬れるほどの名剣とか!」
「そんなのあるわけないでしょう? だいたいドラゴンなんて存在自体が初めてなのに……」
万事休すかと、リズとイルセラが諦めかけた時、抱っこされていたゼラードが口を開く。
「ママの魔法でドカーンとやっつけよう!」
「あ……そうか!」
娘の言葉にイルセラは気づく。
リズも気づき、イルセラの異名を思い出す。
【焔の魔領主】たるイルセラはエタンセル随一の魔力を持つ。
イルセラ以上の火力を出せる人間はこのエタンセルには居ない。
彼女の繰り出す最大火力の魔法ならば、ドラゴンの防御力を突破できるかもしれない。
「でも……あんな速いヤツにどうやって当てれば……」
イルセラの悩みは当然だった。
あんな目で追えない速度で動く相手に当てるのは至難の技だ。
それこそフェアリーしか当てられないだろう。
けれど、1回だけなら確実に当てられる方法がある。
「イルセラ様! アタシに考えがあります!」
「え?」
「『使い魔』は死んでも次の日には回復するんですよね?」
真摯な視線を向けるリズに、イルセラはひとまず聞く姿勢を見せた。
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